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売国奴の生存報告

シッパーテロでの戦局を有利にするため、ガスマスクの生産を参謀総長の名を騙って命令したルナッカー少尉。

ダーリンゲリラとロッキーマスドールズはそれぞれ同じくシッパーテロへと向かっていった。

その一方、ルミノスは計画を遂行する上で必ず邪魔になるであろうフェバーラン特務枢機卿の始末をしようとしていたが返り討ちにされてしまった。

ロディーヤ帝都のチェニロバーンの参謀総長の執務室。


本を読みながらコーヒーを啜っていた参謀総長の部屋にルミノスが入ってきた。


「あ…あの…参謀総長殿…」

「…」


参謀総長は読んでいた本のページに紐の栞を挟み机にそっと置いた。


「その…ガラス代のことなんですけど…」

「いや、それは別にいい、私は何があったかを聞いているんだ」

「それは…」


ルミノスは申し訳無さそうに参謀総長の机の正面に肩をすぼめて言った。


「実はあのフェバーラン特務枢機卿とですね…その…わたくしと闘争を…」

「そうか、ルミノス。

君はそいつに闘争を煽られたから乗ったのか?」

「いえ…っ!違いますっ!あいつはわたくしたちの計画を知っていたんですっ!だから早めに始末しないとって思いまして…」


参謀総長は椅子から立ち上がるとルミノスに近づいて顔の頬を触りながら言った。


「案ずる必要はない、計画を知られていようが私には敵わない。

それに実行前の心配事は殆ど杞憂だ、何も臆するな」

「しかし…わたくしは結局失敗してしまいました…不覚です…参謀総長殿の側に使える価値があるのか自分でわからなくなりました…」


そう言うと、参謀総長はルミノスの顔を引き寄せおでこ同士をくっつけた。


お互いの息が感じられるほど近い距離感で参謀総長が励ました。


「ルミノス、失敗は勇敢な精神の持ち主の宿命だ。

どんな大木だろうとはじめは小さな種子であり、実を結ぶまで枯れない木を育てるのも私の役目なのだ。

成功した人間というのは失敗してこなかった人間のことではない、凡人の倍失敗してきた人間のことだ。

ルミノス、君はもっともっと失敗していい、何度でも私がカバーしてやろう」


参謀総長乗ったのかその慈愛に満ちた言葉にルミノスの目頭が熱くなった。


「参謀総長殿…わたくしは…その、神の啓示の様な聖母の言葉を聞くために産まれてきました…っ…その…尊い御神体に口で触れてみたい…」 


顔を近づけるルミノスの唇に参謀総長は人差し指を当て静止する。


「部下を惚れさせるのは私の軍務ではない、発言と行動を慎むよう」


そう言うと参謀総長はルミノスから離れていつもの椅子に座り込む。


ギッと椅子を軋ませ、閉じていた本を手に取り続きを読み始める。


ルミノスはしばらく呆然と下あと来賓用のソファに腰掛けた。


すると参謀総長の部屋の両扉のドアが勢いよく開かれる。


入ってきたのは黒い背広のスーツを着た男性だった。


「参謀総長っ!いや〜成功しましたよガスマスクっ!言われたとおり生産を開始してシッパーテロへとちょうどさっき大量に送ったところですよっ!すみませんね〜報告しなくていいって言われたのにわざわざ直接報告なんかしちゃって〜。

でも嬉しくてついつい〜…」


その発言に二人ともポカーンとしている。


「あれ?そのソファに座っている人はじめて見ますね、新しい部下ですか?」

「おい、さっき今何て言った?」

「え?新しい部下ですかって…」

「違う、その前だ」


参謀総長が本を置いてその男に座りながら問い詰める。


「参謀総長に言われたとおりガスマスクの生産を開始したと…」


参謀総長はしばらく天井をじっと見つめ記憶を辿ってみる。


「…いや、そんなこと命じた覚えはない、その参謀総長は本当に私か?」

「え、えぇ…間違いないと思います。

会話の最中、誕生日とか生い立ちとか一応確認の為に聞きましたけどしっかり答えてましたよ。

好きな女性のタイプが責めてくれる年下が好きだと聞いたときは驚きましたけどね」

「黙れっ!丁寧に解説するなっ!」


あまりの恥ずかしさに参謀総長は顔を赤くして机に手を叩きつけた。


だがしばらくすると落ち着きを取り戻したように男に尋ねた。


「もう運んでいるのか?シッパーテロに」

「は、はい、中止しましょうか?」 

「いや、もういい、きっと間に合わない。

もう出ていってくれ、目障りだ」

「す、すいません…っ!」


男はその空気と参謀総長に耐えられずいそいそと部屋を退出した。


「…?どういうことでしょう、テニーニャの毒ガスの実戦の虞はわたくしたちしか知らないはず、秘匿していたんですから」

「そうだな、ガスマスクだけは作らないと決めていたが、一体誰だ?私を騙るそいつは…」


二人がしばらく顔を合わせたまま思案する。


「テニーニャ軍内部の情報を知り、参謀総長を騙れる程の人物、言われた通りということはそのガスマスクの性能の指示もいたんでしょう」

「…一人いたぞ、それが出来る人物が」

「ほ、本当ですか?」


参謀総長は部屋の窓へと歩き、帝都の景観を眺めながら言った。

 

「おかしいと思ったんだ、飢餓作戦中に報告された前線に食料を供給した謎の爆撃機、そして今回の毒ガスの件、縦横無尽に動き回れるのはあいつしかいない。


エル・ルナッカー少尉は生きていた、てっきり姿を見せないから、第一次渇望の夜作戦で死滅していたかと思っていたが、生きていた」


ガラスに反射した参謀総長の嬉しそうな笑みがルミノスの目にも写った。


「ルナッカー…あの生意気な…」

「生きていたか、いいぞよくやった、本格的に反抗してきて素晴らしいじゃないか。

謙虚に言おう、最高だ」


参謀総長が嬉しそうに抑揚をて言うと、ルミノスに命令する。


「ルミノス、君はあの枢機卿に見せつけろ、敵に回したのが誰であるのかを。

二十四日まで、あいつを牽制したまえ」

「言われなくてもそうします、参謀総長殿」


ルミノスが参謀総長を背にサーベルを構えた。


その光が刃に当たってキラキラと反射する。


その反射光はルミノスと参謀総長を薄く照らしたのだった。




 


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