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不本意な遭遇

『人間たちの音楽隊』のロディーヤ人絶滅収容所に捕らえられてしまったリリスたち。

雌伏し、脱走の時を待つ。

そして女子挺身隊から離脱したルナッカー少尉の姿が最近見えないことに参謀総長は危惧し始めた。

『第一次渇望の夜作戦』


自軍への飢餓作戦であり、ロディーヤ敗戦へと密かに動き出していた参謀総長のハッケルとルミノス。


だが最近のルナッカー少尉の動向に目を張っていた。



帝都の参謀本部にて。



「ルミノス、最近少し静かじゃないか?」

「ええ」


ルミノスは自慢の二本のサーベルの刃を布で拭いている。

銀の反射光が怪しく光る。


「どうにも最近、ルナッカーの姿が見えないように感じます…いいことなのか…悪いことなのかわかりませんが…」

「君の危惧するべき問題ではない、だが少し気になるな」

「前線の兵士たちに聞いてみたらどうだ?」

「いや無理だろう、あいつはもう受話器を持つ体力も残っていない」

「それもそうですね…『第一次渇望の夜作戦』が幸を成して前線は崩壊しつつあります、腹を空かせた兵士たちは近隣の市町村を襲って食料を略奪しているとも…」


作戦が円滑に進んでいることに参謀本部はご満悦と言わんばかりの表情で不敵に笑う。


「そうかそうか、面白いな戦争は、順調に破滅へと沈んでいっているな」

「負けたあとは、民衆の革命で皇帝は断頭台行き、晴れてわたくしたちが楽園の建設へと…!!」

「素晴らしい」


参謀総長は白いカップに入ったコーヒーを啜ると、一つ気になる情報があるらしく、執務机上の紙を持って。


「…最近気になったんだが、どうやら戦場近くの街や平野で黒い軍服を着た兵士らしい奴らが虐殺して回っているらしい」

「ええ…?それホントですか…?」

「ああ真偽はわからないがな、我々の知らないロディーヤの独立した部隊なのか、それともテニーニャの部隊なのか、何もわからない、だが一つわかるのはおそらく移動処刑部隊だということ」

「移動処刑部隊…?」

「何を掲げて行動しているかは知らないが、なんとかコンタクトを取りたい、ルミノス、頼めないか?」


ルミノスは刃を磨くのをやめ、少し考えたように天井を見上げたあと返事をした。


「…いいですよ、参謀総長殿の頼みならなんなりと…っ!」

「そうか、やはり頼りになる、もしテニーニャの処刑部隊なら使えるぞ」

「…っ!それは…!」

「そうだな、少し手でも結んでほしいといったことか」


参謀総長が何やら不穏な事を考えだしたようだ。

ルミノスもその真意を察すると同じく口角を上げて、立ち上がる。


「任せてください、このルミノス・スノーパーク、必ずや戦後ロディーヤに栄光を」

「頼んだ、あとついでにルナッカーのことも調べてくれ、最近連絡しても返事がない、少し寂しいぞ」

「はい…っ!」


ルミノスが敬礼をすると扉を開け退出した。


参謀総長は片手にコーヒーを持ちながら、静かになった部屋でズズズッとすすって身体を温めた。



ルミノスはツルツルに磨かれた車に乗って前線へと向かう。

白の裁判所の一員の運転手とともに。



しばらく走っていると前線付近へとやってきた。


そこは参謀総長の『第一次渇望の夜作戦』によって飢餓地獄となっていた。


骨と皮だけになった亡者の兵士がそこらじゅうに這っており、ルミノスの車へ向かって次々と手を伸ばす、そんなのが道の長さと同じぐらい続いている。


土を口に含んだまま横たわっている陸軍兵士、一匹の虫に弱々しくたかる兵士、すでに殆どの兵士の腕や顔に骨の形が浮き出ている。


「はっはっはっ乞食共め、車は食べられないぞ」


そんな兵士を尻目に車はずんずん進んでいく。

罪悪感などルミノスの心には微塵もなかった。


「こいつらは必要の犠牲だ、楽園へと私たちを導くための貢物だ、死んで然るべき存在だ、そうだろ運転手」

「ええ、もちろん」


車は飢餓地獄を抜け、しばらくは平穏な道を走っていた。

すると段々木々が深くなってきた。


「おい、少し自分勝手に生き過ぎじゃないか?こんな深くまで行く必要はないだろ、おい聞いているのか馬鹿カス」

「わ…わかっていますよ…でもあった道を辿っていたらこんなところに…」

「馬鹿が!じゃあ意味すぐ引き返せっ!遭難したらどうするんだ!」

「はいっ!でもこんなところで旋回できるほどののスペースは…」

「だったらバックで出ろ!」


運転手が進むのをやめ慎重に後ろへ車を進める。

周りには木々が立ち並びUターンできる程のスペースがないため、ゆっくりとバックで進んでいく。


と、そこでルミノスがあるものを見つける。


「おい、待てあれなんだ」

「今話しかけないでくださいっ!木にぶつかったらどうするんですか!」

「黙れっ!車を止めろっ!」

「ええっ!?どっちですか?」

「最後に言った命令を聞けっ!車を止めろっ!」


運転手が渋々車を止め、後部座席のドアを開いてそれに近づく。

そして川に架かっている鉄橋の車両に近づく。


「これは…見たことあるぞ、これはロディーヤ軍の輸送車だ、荷台や助手席に銃器もある」

「誰かが放棄したんでしょうか?」


運転手も車を降りてルミノスについていった。


「まだ、真新しいな、ここに置かれて三日といったところか?と、これは…?」


ルミノスは助手席に置いて手帳を手に取った。

 「『ダーリンゲリラ』…センスを疑う商品名だな、中は何が書かれているんだ?

なになに、『手榴弾を投げるときは腰を据え、投げない方の腕を直線に伸ばしてから投げる角度を定め、その腕に沿って投擲する』

なんだこれ、なんでこんな初歩的なことが書かれているんだ?」


ルミノスがその手帳の裏を見る、するとそこには覚えのある名前があった。


「ウェザロ・ウエニングっ!聞き覚えがあるぞ、確か挺身隊の一員だったような…名簿に書かれてあった気が…これは…ロディーヤの少女兵のものか」

「少女兵…!なんでそんなものがここに?」

「私が知るか、とりあえず持っていこう」


そんな車両を漁るルミノスたちの元へ黒い軍服を着た屈強そうな男の兵士が四人やってきた。

手には短機関銃を備えている。


「おいっ!そこで何しているっ!持っているものから手を離してそれから挙げろっ!」


ルミノスは構わず中をあさり続ける。

だが運転手は迷わず手を挙げる。


「おい貴様みっともないぞ、手を挙げるな」

「う、撃たれちゃいますよ!?早く手を挙げてくださいっ!」


仕方なくルミノスも手を挙げた。

男は二人に質問をする。


「ここへなにしに来た?その服はロディーヤ軍だな?あいつらの仲間かっ!」

「?何言ってやがる、仲間なんぞいないわ」

「この前妙な軍服を着た女兵士がここで捕まった、女四人とガキ一人だ」

「知らねぇな、子供連れの兵士がいるかよ」


男たちは銃口を二人に向ける。


「口に気をつけろ、メスガキっ!ロディーヤ人だとわかった時点でお前の人生はおしまいなだよっ!」


ルミノスは落ち着いた眼差しで男たちを睨む。


「もう限界だ、運転手、下がっていろ」


言うとおりに運転手がルミノスの後ろに下がる。


「おいっ!そこのお前っ!前にでろっ!誰が下がれといいと言った!」

「私が言った」


ルミノスは挙げていた手を下げると、軍服の袖から二本のサーベルが飛び出した。

飛び出たサーベルを両手に構える。


「お前っ!その武器をしまえっ!これは命令だぞっ!」

「棄却だっ!!教誨は済ませたか?お祈りは?

執行室のスミでガタガタ震えて首の皮一枚斬られる準備はOK?」

「何言って…」


ルミノスは放置されていた車両のボンネットを使って高く飛び上がる。


上空で一回転して男たちに狙いを定める。


「被疑人四人、執行準備…」


飛び上がったルミノス向けて全員が機関銃で弾を浴びせる。


だが華麗な刀さばきで射出された銃弾を粉微塵に砕く、キラキラと金色の破片が光って陰っていたルミノスを補色した。


「貴様らを産んだ親もろとも地獄に堕ろしてやる」


そのまま落下してきた勢いを使って、両手のサーベルをまず一人の男の両肩に突き刺す。

刃は鎖骨を砕いて腕を上げることができなくなって、だらんと垂れ下がり持っていた短機関銃は地面に転がった。


ルミノスはその男を蹴っ飛ばしつつ肩からサーベルを引き抜いて左右にいた兵士の顔面へと突き刺した。


「野郎っ!!!」


残った男は銃口を向けるも時すでに遅し、左右に刺したサーベルを横薙ぎに裂くと兵士の鼻から上の頭部は血を吹きながら飛んでいった。


そしてそのままルミノスは刃を横に流して、最後に硬い頸椎も真っ二つにして男の首を跳ねた。


一分もかからないうちに三人分の死体が出来上がった。


ルミノスは刃に付着した血を振って飛ばして、鎖骨を切られうずくまっている男に近づく。


「…たっ助けてくれ…悪かった…俺が悪かった」

「痛いか?鎖骨を切ってやった、貴様は腕に力が入らず、自力で起き上がることもできない。

「味方のところに這ってみろ、アキレス腱も切っておこう」


肩から血が吹きでる男の足首にもサーベルの先端を押し込む。


「答えろ、貴様はテニーニャ軍か?移動処刑部隊か?」


男は泣きなが頷く。

ルミノスは質問を続ける。


「目的はなんだ、ロディーヤ人の絶滅か?この先に何がある?」

「ロディーヤ人の絶滅収容所です…俺たちは軍からも政治からも独立したロディーヤ人絶滅のための部隊『人間たちの音楽隊』です…」

「ご丁寧にどうも、その収容所の監督に会うことはできるか」

「監督は絶滅主義者です…ロディーヤ人は誰であろうと容赦しない人だ…相談だとか示談だなんて考えないほうがいいぞ…」


ルミノスはそれを聞いて。


「なるほど、ロディーヤ人を絶滅するために動く部隊か、その監督とやらは話が通じるか、ぜひとも協力したいものだ」

「話聞いてたかお前っ!あの人はロディーヤ人の言うことなんか聞き入れないぞ!」

「知るか、聞いてくれなくてもそこに行く、調査しろと言われているんだ、んで貴様は用済みだ、とっととおっ死ねテニーニャ野郎」


這いつくばっていた男の首に垂直に刃を刺しこんだ。

男はコポコポと血の泡を吐いてしばらくすると動かなくなった。


「…すごいですね!私もう嬉しくって感動で…偶然処刑部隊のことしれてよかったですね!」

「そうだな、ここから先は私が行く、足手まといは車の中にいろ」

「はい、どうかご無事で…」 

「うるせえ」


ルミノスはサーベルを携えたまま、鉄橋を渡る。


「ウェザロとかいうやつも捕まっているのか、まぁどうでもいいがな」


参謀総長の命令を遵守するためにその足取りは収容所へと向かっていた。

鉄臭い匂いをまといながら。

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