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追い迫る戦火

フロント少佐との戦闘の末怪我をしてしまったダーリンゲリラはランヘルド市立病院にしばらく入院することになった。

ロッキーマスドールズは無事にケースをボルタージュに届けることができた。

一方、ロディーヤ帝都大空襲のあと、皇帝の勅令で参謀総長のハッケルは飛行船を三隻ほど買い取るよう言われ、奔走していた。

ロディーヤ帝都では参謀総長が飛行船を運用している会社に直接赴いてなんとか三隻確保しようとしていた。


「ここか、ここで了承を得られれば終わりだ、交渉を円滑に進めるためにルミノス、君を連れてきて本当に良かった」

「いえいえ、お役に立てる立てるのであれば何なりと」


ルミノスの手には血まみれの契約書がひらひらとあった。


「はは、交渉の熱烈さがよく伝わるいい書類じゃないか」


二人は少し大きな灰色のビルに入っていった。


ここの運用する飛行船を確保できれば三隻目となり、任務は終了だ。


「失礼する」

「いやはや、参謀総長が直々においでなさるとは…狼藉失礼」


参謀総長は応接室にて、社長の腹心らしき中年の禿げた秘書と交渉を開始した。


参謀総長が腰掛けた一人用のソファの背後には手を後ろに回して座っている秘書をものすごい気迫で見下す。


「単刀直入に言おう、君のところの飛行船を買い取りたい、やるべく安く」

「ほう、一体なぜ?」

「最近空襲があったのは知っているな、負傷者は数え切れないほどいる、それに陛下がご立腹だ。

だから仇討ちを考えている、はっきり言ってロディーヤは複葉機すらまともに量産できない航空技術後進国だ、そこで唯一、戦力となりうる飛行船を軍用に転用し、敵都ボルタージュに空襲を仕返すというものだ。

それに武装したりするのだからなるべく安く買い取りたい、それだけだ」

「はァ…」


秘書はその禿げ頭の汗をハンカチで拭くと話し始めた。


「まぁいいでしょう、その飛行船を分解して技術を公開するなどという使い方をしなければ何でもいいですよ、少し古いのでも大丈夫ですか?」

「いいやだめだ、最新のがほしい」

「いやいやいやそれはいけません、最新のが一番集客力がいいのですからそれを持っていかれるのは」


参謀総長はカバンから契約書を取り出して差し出す。


「ここにサインを」

「イヤ、ですからいけませんって…」

「最後だ、もう一度言う。

ここにサインしろ」

「いい加減にしてくださいっ!いくら軍部と言っても相応の金額を出してくれなきゃ会社としてやっていけませんっ!」

「そうか」


参謀総長は前のめりだった姿勢を崩し、一人用のソファに背中をくっつけてくつろぎながら秘書に指を指した。


D4C(安価で請けた特殊清掃)

交渉成立だ、朱肉は君の人肉で判子は小指でいいだろう」


継の瞬間、背後のルミノスが服の両袖からサーベルを取り出し、飛びかかった。


「ギャァァァァァァァァァァっっっ!!!!」


その悲惨な光景を参謀総長はニヤニヤしながら眺めていた。



会社から二人が出てくる。


「いや〜…なんとかあの秘書の服を使って刺したお陰で違う着かなくて済みました…」

「そうだな、契約書が赤紙になってしまったが」

「ふふふ、醤油一気飲みでもします?」

「兵役逃れはいかんなぁ」


そんな会話をしながら歩道を歩いていると倒壊した家屋の残骸に人々が集まっているのが目に見えた。


その群衆の中に、あの皇帝の側にいたフェバーラン・リッターがいた。


何やら瓦礫に向かって語っていた。


「神が勇敢な彼らを欲しがった、だから真っ先に死んだのです。

死んだ国民こそが真の愛国者です」


そういうと群衆たちは瓦礫に向かって頭を垂れ始めた。


「あれは何だ?カルトか?」

「あれは宗教団体を兼ねた特務機関『殉教心福党第一課特科教会』のフェバーラン特務枢機卿率いる群衆です、死んだ国民に対して哀悼の意を示しているんです、クソほど興味ありませんが」

「ふーん」


二人はそんな祈念を眺めていると、フェバーランがこちらに気付いたようだった。


特務枢機卿は群集に次の祈りへと向かわせたあと、道路の横断歩道を渡って近づいてきた。


「はじめまして、我は殉心党第一特教の特務枢機卿のフェバーラン・リッターです、ぜひお見知りおき」

「そういうのはいらないな、君のような人とはわかり会えないような気さえする」

「信仰は大切ですよ、人類史を築き上げてきたのは皇帝教皇と宗教です。

我々は国に殉じた彼らを無事救済されるよう祈念していただけです」

「国に殉じた?自殺幇助して楽しいか、クルパー教祖」


笑顔だったフェバーランの目が冷たくなり始めた。


「確かにわかりあえなさそうですね、貴方様の様は人とは。

意見が違うというより、根本的に人間性が違うようです、そうでしょう?『白の裁判所』、ルミノス・スノーパーク」

「!?」


ルミノスがその言葉を聞き戦闘態勢に入る。


「何だ貴様っ!適当なことを言っているとブチ殺…」

「我々は皇帝教皇に使える存在、それを敵対する人間は何人たりとも処さねばならない、洗いざらい探し、虱潰しに探す。

そしてようやく尻尾を掴んだ、ルミノス・スノーパーク、シンザ・ハッケル参謀総長。

以前から怪しいと踏んでいましたがここまでとは…」


フェバーランは言葉を止め、そのまま背を向けてスタスタと歩いていく。


そして捨て台詞の様に振り返ってこう言った。


「なんでも知っているんですよ」


フェバーランは立ち尽くす二人を残してその場を去っていった。


最初に口を開いたのは参謀総長だった。


「…面白いなぁ、色々嗅ぎつけてくる人間がいたものだ。

いいじゃないか、挑むというのならば大戦争だ」

「あの野郎は皇帝を教皇と同一視して権威を高めようとしているやつです、始末するなら早々に」

「ああ、見敵必殺。

次あったら審議を飛ばしてすぐ磔刑だ」


参謀総長とルミノスは一旦、契約書を持ち帰ることにしてスタスタと歩き出す。


契約書を軍部に提出すると、怪しまれながらも受理され、巨艇の飛行船三隻がチェニロバーン郊外へと運び込まれることとなった。


「とりあえずきっちり三隻用意した、武装するなら勝手にしろ」


飛行船は解体され運ばれ、だだっ広い郊外で組み立てる。


現場は参謀総長の功績の話題で持ちっきりだった。


「しかしすごいなぁ、一日で三隻買い取るなんて前代未聞だろ」

「シカも予算を大幅に下回っての契約らしいますか女性だからって舐めちゃだめだな」


その功績に皇帝は大喜びだった。


「よくやったぞ、ハッケル参謀、これで報復の日が近づく…」


部品が運ばれてくる郊外に軍服姿で現れた皇帝は子供のようにはしゃいでいる。


それを隣にいた参謀総長は傍観していた。


(三隻全部で空襲に使うのはテニーニャ弱体化がすぎる、なんとかせねば)


「皇帝陛下、私は三隻それぞれに『スィーラバドルト一号』『スィーラバドルト二号』『スィーラバドルト三号』と名付けようと思うのですが」

「ああいいぞそれでいい、私の名前を存分に使い給え!」

「それで陛下はどれに搭乗いたしますか」

「もちろん一号だ、私が直接乗る。

空襲当時、参謀総長、お前にも乗る権限を与える」

「もちろん、同伴いたします」


参謀総長は裏ではこんなことを考えていた。


(まだだ、まだこいつを殺すのは早い、戦争の責任全てを背負い終わらせていない…そうだ、いいことを考えたぞ…皇帝を殺さず、空襲を引き分けにできる方法が…)


参謀総長は構想が思い浮かぶと思わず笑ってしまった。


「そうかそうか、嬉しいか!これも参謀のおかけだ!もっと笑えっ!」


皇帝もその参謀総長の真意に気づかずに笑いを煽る。


参謀総長はそんな皇帝に嘲笑の意味を込めながら笑った。


一通り笑い終わったあと、少し冷静になった参謀総長が皇帝に訪ねた。


「空襲日時は」

「あの日しかあるまい」

「あの日?」


皇帝はその老獪そう表情をシワだらけにして笑った。


「あるだろう、クリスマスイブが。

十二月二十四日の深夜、平和ボケしているテニ公に爆弾のプレゼントを贈る。

名付けて『血の聖誕祭前夜作戦(ブラッディイブ)』だ」

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