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灼熱はいずれ、ぬるくなる

収容所から貨物列車にて脱走したリリスたちのダーリンゲリラとノルージア姉妹率いたロディーヤ人たち。

無事成功したかと思っとのもつかの間、武装車両にて追跡してきたグラーファル総監督と捕縛されたルミノス。

武装車両の機関銃によりせっかく脱走に成功したかと安堵していたロディーヤ人たちを撃ち殺し、更には車両に火炎瓶にて火を放つという暴挙に出た。

火の手は木製の車両を伝って車両を運んでいる機関車両へと逃げ込んだ少尉と姉妹。

だがリリスは内部に人がいないかを探り、二分後に戻ってこなかったら連結部を外すよう要求して火の海には飛び込んでいった。

身動きのできなくなっていた無精髭の男性を背中に背負うと、一歩一歩、確実に歩みだす。


肌が焦がされるような感覚に陥りながらも着々と進む。


灰燼や黒煙を吹き出しながら高速で移動する車両からまた似たような光景の車両へと移る。


「もうすぐ…もうすぐ…エルちゃんたちのもとヘ…」


しかしその足取りはだんだん遅くなっていく。

煙を吸い込んで段々と一酸化炭素中毒に陥りつつあった。

このままでは男性と共倒れになってしまう。


「どうしよう…視界が…ぼやけて…」


足取りが千鳥足になり、目の前の視界が歪んできた。

その歪みは炎から発せられる陽炎などではなく、意識の低下によるだが、判断力が低下していっているリリスにはどっちがどっちだかわからなかった。


おぼつかない足取りで進むリリスのすぐ横でガラガラっと炭と化し、車両の壁が崩れ落ちた。


それは火の粉と燃えカスを舞わす。


そして崩れた壁の向こうを見て絶望する。


列車と並行に走っている武装車両の後部座席の兵士が立って重機関銃の飲み込まれるような銃口をリリスに向けていた。


「ネズミ発っ!!見ぇーーーーんっっ!!!」


その兵士の雄叫び聞いてリリスは死を覚悟した。


それ以上進むことを諦め、朦朧とする意識の中、眼球を熱波から守るため、そして死別の覚悟を決めたためであった。


視界を遮断したため、聴覚が研ぎ澄まされる。


リリスの中耳に届いたのは、自身を掃射する機関銃のけたたましい銃声ではなく、ピンを抜いた音、そして近くで何がが爆発する音だった。


その衝撃波は囲んでいた炎を踊らせ、同時にリリスの瞼を開かせた。


その先にあったものは。


轟々と燃え盛る炎に囲まれた武装車両だった。


乗っていた兵士はその炎の中で苦しそうに乱舞している。


「…全く呆れたものですわ、火炎瓶を積むということは攻撃する覚悟と、同時に炎の中で舞踏する覚悟を持っているということ」

「よく言うもの、友達のためなら火の中水の中って」

「次は海か?勘弁してくれ」


リリスはその声のする方向を見て、安心したように笑った。


そこには短機関銃を構えているメリーとベルヘン、そして銀色に光るピンを口に咥えた少尉がいた。


三人は火の中を掻い潜ってリリスたちへと駆け寄ってきたのだ。


「…っ!!みんなっ…!」


安堵したリリスは満点の笑顔で笑うと涙腺から漏れでて行き場をなくした涙が両頬を伝って流れ落ちる。


「二分立ったら切り離せだなんて、かっこいいじゃん」

「そうだな、ベルヘンの言うとおり、しかもおかげでこの状況を打開する策が思いついた」

「ホントですか!少尉っ!」

「そうだ、だからっ!!」


メリーとベルヘンが近寄ってた武装車両に銃撃を浴びせ敵兵の行動を抑圧する。


「急いで先頭の機関車両へ向かえっ!!火の手が回る前にっ!!」


リリスの背中から男を預かると、少尉は背中にしよってリリスたちを先頭へと急かす。


「敵の銃撃に構うなっ!急いで突破だっ!!」


彼女たちは猛スピードで燃え盛る炎の中を突破していく。


軍服に炎に炙られ、焦げ付いたような匂いをまとわせながら、無我夢中で先頭へ走る。


そしてなんとか灼熱を走破して、鉄でできた機関車両へと乗り移ることができた。


火の手はもうすぐそこまで追ってきている。

機関車両も徐々に熱せられて内部の空気のが温められているのがわかる。


少尉は背負っていた男を壁際に座らせるとこう言った。


「リリスっ!一緒にこの連結部を外すぞっ!!」

「はいっ!」


リリスと少尉で機関車両と前の貨物車両を繋いでいた連結部を留めていた金具を手動で外す。


」とLの形の連結部を結束していた金属の四角い輪を外して、リリスと少尉が分離した車両の縁を両足で押し出す。


すると運搬してくれるエンジンをなくした車両はどんどんとリリスたちの乗る機関車両からスピードとゆっくり落としながら離れていく。


「まだだ、十分に離れさせてからだ」


少尉たちが火の海とともに離れていく車両を見届け、五メートル程離れた瞬間。


「今だっ!!」


リリスたちの四人はそれぞれポケットから取り出した手榴弾のピンを抜いて線路内へと投げ込む。


投げ込まれた手榴弾は枕木に引っかかって跳ねながらゆっくりと減速していく分離した車両の下へと入り込んだ。


そして。



ドォォォォォォォンッッ!!!



空気にひび割れを起こすような強い衝撃波が付近に広がる。

その衝撃波は胸を重く不快にさせるほど強烈なものだった。


炎に包まれた貨物列車は爆発の威力で線路から脱線し、そのまま腹ばいになりながらものすごい勢いで地面を滑り、失速した。


車両はまだまだ豪快に天まで火柱を立て燃えている。

辛うじて原型をとどめており、その車両は線路に十字に重なるように倒れた。


長い車両の列を薪にして燃え盛る炎とその車体ががあとから追ってきた武装車両の行く手を拒んだ。


車両を切り離し、追手を撒いた機関車両はぐんぐん線路に沿って地平の彼方へ消えるように去っていった。



グラーファルたちはその周囲を夕暮れかと見間違えるほど真っ赤に燃え盛る炎に行く手を阻まれ諦めたように武装車両を停止させた。


「してやられたな、もうこれ以上追うのはやめだ、戻って収容所を粉微塵にして隠蔽するぞ」

「グラーファル監督…ここにいた捕虜は?」

「あ?」


見ると座席には無理矢理引きちぎったような千切れ目の縄が置かれていた。


ロディーヤ人の捕虜が縄を引き裂いてどこかに身をくらましていた。


「…!あいつは、あいつはどこに…」

「ここだぜ」


隣りにいた部下の兵士の首元にルミノスの鋭利な爪の指を突き刺した。


兵士の口と鼻、貫かれた喉元から真っ赤な鮮血が吹き出る。


ルミノスは喉の内側を手で弄ると食道と頸椎を掴みかかり、そのまま毛を抜くようにズルズルと引き抜いた。


その手にはプルプルと痙攣する鮮やかなピンク色の柔らかい管と突起の多いが頸椎と若干湾曲した背骨が握られていた。


そばには喉と背中に穴が空いている死体が転がった。


「赦免などするものか、恩赦などあるものか、容赦などしてなるものか。

貴様らは許されず赦されず、臆病な死刑囚のように吊られるのだ。

このルミノスの肌に縄の擦過傷をつけた罪は誰の命よりも重く、その重みで首に縄を掛けたまま奈落へ落とされて然るべきなのだ」


ルミノスは中指を立てながら掴んでいた臓器と人骨を掲げた。


見渡すと同じように殺された死体がゴロゴロと転がっていた。


その死体は人間たちの音楽隊特有の黒い軍服をまとっていた。


その光景を見てもなおグラーファルは表情を変えなかった。


「お前、本当に何者だ?ただのロディーヤ兵じゃないな」

「私は参謀総長の代理人、審判の地上代行者。

それだけだ、命令どおり情報は確保できた。

ロディーヤ人を虐殺して周り、収容所に押し込め、使える人材を雇用して働かせる残虐非道、邪智暴虐、人面獣心の人間たちの音楽隊というテニーニャの処刑部隊が実在した、そして協力関係を結ぶことは不可能、と。

本来ならば貴様の首根っこもブチ取りたいところだが、それも惜しくなってきた。

ここまで私を敗北的に追い込んだやつは初めてだ、それに愛用のサーベルも貴様の剣で粉々にされてしまったからな、新しく新調しなければ。

尊敬すべき怨敵がいたことに少し動揺しないとな」


ルミノスはそう言うと真紅に汚れた手を軍服に擦り付けながらその場を去っていく。


「何が尊敬すべき怨敵だ、これだから馬鹿畜生遺伝子は」


燃え盛る列車とグラーファルは平野に取り残されてしまった。


煽るように吹いた風が炎を空高く踊らせ、グラーファルの黒いマントとオーバーコートをたなびかせた。

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