ダーリンゲリラの幼兵
参謀総長の『廃園化計画』が本格に動き出した。
参謀総長は『第一次渇望の夜作戦』という自軍へと飢餓作戦を展開。
これによりロディーヤ軍の進撃速度は停止、テニーニャ軍の反撃の戦力が復活するまで停止という膠着状態になった。
少尉はこのタイミンで参謀総長の野望を打ち明ける。
そしてどこにも属さない非公式の部隊『ダーリンゲリラ』を結成した。
パスタ屋のの野外席で参謀総長の事を打ち明けた少尉はリリスたちとともにロディーヤ敗戦に抗うために挺身隊を抜け、拠点とすべく少尉の家へと向かっていた。
帝都の外れの小さなアパートの三階にの一室にルナッカーの家がある。
木製のドアを開け、部屋の電気をつける。
薄暗く橙色に照らされた部屋の中へとリリスとメリーを招く。
「ここが…少尉の部屋…」
大量の書籍で溢れ返り、乱雑に散らかっている。
「まぁ各々に座っててくれ、なにか温かいものでも飲もうか」
少尉は被っていた制帽を壁に掛けるとキッチンへ向かった。
すぐにお湯を沸かし始める。
「…あの…今どういう状況なんですか…?私達まだよく理解していないんですけど…」
少尉がコーヒーらしきものを挽きながら質問に答える。
「…参謀総長が軍費を使って、前線の兵士の兵站を止まらせる、すると兵士たちは飢餓に苦しむこととなりゆくゆくはテニーニャに攻撃されて敗走、まぁわかりやすく言うと自軍への飢餓作戦だな、これを続ければ間違いなくロディーヤは負ける」
少尉が温かいコーヒーを淹れてくれた。
ソファに座っていた二人に手渡す。
「じゃあ最初の試練は兵站の補充を私達がすることですねっ!」
「そうもいかない」
「えっ!?」
窓の外をを見つめながら少尉が答える。
「この人数だけでは前線全体への補充は不可能だ、それにお前たち移動手段が徒歩だろ、とてもじゃないがまともに補助はできない」
「ではどうすればいいのでしょう…」
頭を悩ませる二人に対し、少尉は依然として凛々しい表情を崩さない。
「飢餓作戦と言ってもすぐに効果が出るものじゃない、やろうと思えば現地調達なり略奪なりでなんとかなるからな、だからまずやるべきことはテニーニャ軍の弱体化だ、お互いが弱ければそもそも戦闘なんて起きない」
そして少尉は机の散らばった書類の中から一枚の地図を出す。
「ここだランヘルド、ここにシルバーテンペストがあると要塞跡から連絡があったらしい、ならば残った残兵もここらにいる可能性が高い。まずここにあるシルバーテンペストをすべて破壊する、できればこの航空機の情報も抜き取りたい」
ランヘルドと表記されたところに赤く印を囲む。
目標はテニーニャ軍の弱体化、ならば脅威だとわかった近くの複葉機を破壊しなければならない。
「さぁ道のりは長くなるぞ、早速出発…と言いたいところだが、まずはせっかく小規模ながら部隊作ったんだ」
少尉はダンボールからガサゴソと何かを取り出す。
「じゃ~~ん」
少尉が取り出したのは見なことのない軍服だった。
縫い込まれた白百合の記章。
黒いバザーの深緑の制帽にワイシャツに立襟の深緑色の上衣には黒いボタン四つ。
ふともも程度の長さのカーキ色のプリーツスカートと黒いニーソにブーツ。
それを見たメリーは呆れたような表情で言う。
「…まさか少尉、準備してました…?」
「あっ…バレたか」
少尉が舌を出して誤魔化す。
そしてその軍服に込められた想いを語りだす。
「いつの間にか挺身隊を抜けて参謀総長に対抗する部隊を組織するのが俺の理想になっていた。
塹壕であの計画を告げられた時から…そして待っていた、俺と一緒に戦うことのできる兵士を…っ!そしてこれはその兵士の証だ、さぁ着替えてみろ」
少尉が二人分の軍服を取り出して一式を渡す。
その真新しい服にすこしワクワクしながら、挺身隊の戦闘服を脱ぐ。
それに続いて少尉も既存の軍服を脱いで新しい部隊の軍服に着替えた。
その着替えた姿を姿見で確認する。
挺身隊の軍服よりすこし女の子らしさが増して正直可愛い。
黒いニーソに乗った唯一露出したふとももがリリスたちがちゃんと女の子だということを再確認させてくれる。
「いいですわ…っ!私にぴったりね!」
「うん…なんか動きやすい…」
好評な軍服に少尉も嬉しそうだ。
どうやらわざわざ特注したらしい。
新しい制帽もかぶり、気分もすっかり部隊の一員だ。
リリスはその軍服姿にいつまでも鏡を見つめていた。
「人を殺す軍人じゃない…人を助ける軍人…そうだ…私はきっとこういう軍人に…」
着替え終わったリリスたちを率いて自室を後にしようとする。
「戦争にも勝つ…参謀総長も倒す…誰にも知られず、そして部下も守る。
全部やらなくちゃいけないのが少尉の辛いところだな。
準備はいいか、俺はできてる」
ダーリンゲリラの軍服を身にまとったリリスたちは少尉の家を出る。
「どうやってランヘルドまで行くんですか少尉」
「アパートの裏にくすねた輸送車を置いている、それでランヘルドまで行くぞ」
三人はアパートの外へ出て、裏へと回る。
そしてそこにはお世話になっている輸送車と同じ型の車両があった。
「助手席の銃器を持つんだ、これから帝国病院へとベルヘンを迎えに行く」
「喉はもういいんですか?」
「一応喋れるまでに回復はしたらしい、荷台に乗れ、運転は俺がする」
二人は助手席の短機関銃を持つと荷台に飛び乗り、少尉は車のエンジンをかけた。
とそこに一人の幼い幼女がこっちを物陰から見ている。
長い金髪の髪、白いワンピースに白タイツ、そして赤い靴、いかにも年頃の女の子そのものだった。
「…?どうしたの…?迷子…?」
リリスが荷台から声をかける。
だが幼女はリリスに質問する。
「…お姉ちゃんたちどこ行くの…?」
「え…っ…えっとぉ…」
すかさず少尉がカバーに入る。
「俺らは保育士じゃない、迷子じゃないなら帰りな」
「保育士っ!?失礼しちゃうわっ!もう高学年よっ!」
「元気そうだな、じゃあ」
「待ってっ!」
運転席に乗り込もうとする少尉のスカートを掴む。
「あっ…!こら馬鹿っ!」
「お姉ちゃんたち少女隊の兵士さんでしょ?なんでそんな変な服着てるの?」
「お前には関係ない、ていうかスカートから手を離せっ!」
「お願いっ!私も連れて行ってっ!」
幼女は短い両手で少尉のスカートを全力で引っ張る。
少尉も顔を赤らめながら抑える。
「馬鹿っ!見えちゃうだろっ!離せっ!」
「やだっ!連れて行くって言うまで離さないっ!」
「わかったわかった!連れて行くってっ!だから手を離せっ!」
「ほんとっ!?」
幼女が手を離す。
少尉はシワになったスカートを手で整え、運転席に乗り込もうとする。
「ありがとっ!すけすけパンツのお姉ちゃんっ!」
「馬鹿っ!ありもしないことを言うなっ!」
幼女が荷台に乗り込んだ。
「…あんまり少尉困らせちゃだめだよ?」
「へへっ…ごめんなさーい、お姉ちゃんお名前なんていうの?」
「わ、私?私はリリス・サニーランド、よろしくね」
「リリねえ、じゃあお姉ちゃんの名前は?」
「メリーよ、よろしくお願いしますわ」
「メリねえ、覚えたっ!よろしくね。
私はフォナニー・ノルージアっ!八歳っ!」
少尉が運転する輸送車は帝国病院横に停車した。
「リリスたちはそのガキと一緒に荷台にいろ、ベルヘンを連れてくる」
「べぇーーーっ!だ!ガキじゃないし!ノルージアっ!」
舌をベェーっと付き出して少尉を見送った。
「あのすけすけパンツの人名前なんていうの?」
「エル・ルナッカーって言うんだ、私達は少尉少尉って言ってるけど」
「ふーん、じゃあルナねえでいっか」
ふと疑問に思ったリリスが質問する。
「…すけすけパンツってホント?」
「うん、お股のとこだけ透けてた」
少尉が病院内に入るも、中は規制線と警察でいっぱいだった。
近くの警察に事情を尋ねる。
「何だこのボヤ騒ぎは」
「ああ、ベルダ上院議員が惨殺された、同室のやつを引っ張り出して事情を聞いている、まぁなんにせよ喉がやられてるらしいから聞き出そうにも聞き出せんが」
「喉…?おい、そいつの元へ案内しろ」
「ええっ?でもあなた無関係の人でしょ」
「さっさと書類を調べろ間抜け、保護者欄にルナッカーの名前があるはずだ」
少尉は警察に案内されベルヘンのいる病室へと入る。
「この子の前が現場です…まだ掃除し終わっていないのですが…」
「俺は軍人だ、死体ぐらいなんとも思わん」
そこのベッドには警察に囲まれているベルヘンがいた。
少尉は警察をどかして、ベルヘンに近づく。
「ベルヘン、この軍服を見て思うことがあるだろう、いよいよ本格的に動き出すことになった、リリスたちは外にいる、さぁ早く」
少尉がベルヘンの手を取ってベッドから起き上がらせる。
「ちょっとちょっと困るなぁ、証人を持っていかれちゃあ」
「黙れクソふぐり、どうせ犯人は捕まらないんだ諦めろ」
「ちょっと…っ!!」
少尉がベルヘンの手を引いて、すぐに病室を飛びだした。
「…犯人はどうせ参謀総長の部下の誰かだ、捕まるわけがない」
「…右手に黒い手袋、左に白い手袋…」
「あいつか…」
少尉が病院から出ると停めてあった輸送車へと乗り込んだ。
「ベルヘン、荷台に乗ってくれ、ガキが一人いるが気にするな」
「おっけールナねえ、このお姉ちゃんはベルねえってことね」
「…振り落とされんなよクソガキ」
少尉がアクセルを前回にして病院から立ち去る。
警察たちが駆けつけた頃にはもう姿はなくなっていた。
「このままランヘルドへ向かう、そこで即戦力のシルバーテンペストを破壊して情報を軍部に教えやろう、もちろんそっとな」
新しい仲間を乗せた車両はぐんぐんと帝都を駆け抜けていったのだった。




