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ロッキーマスドールズ(不安定な無数の人形たち)

帝都で出会った幼女、ノルージアを連れて大きな田舎町で休息をとったダーリンゲリラ。

そのままランヘルドへと複葉機のシルバーテンペストを破壊し、情報収集をするため向かうが、ノルージアの姉がシルバーテンペストに関わっていると判明する。

姉は死んでいない、生きて関与している可能性が出てきた。

ランヘルドではテニーニャ軍の残兵が武装を解除して、街に潜んでいた。

そんなテニーニャ軍にエロイスたちは嫌気がさしてきていた。

要塞陥落から数日後、小都市ランヘルドへと逃亡した五千人あまりの残兵は武装を解除して、軍服を脱ぎ市民として生活していた。


戦意もすっかり失せ、職務を放棄したのである。


ほとんどのテニーニャ兵が軍人としての名義を捨てたあとも、エロイスたちは未だ軍服を着て、敵と戦う意思を持っていた。



「みんないなくなってしまった、隣りにいた国防軍の子も軍服を残して消えていった」

「しょ…しょうがないよ…連戦連敗なんだもん…この街にいるともう戦地になんて行きたくなくなるんだよ」


エロイスとリグニンは宿の部屋の中で街の景観を眺めながら過ごしていた。


もはやテニーニャ国防軍の少女兵としての戦う意思を持っているものは少なかった。


「このままじゃだめだ…レイパスや大尉たちに顔向けできない…」

「でも…どうするのリグニン…もう一緒に戦ってくれる人なんて…」

「少なくともフロント少佐がいる、少佐なら簡単に逃げられないからな」

「少佐は今どこへ…?」

「郊外に置いてある機体を見に行ってる」


リグニンが窓を開けて風を入れる。


「エロイス、外出てみよっか、気分転換」


リグニンの手に惹かれて部屋を出る。


宿からも出て、賑やかな通りを散策してみる。


街は活気に満ちている。


色とりどりな花や旗、多種多様なで店に装いの人、衰えを知らないとでも言うような街だ。

 

「軍服を着て歩いてももはやみんな無関心だな、それにもうウチらしかいないみたい」 

「もし攻めてきたらどうするんだろう…」

「さぁ、また逃げるんじゃないのかな」


街を歩いていると、暗い路地裏に同じテニーニャの青い軍服を着た少女がいた。 

その少女はおいでおいでと手招きしている。


「リグニン…あれ…」

「…ウチの後ろにいて」


二人はゆっくりと路地裏に入っていった。

そこには一人の少女兵がいた。


「国防軍も陸軍も腐っているんねっ!こんな軍じゃまともに戦っても負けるのは火を見るよりも明らかなんね!」


路地には独特の語尾の少女が二人に話しかけてきた。


「もうみんなバラバラになってしまったんね、もう当てにならないんね、こうなったら独自に隊を組み直すしかないんねっ!」

「隊を組み直す…?」 

「わかっているんね、戦意の残った少女兵たちで新しい隊を作るんねっ!そこで未だに軍服を着て戦う意思を見せてくれている二人を誘ってみたんね」


その言葉に二人は動揺する。


「それって…テニーニャ軍を抜けるってコト…?」 

「そうなんね、どう?興味は?」 


二人は顔を見合わせてうなずく。

もはや戦うほどの意思がないテニーニャ軍の連隊にいるより、新しく戦意の高い兵で組んだ部隊のほうが良いと感じたからだ。

 

「もちろん、ぜひ入れてくれない?ウチはリグニン、こいつはエロイス」

「よろしくなんね、私はエッジ・シンテレンなんね、何卒宜しくお願いするんね」

「よ…よろしくね…エッジ」

「エロイスなんねっ!よろしく」


エッジが手をギット握って上下に振る。


茶髪で前髪が短くおでこが出ている明るい女の子、それが二人の印象だった。

キラキラと光る薄緑の目が印象的だ。


「でも三人じゃ少なくない…?少佐も誘ってみようよ」

「ナイス案なんねっ!少佐はどこへ?」

「航空機のところに…」

「了解なんね!あっあともうひとりいるんね」

「えっ!?」


路地のさらに暗いところからひっそりと出てきたのはものすごくづらそうな表情の少女兵だった。


瞼は寝落ちギリギリの人のように動き、息は荒い、眉をひそめ、汗が流れ出ている。


あまりに異様な様子にエロイスは思わず心配する。


「熱でもあるんですか…?」

「違っ…ちょっと…黙ってて…うぅっ…違っ…誤解…頭の…私…静かにして…っ!」


その女の子はブツブツとか細い声でなにかと会話している。


「この子はドレミー・ソラシド、徴兵前は普通だったんだけど、前線で過ごしているうちに人格が分裂しているみたいなんね、好きなものは日陰とジメジメした所、嫌いなものは人と日光と騒音、カビみたいな子なんね。

今ちょっと調子悪いけどしばらくしたら会話できるまでに戻るから安心なんね」


そこのは頭を抱えながら苦しそうに悶ている。


右が黒、左が緑色という独特の髪色のショートヘア、右目が緑、左目は赤という全体的に暗いカラフルな色合いの女の子だ。


泣き腫らしたような目元、場所のせいか顔自体も暗く見えてきた。


しばらくすると少し落ち着いたのか、息を整えて喋りだした。


「…ふぅ……ご…ごめんなさい…本当にごめんなさい…わざとじゃ…ごめんなさい…っ…っ」

「おっ落ち着いて、ゆっくりでいいから」


リグニンが優しく背中をさすってなだめる。


「あっ…ありがとうございます…っ私…ドレミーって言います…よろしくおねがいします…」

「ウチはリグニン、でこいつがエロイス」

「うん、よろしく」


四人はようやくお互いを知ることでとりあえずの安心は得れた。


「じゃあメンバーはこの四人と少佐なんね、チーム名はどうするんね?」


エッジが三人に何か案がないか尋ねる。

だが頭を抱えて思案するだけでそれらしいものは出ない、そしてエロイスが。


「じゃあ『ロッキーマスドールズ』なんて…」

「えっ!?ダサっ!!」

「ごっ…ごめん…」

「不完全な大量の人形たち…?独特なセンスなんね」

「っ…いいと…思いますドレミーには…思いつかない…センス…です…」

「ほんと…?嬉しい…っ!」


部隊名が決まったところで四人は路地裏から出る。


陰っていた四人に心地よい日光の日差しが当たり、それぞれの表情が鮮明に見えた。


『ロッキーマスドールズ』


戦意を失った既存のテニーニャ軍から脱却し、新しく独自のに作り上げた部隊が誕生した。



「…はっ…早く暗いとところへ…っ!」


ドレミーが早速三人を急かし始めた。


「エロイスはどこに泊まってるんね」

「私たちは近くの宿に…」

「じゃあそこの隣の部屋でも取れば?」

「それがいいんね、ドレミーも異論なしね?」

「うっ…うん…早く…」


四人は止まっていた宿に入ると階段を上がって自分の借りている部屋へと入る。


「隣なんね、騒ぐとドレミーの発作が再発するから気をつけるんね」 


エッジとドレミーは小さく手を振ると隣の部屋へと入っていった。


「はぁ、なんか疲れた…あれ?鍵開いてる…?」


エロイスたちの部屋にすでに少佐がいた


「やぁ諸君、借りているぞ」

「ちょっとっ!なんでいるんですか!」

「鍵を締め忘れた方が悪い」


エロイスとリグニンは仕方なく少佐を迎え入れ、本題へと入る。


「少佐、大事な話があります」

「ほう、なにかね言ってみたまえ」


エロイスが真剣な眼差しで少佐が腰掛けているソファへと座る。


「少佐、私達はテニーニャ国防軍を脱退します、その代わり新しいしっかりと意思を持った部隊『ロッキーマスドールズ』を作りました。

今のテニーニャ国防軍と陸軍は連敗を重ね戦意を失いつつあります、そこで私達のロッキーマスドールズという新部隊でロディーヤと戦っていこうというものです。

もし…もしよかったら少佐がその部隊の指揮をしてほしいんです…っ!」


少佐は動きを止めて二人の顔を見直す。

ふざけた物言いではない、真剣だ。


そして重い口を開く。


「…そうか、知らないうちに成長しているんだな、だがそう感じるなら他の連隊へ異動すればいい、それでも嫌か?」


少佐も肯定しつつ反論してみる。 

だが決意を固めたエロイスたちには無駄だったようだ。


「嫌です、国の為ももちろんありますが、何よりこの戦争で一番大切だと思ったのは個人の命、そして私の命です、ロッキーマスドールズは兵士としての消耗品ではなく、一人ひとりの意志と夢の為に動く、そんな部隊です。

この理想は他の兵士や上官たちには永遠にわかってはくれないでしょう、だから少佐は祖国のためではなく自分の安眠のために戦争を遂行している人間です、そんな少し変わった少佐なら…っ!少佐がふさわしいと思ったんですっ!!」


エロイスからは出たこともないような迫力の声で少佐を口説く。


少佐もそのその自分の理想のために動いてきたことを思い出した。


「ロッキーマスドールズ…自分の理想のために…私は…」

「少佐っ!お願いします!ウチからもこの通りっ!」


リグニンも少佐へ頭を下げる。


「そうか…私の理想はこの戦争を終わらせて、不安を一掃して何も思い煩わず床に就くこと…いいな、賛成だ、いいだろう私が指揮してやろう。

諸君は満足した豚で堕落を求めるか。

主に使える犬で安寧を求めるか。

それとも不満足な賢者で理想を求めるか」


少佐がそう呟いた瞬間。


「不満足な方が努力するんね、少佐」

「ひょ…ょ…ろしくお願いします…」


部屋の扉を開いて聞き耳を立てていたエッジとドレミーが少佐に顔向けをした。


「なんだ新入りか、これで全員というわけだな、さぁ諸君の理想を聞かせてくれたまえ」


少佐が全員の理想を聞こうとしたが、そんなこと彼女たちにとっては愚問だった。


「少佐、私達四人の願いは戦争を終わらせて生きて家に帰る、それだけです」

「そうか…」


四人が少佐に命令をくださいと言わんばかりの眼差しで見ている。


「いよいよか、諸君はこれよりテニーニャ国防軍を抜け、新部隊ロッキーマスドールズの兵士だ。

わかっているとは思うが、軍を勝手に抜けるということは軍務を放棄したということだ、しかも新しい部隊を勝手に作るなど、もしかしたら軍事裁判で処罰されるかもしれない、それでもいいか?」


何を今更と言わんばかりの口調で。


「もちろん…私は私が信じたものが正しいと思っています」

「いいじゃんいいじゃん!やったれっ!」

「これでテニーニャ軍ともにおさらばなんね」

「処罰…っ!こっ…怖い…けど…けど…やるしかない…っ!!」


五人揃って手を差し出す。


「ロッキーマスドールズっ!!結成っ!!」


少佐の掛け声とともに新しい非公式部隊が結成された。

こうして彼女たちはそれぞれの想いを胸に再び歩みだす。

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