それぞれのハイウェイスター
リリスたちダーリンゲリラ一同は次にランヘルドから十キロほどの戻ったところにあるロディーヤとテニーニャの睨み合っている巨大な塹壕へと向かうことにする。
その頃のロッキーマスドールズはメリーが収容所から持ち出した毒ガスに関する資料を奪い返すことができれば、正式な部隊として認めることになった。
そして外を散歩していたメリーをフロント少佐が見つける。
町中を散歩していたメリーはその低い声に振り向く。
だが振り返った瞬間、メリーの身体は街の路地へと吸い込まれていった。
赤いトレンチコートの少女は自身の腕をメリーの喉仏に押し込める。
「がっ……っ…!息が…っ…!」
メリーは必死に喉元を圧迫している腕を退けようと掴むがビクともしなかった。
「質問に答えろ、ガキでわかる質問だ。
毒ガスに関する資料はどこにある」
フロント少佐は喉を押しつぶしながら抵抗できないよう全身を使って動きを封じる。
そしてコートの内側から銀のオートマチックの拳銃を取り出して銃口をメリーの胸にピッタリと押し当てると、喉を解放した。
「ゲホッ…ゲホッ!…なっ…なんなんですの…あなた…」
「質問に答えろ、この銀のオートマチックが目につかないか?この銃口はすでに数センチ下の心臓目掛けて弾が発射される用意ができている。
もう一度言う、毒ガスに関する資料はどこだ」
「そっ…そんなの…知りませんわ」
少佐はやはりかと言わんばかりの表情でメリーの顔を見つめる。
「すでに国に送ったのか?それともこの街にあるのか?」
「なんのことですの…」
「…動くなよ、動くと撃つぞ」
少佐はメリーの身体を丹念に触りあげて調べまで見る。
すると上衣のポケットに何やらパンフレットの様なものが入っていることに気づく。
「この街のパンフレットか、ほうほう…おっ、このパンフレット宿の名前が書いてあるぞ、どうやらそこのオリジナルのパンフレットらしいな」
少佐が逆光の影の中でニヤリと笑った。
「そうかそうか、つまりこの宿に置いてあるんだな、よしわかった、観光の邪魔をして悪かったな、お詫びの鉛弾だ」
ドンッ!
地面に押し倒されていたメリーの脇腹に銃弾が撃ち込まれた。
その鉛弾は貫通し、内臓と肉に小さな穴を開けた。
そこから生暖かい鮮血が軍服のシミとなって広がっていく。
「う…っ嘘…です…わ…こん…な…っ…」
「嘘じゃない、全て現実だ。
そして現実は私達を未来へと導いてくれた」
少佐はパンフレットをひらひらと舞わせながら軍靴を鳴らしながら路地の出口の光へと去っていく。
内臓内に暖かな血が染み込んで来るのがわかる。
その血は消化器を逆らっての鮮やかな筋となって口からも溢れる。
辺りはメリーから漏れ出てきた血溜まりが広がっていっている。
「はっ…はやく…伝え…無くては……ここで…みなさんを…助けなければ…女が…廃ります…わ…」
メリーはなんとか動ける腕を使って血で濡れた地面を這っていく。
路地から出てゆっくりと血の跡をつけながら、近くにある公衆電話へと這い寄る。
そしてボックスの扉を開けてなんとか受話器に震える手を伸ばす。
「お金…お金が必要ですわ…」
ポケットから小銭を取り出すと、電話に掴まりながら身体を起こして、小銭を投入した。
「繋がってください…」
メリーは電話ボックス内で受話器を耳に当てたまま体育座りになった。
どんどんと湧き出てくる血を手で抑えながら。
「…もしもし?」
しばらくすると電話の向こうからいつも聞いている声が聞こえてきた。
ルナッカー少尉だ。
「あぁ…良かったですわ…無事で…」
「どうしたんだ、息が荒いぞ」
「何も言わず聞いてくださいませ…今…少尉たちのもとに毒ガスの資料を…奪いに向かっている人たちが…います…わ…うっぷっ………」
血の味のする口を必死に動かしていたが、ついに身体が耐えられず、狭い電話ボックス内で嘔吐してしまった。
メリーは構わず口を動かす。
「どうした?今すごい音がしたぞ?」
「…少尉…良く…よく聞いてください…急いで黒のケースを持って街から離れてください…何も言わず…私の言うことを…」
「よし、わかった、そこまで言うなら今から出発だ。
で、メリーはどこにいるんだ?」
「私のことはいいですから…先にシッパーテロに向かってください…あとで行きます…大丈夫です、走って疲れているだけですわ…怪我はないですから…」
「ああ、わかった、待っててやる、ずっと待っててやるから、必ず来いよ」
「はい…必ず…」
そういう少尉は電話を切った。
メリーはその音を聞くと力無く受話器を手放す。
受話器は伸び切ったコードのよりメリーの横でゆらゆら揺れる。
「私も…だめそう…少尉…私…そっちに行けそうにないです……」
メリーの視界が段々とぼやけていく。
眼球からは光がなくなっていき、瞼も重くなってきた。
「皮肉なことに…戦時中が一番…私の人生の中で…充実していましたわ…」
そしてメリーは両目を閉じると最後の力を振り絞ったかの様に殻の右目から涙を一筋流した。
「さよならです、最愛の遊撃隊」
その報を受け、少尉は黒いケースを手に引っさげて宿を出る。
「とりあえず、タクシーに乗って街を出よう」
少尉とリリスとベルヘンは街の小さな円形の広場に行くと、その縁に停まっている数台のタクシーから一つを選んで乗り込んだ。
少尉は運転手の助手席、二人は後部座席。
「お客さん、どちらまで?」
「とりあえずシッパーテロ方面へ」
「あそこは両軍が睨み合っていて危険ですよ、それにここからだと十キロ程…」
「いいから車を出してくれ」
少尉の言葉を聞いて運転手が車を走らせ、広場を去っていく。
その様子をフロント少佐は見逃さなかった。
「見つけたな、宿から出てくのが見えたから追っていたが…どうやら感づいているみたいだな」
少佐は近くのタクシーに部下のエロイスたちを引き連れて乗り込んだ。
「お客さん、どちらまで?」
そんなことを言っている運転手に少佐は銃を向けた。
「降りろ、狭いだろ」
「はいぃ〜〜っ!」
運転手は速やかに降りると運転席にフロント少佐、助手席にエロイス、後部座席にはリグニンとエッジとドレミーが座り込んだ。
「しっかりと掴まっていろっ!」
少佐がアクセルを思いっきり踏むと、四人はGによって座席に押し付けられた。
そのタクシーは荒々しくリリスたちの後を追った。
猛スピードでついて来るタクシーに、少尉たちは直ぐに敵だとわかった。
「おいっ運転席っ!もっとスピードを上げろっ!」
「だっだめですよ、速度上限を過ぎると罰せられちゃうの知らないんですか?」
すると後ろのタクシーの運転席からキラリと光る何ががベルヘンの目についた。
「危ないっ!みんな伏せてっ!」
その瞬間。
バンバンッ!
二発の銃弾がタクシーを襲った。
弾は車のガラスを割って風を入れてくる。
「ひぃぃっ!なんなんですかあなた達っ!」
「わかっただろ!スピードを上げろっ!死ぬぞっ!!」
運転手はアクセルを思いっきり踏んで少尉たちが乗るタクシーの速度を上げる。
それに連動するように少佐たちのタクシーも迫る。
するとリリスが後部座席の裏を見ると、歩兵銃の様な銃があることに気づき、それを手に取る。
「こっ…これは…」
「ああっ!それは強盗で撃退用の銃っ!」
「それ後部座席の後ろに置いていたら意味ないと思うが」
少尉の冷静なツッコミをよそにベルヘンはリリスに言った。
「リリス、その銃で撃つのよ」
「…うん、わかった」
二両のタクシーはさらに大きな通りに出る。
片側二車線の長い並木通りに出た。
リリスが座席に歩兵銃を置いて、標準を合わせる。
「狙うは人じゃない、タイヤ」
リリスが走行する前輪に目線を合わせ、そして弾丸を発砲した。
ダァンっ!
だが前輪のタイヤをハズレ、道路に当たって火花を散らしたのみだった。
リリスは急いで下さい排莢する済ますと再び標準を合わせる。
「今度こそ…」
次の瞬間。
「危ないっ!!」
途端にリリスの乗っているタクシーが横の車線に移動した。
見ると巨大なトレーラーを追い抜いている最中だった。
「おい運転手っ!しっかり前を見ろっ!」
「すすすすすすいませんっ…!」
追い抜いているトレーラーを見ていると、抜かした瞬間、隣に銀のを向けた少佐の乗るタクシーが併走していた。
「なっ!?」
少尉がそれに気づくも、向けられていた銃口から硝煙を吹いて、キラッと光る閃光が前席の横のガラスを砕いて侵入してきた。
「危なっ!!」
少尉はすかさず助手席のシートを倒して避けたが、その弾丸は運転手のこめかみにブチ込まれた。
運転手の額には赤黒い穴が空き、そこからドロドロと血が流れ始める。
「まずいっ!!」
ハンドルから手を離し、力無く寄りかかる運転手をどけ、助手席からハンドルヘ手を伸ばす。
だが運転手の死体が少尉にのしかかりなかなか思うように動かせない。
「やばいやばいやばいやばいっ!クソっ!」
少佐が運転しながら再び銃口を向けると。
「こっちだっ!!」
少佐がその声のする方向に目をやると、少尉のタクシーの後部座席から歩兵銃を構えたリリスがいた。
リリスは引き金の指を引くとガラスを突き破ってやってきた弾丸は少佐の耳をかすめた。
近距離での弾丸の通貨に鼓膜が震え、耳鳴りが痛いほど鳴る。
「くっ…!」
少佐はあまりの不快さに頭を抑えるがなおも、銃口を向けていた。
が、運転をミスした少尉が少尉のタクシーに急接近してきた。
「違う違う違うそっちじゃないっ!」
少尉はそう叫ぶも、いきなりの方向転換をした車は止まるはずもなく、そのまま少佐たちのタクシーに突っこんでいってしまった。
二台は惹かれ合うように衝突すると、絡み合うようにそれぞれ横転し、部品を撒き散らしながら停車した。
「うぅ…お前たち…大丈夫か…?」
横転し、ひしゃげた車両から少尉が頭から流血しながら這って出てきた。
「リリス、無事でーす…」
「ベルヘン、生きてまーす…」
そんな弱っている三人が見ている地面に軍靴が写り込んだ。
そして放り出さた黒いケースを手に取るった。
「相殺…だが山は超えた、あとは下るだけだ」




