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反逆者を導くのは誰か?

換気口から脱出したリリスたちダーリンゲリラ、換気口の先はグラーファルの執務室だった。

そこで毒ガスの研究や複葉機の開発にフォナニー・ノルージアの姉が関わっていることを知った、しかもこの収容所で雇用されていることを知る。

リリスはフォナニー・ノルージアの姉、クリファリー・ノルージアの名前を見つけてた。


「リリス、どこにいるかわかるか?」

「この建物に隣接されている研究所に勤務って書いてある」

「そこに私のお姉ちゃんが?」

「いるかもな、ガキ…じゃないノルージア」


初めて少尉が名前をちゃんと呼んでくれた。


「…ふん、別に呼んでほしいなんて言ってないのにっ!」

「そうか、悪かったなガキ」


そんな会話をよそにベルヘンはさらに資料を漁る。


「…ねぇこれ化学式みたいだけど…なにかの兵器の詳細じゃない?」

「ホントですわ、これは…毒ガスですわね、この化学式だと、加水分解したときに人間の粘膜内で塩化水素が発生しますわ」

「どういうこと?メリー」

「つまり粘膜に塩酸が生成させるってことですわこの2HClが塩酸、もし吸い込むようなことが起これば人間の体内はボロボロに溶かされてしまいますわ。

物質名は…ホスゲンって書かれていますわね、他にも恐ろしいことが書いてありますわ、細胞の呼吸を止める血液剤、皮膚を爛れさせる糜爛剤…こんなのが前線で使われたら…」

「おいっ!ベルヘン!メリー!早く行くぞ!ガキの姉はすぐそこの研究所にいるっ!」


少尉が二人を急かす。


「メリー、そのケースに資料詰め込んで」

「当たり前ですわ、こんなもの燃やして差し上げます」


メリーがそばにあった黒いケースに兵器の詳細が書かれた資料をできるだけ詰め込む。


「早く行くぞっ!メリーっ!」

「今行きますわーーっ!!」


五人が執務室から出て、廊下を走る。


「研究所はこの施設と渡り廊下で繋がっている。

そこにいるかもしれないっ!」


少尉が先陣を切って疾走する。


だが、その行き先の角から黒いマントをはためかせて現れた。

グラーファルだった。


「どこへ行くんだ?軟禁室なら向こうだぞ」

「…っ!グラーファル…!そこをどいて!」

「ここから出ようと言うのか、この私に逆らうのか、よろしいならばこっちから切りかかってやる」


グラーファルが黒いマントで一瞬身を包み、マントを払うとその手にはエクセキューショナーズソードが握られていた。


「さぁ執行の時間だ。

必ず訪れるただ唯一の真実。

絶対に服従する、恐怖する、狂信する。

さぁ『死』が執行ボタンに手を触れ笑っているぞ。

本当の『死』を知らないお前たちに教えてくれるらしい」


グラーファルが斬りかかろうと襲おうとしたとき天井から大きな音を立ててなにかが落下してきた。

そのせいで巻き上がった煙に咳き込む。


だが落下してきたそれは大きな二本のサーベルで舞い上がったほこりを振り払った。


そこにいたのはあのルミノス・スノーパークだった。


「ゲホッゲホッ…クソ…ようやく出られた…ん?きっ!貴様ら!なぜルナッカーがここにいるっ!捕縛された奴らがってのは貴様のことだったのかっ!それになんだその軍服はっ!軍服が肌を露出してもいいと思っているのかっ!黒ハイソックスにそれに乗っかった太ももの肉っ!男を欲情させる軍服など着てどうした!気でも触れたかっ!」


ルミノスが久しぶりのルナッカーとの再会で高ぶってしまっている。

 

「お前…ルミノスか…どうしてこんなところに…」


ルミノスはそんな少尉の言葉に耳も貸さず、グラーファルの方を振り返る。


「おいっ貴様、聞きたいことが山ほどある、この施設はなんだ、貴様が移動処刑部隊の『人間たちの音楽隊』だな?示談しないか?私たちと協力しないか?」

「誰だお前、いきなりなんだ。

それにお前、その軍服は劣等人種で畜生外道遺伝子を持つチンパン野郎の軍服じゃないか。 そんなやつに用はない、とっとと山に帰れ」


ルミノスはサーベルを十字に構える。

もう戦う気満々だ。


「質問に答えろよ、1+1=の問に対してこんな問題作った最初の人類は誰だなんて騒ぎ立てるようなことするのか?だとしたら哀れだぜ、社会に馴染めずに落ちて孤独死が目に見えるからな」


もはや少尉たちの姿は視認していないようだ。


グラーファルもエクセキューショナーズソードを縦に構える。


「お前の後ろのガキ共なんかよりよっぽど寝首を取られそうな相手だ。

だがしかし、表彰しよう。

ダーウィン賞受賞おめでとう。

お前は自ら劣った遺伝子を絶滅させることに尽力いたしましたことを心からお祝いいたします。

さっさとくたばれクルパー野郎、ここから先は地獄だぞ」

「地獄なぞ造作もない、その先に訪れる楽園があるならばなおさらだ」

「地獄が心地いいか、ならお前は性根から鬼畜だな。

手管を見せろ、獄卒らしく。

そして自覚しろ。

お前はこの私に今思いつく限りのありとあらゆる責め苦を与えられながらゴミのように嬲り殺されて逝くのだと」


その言葉を聞いたルミノスは勢いよくサーベルを両手に備えたまま近づく。


グラーファルのすぐ側で下からサーベルを振り上げる。

だがグラーファルの処刑人の剣はそんなサーベルの勢いを押さえてしまう。


ルミノスは一旦下がり、再び突撃していった。


今度はサーベルの刃の背を使ってグラーファルの剣を地面に抑え込む。


そして空いたもう一本の刀を顔面に向けて差し込むが、グラーファルは顔を退けると同時に足を突き出しルミノスの腹へとブチこんだ。


ルミノスは内臓から口元まで上がってきた血を吐き出す。


「…クソッ…痛てぇじゃねえかこの野郎、本気で怒ったぞ、今までにないくらい怒った、参謀総長とその計画を馬鹿にされたとき以上の怒りが湧いてきた。

即刻死刑を宣告する、裁判抜きの処刑だ、貴様らと同じ所業だ。


『白の裁判所』、開廷。

情状酌量の余地なし、テミスの女神は私に股を開いた、これから貴様を法を下す、覚悟の準備はいいか?」


ルミノスがまたグラーファルに突っ込んでいって剣劇をくり広げる。


その激しい切り合いは文字通り火花散らすデッドヒートになってきた。


「今のうちに先に行くぞ」


少尉がリリスたちを連れてその戦いの横を走り抜ける。


それに気づいたグラーファルが静止を試みる。


「逃がすか、待て」

「それはこっちのセリフだ馬鹿野郎っ!!とっととクソゲロ撒き散らしながら死にやがれっ!!」


グラーファルがそう叫びながら背後からルミノスが襲いかかるがそれも華麗に捌いていく。


長い廊下に二人が奏でる金属音のデュエットが響き渡った。



「ここの廊下を渡るんだっ!この先が研究所だ」


研究所に入ると、実験室一つ一つを見て回った。


するとノルージアが声を上げた。


「お姉ちゃんっ!!」


その声に全員が留まる。


「ほんとっ?ノルージアちゃん?」


リリスの声には耳も貸さず、一直線に部屋へと入っていった。


その人ははチカチカと点滅する古い蛍光灯の元、木でできた長テーブルの上に何やら作図らしいものが書かれた紙を広げ、座っていた。

白衣を着たフォナニーと同じ長い艷やかで長い金髪。


少尉がその人物に近づいて確認する。


「…クリファリー・ノルージアだな」

「はい、そうです…妹をよくここまで…」

 

後ろにいたベルヘンはさらに追撃する。

 

「なぜこんなところに…?」

「私はもともとロディーヤの女子挺身隊の一員でした、しかしハッペル攻撃の際、街から逃げ出してしまったのです、そして見知らぬ土地でさまよったあと、彼女らに捕まりました」

「彼女らって、グラーファルのことか?あの監督」


クリファリーは首を縦に降ると言葉を続ける。


「はい、彼女たちはロディーヤ人の根絶を目指して作られた部隊だと聞きました、軍からも政治からも独立した部隊だと、そしてこの収容所もそんな部隊によって作られました、ロディーヤ人の虐殺の他に兵器の開発なども取り組んでいるのです、テニーニャ国内では結構一般的に知られているらしいのですが…」

「シルバーテンペストを考案したのもお前か?」

「そのとおりです。

もともと私も殺処分予定だったのですが、どうやらここでは働ける人材や有益な人材は雇用しているらしいのです、そして収容所はここだけではありません、あの人はここの監督というより全体の収容所の総監督です」


新しい情報が知らされるが驚く余地はなかった。


フォナニーとクリファリーを合流させたあと、死体運びの青年と約束していたらロディーヤ人の開放を決行しなければいけない。


「クリファリー、俺たちはまだやるべきことが残っている、ある人との約束だ、そいつのおかげで今俺たちはここにいる」

「その約束とは…?」

「この収容所のロディーヤ人の開放だ、ここに閉じ込められるとき、敷地内に貨物列車が停まっているのを見た、そこに乗り込ませここから脱出させる」


だが、クリファリーはこの収容所の事をよく知っている身でありそんなことはできるはずがないと思っているようだ。

顔が少し訝しんでいる。


「頼む、今しかできないことなんだ」

「……いやしかし…」


だがそんなクリファリーのそばにいるフォナニーは姉の目を見上げ。


「大丈夫だよっ!このお姉ちゃんたちはすっごいんだよっ!きっと一緒に行動すればできるって!」


フォナニーの目に曇りはなかった。

自信アリげのその瞳に思わず気持ちが揺らいでしまった、妹がそういうのならもはややるしかなかった。


「わかった、やろう、私達姉妹が閉じ込められている人たちを救う、あなたたちは援護をお願い」

「でも武器がないですわ」

「この下の倉庫に武器がある、急いで持っていこう」


少尉たちは姉妹と別れ、その言葉を頼りに下の階へ移動する。


鍵のかかった鍵を蹴り破って破壊すると中には短機関銃や拳銃がきれいに整理整頓されて安置されていた。


「よしっ!全員装備はいいかっ!

これよりダーリンゲリラの遊撃を開始するっ!目的はロディーヤ人を開放するノルージア姉妹の援護と列車への誘導だっ!作戦開始っ!」



一方、姉妹は野外に出て、ロディーヤ人を開放すべく奮闘していた。


「あの輸送車でフェンスに突っ込むよ」

「いいね!お姉ちゃんっ!かっこいいっ!」


姉妹が素早く輸送車に乗り込んでエンジンを吹かす、幸い鍵は刺さったままだ。


「頑張れ私頑張れ私…」


クリファリーがアクセルを踏むと、車は急発進した。


「もう少し先へっ!」


輸送車を動かし、縦横無尽に敷地内を荒らし回る。

それを見た兵士は輸送車に向け短機関銃を弾を浴びせる。


「フォナニーっ!伏せてっ!」


弾丸を次々浴びつつ、車ははロディーヤ人たちを収容している敷地のフェンスへ突っ込んでいった。


それを見たロディーヤ人たちは困惑する。


「何だ何だ…何事だ?」


突撃した車からクリファリーが降りてきて叫ぶ。


「ロディーヤの皆さんっ!!悪夢は今日で終わりですっ!!ここから脱出できる日が来ましたっ!直ぐに貨物列車まで案内しますっ!ついてきてくださいっ!!!」


その言葉を聞くと、ロディーヤ人たちは涙を流して拳を振り上げる。

ついに希望が見えた、今までにぼんやり、微か見えていた光がはっきりと見えた。


こんな喜びは殆どの人に取って初めてだった。


だが破れフェンスから出て行こうとする人たちに兵士は掃射の雨を加える。


姉妹は輸送車の影にいて当たらないが、撃たれたロディーヤ人たちは四肢に向こうの景色が見えそうなほどの大穴を開けられながら倒れていく。


「ここのままじゃ、開放した意味がない…!どうすれば…!」

「お姉ちゃん…」


姉妹が機関銃の弾を車両で防いでいる。

その時だった。



ズダダダダダダダダダダダッ!!!


突如、兵士たちへ向け、大量の鉛玉が浴びせられた。


兵士たちは吹き出ている血で地面を染め上げ、その場に倒れ込んだ。


そして姉妹はもちろん、伏せていたロディーヤ人たちがその発砲された方を見る。


そこには施設の三階あたりの窓から機銃掃射を浴びせた本人、ダーリンゲリラの隊員。


ルナッカー、リリス、メリー、ベルヘンだった。


「地獄の一丁目は広いね、地獄を経験しているなら、そのまま突き進もう」


リリスが機関銃を敵兵に向けて呟いた。


敵兵の掃射が何だ隙に、ロディーヤ人たちは姉妹に連れられて走り出した。

リリスたちの銃撃によって倒れた兵士から短機関銃を奪ってさらに増援に来た敵兵をなぎ倒していく。


「こっちです!貨物列車はこっちっ!」


クリファリーがそうロディーヤ人を導く。

その姿はまるで民衆を導く自由の女神のように写った。


リリスたちも三階の廊下から敵兵ヘ掃射を加えて加勢した。


すると階段を上がってくる足跡が聞こえた。


廊下の左右の階段から敵兵が挟み撃ちをしにやってきたのだ。


敵兵が角から顔を出そうとするのを防ぐため、端にいるメリーとベルヘンは両手サイドへ向け弾丸

を浴びせて、攻撃の隙を与えない。


敵兵も連続して浴びせられる弾丸に怯え、顔はおろか銃口すら向けられない。  


そして弾丸が切れると、階段のある角ヘ向かって手榴弾を投げ込む。


手榴弾は敵兵が潜んでいる所へ転がっていき、ドカンと爆発して、その振動で天井から砂ホコリがサラサラと落ちてくる。


爆発したあとは、敵兵の四肢とともにズダズダに破損した内臓が赤くコーティングされていた転がっていた。 


リリスたちは掃射で敵兵を抑え込みながら、姉妹率いるロディーヤ人は貨物列車の輸送車両に乗り込んでいく。  

続々と取り込んでいくロディーヤ人を追いかけてくる敵兵にも容赦なく弾丸を浴びせる。


「よしっ俺達も行くぞっ!」  


一通り始末し終えたダーリンゲリラ一行は短機関銃とメリーは毒ガスの開発資料を持って列車が発射する前になんとか乗り込もうと走り出す。  


ダーリンゲリラの任務はまだ終わっていないのだ。

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