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ダーリンゲリラ(最愛の遊撃隊)

ベルヘンを病院へと運ぶため、帝都に帰還した少尉たちだがベルヘンは緊急入院となった。


一方、参謀総長の『第一次渇望の夜作戦』もいよいよ実行に移される時が来た。

参謀総長はルミノスに反抗的なベルダ上院議員を殺害するために議員が入院している帝国病院へと脚を運んだ。

ルミノスは乱雑に書き上げた地図を頼りに帝国病院へと向かっていた。


「ベルダ・ウィリンガー上院議員、年齢五十七歳…裕福な商業人の家系により、苦労なく過ごしてきたが、金に寄ってくる人間に苛まれ、疑い深くなった…。

老獪で老害ってとこか…嫌な人間だ、さっさとこの世からおさらばしてもらわなければ」


ルミノスの足が病院の前で止まった。

高く聳える絢爛な病院は一つのホテルのような雰囲気さえ持っている。


ルミノスは入り口から入ると、受付の看護師に質問していた。


「この赤いバラの花束をベルダ・ウィリンガーに渡したい」

「はい!ではお預かりしま…」

「違う、私は部屋の番号を知りたい」

「ええっと…それは言わぬよう院長から…」

「そうか、残念だ、死ねゴミムシ」


ルミノスは花束を抱えたまま院内一つ一つの病室をしらみつぶしに探し出した。


「ここにもいない…クソっ!どこだよ出てきやがれ上院議員っ!」


そして適当に開いた病室の中に写真と同じ顔の男がいた。


「…みっけ」


ルミノスがスタスタと病室に入ってくる。

議員を囲んでいたカーテンを捲ってベッドの目の前に立つと。


「ハロー上院議員、調子はいかが?」


ベルダ上院議員は見覚えのない顔の登場に戸惑う。


「だっ!誰だお前はっ!警察を呼ぶぞっ!」

「まぁまぁそう騒ぐなって、ほらよ薔薇の花束、乙なもんだろ」


ルミノスが上院議員の胸に花束を置く。


「一体この私になんの用だっ!」

「豚を屠りに来た、ベルダ・ウィリンガー腰巾着、この剣でなっ!」


ルミノスの軍服の袖から二本のサーベルが飛び出てきた。

すぐさま構えると、刃を議員に向ける。


「なななななな何を言っているんだお前は!この私が誰かわかっているのかっ!一体私が何をしたっていうんだっ!」

「黙れ、神に誓おうが天に誓おうが貴様の是非曲直は私の木槌が決める。


主文、貴様を死刑に処すっ!死刑執行ォーっ!」


ルミノスが二本のサーベルをクロスするように議員の喉元を貫く。

議員のベッドはたちまち薔薇の花弁と同じような赤色で染まった。


だらんと力の抜けた議員の首をめくるようにしてサーベルを持ち上げ、首を落とす。


そのまま死体は血を吹き出しながら後ろに倒れ込んでしまう。


「手向けの徒花のつもりか、気が利くなぁ」


ルミノスはカーテンを捲って血まみれのまま外へ出る。


そこで直ぐ側で入院していたベルヘンと目があった。


「あれっ?なんか見たことあるなぁ、どこでだ?」


ベルヘンは目の前で起こった現実に慄いていた。


薄っすらと記憶にある軍人、そして惨殺。

思い出せた、前に陸軍将校を連れて行った軍人だった。

右手に黒手袋、左に白手袋。

その特徴を忘れるはずがなかった。


「いい天気だな、おかげて鮮血がよく映える。

貴様は喋れるのか?喉に包帯があるから怪我してて喋れなさそうだが」 


ベルヘンが横に首を振る。


「そうだよな、ここで見たこと喋れないんじゃ安心だなぁ、文字はかけるか?」


再び横に首を振る。


「ほうただの未就学児か、別に珍しくない。

だが哀れだな、強く生きろよ」

 

ルミノスは血濡れのサーベルを持ったまま病室を出ていった。

 

ベルヘンはなんとか嘘をついて,怪我をせずに済んだ。


目の前のカーテンには血が大量に付着している。

カーテンの隙間からじわじわと血の池が湧き出てきている。


(なんなの…あの人…)


ベルヘンはその場から動くことができずにただじっと固まっているだけだった。


ルミノスは勝手口から出て病院をあとにして、そのまま人気のない路地裏へと消えていった。



そんなベルヘンのことは露知らず、しょういたちは通りのパスタ屋でスパゲティを注文して、野外の席で到着を待っていた。。


「楽しみですねっ!少尉っ!」

「そうだな…待ち遠しくてたまらないな」

「このグラタンも美味しそうですわね…」

「おう頼め頼め」


リリスたちは到着を待つ間口寂しいのを水を飲んで間に合わせていた。



「お待たせいたしましたーっ!ミートソーススパゲティが三つ」

「ありがとうございます」


店員が腕に乗せて運んできたスパゲティを卓に並べる。  


「以上でよろしかったでしょうか?」

「はい」

「ではごゆっくりー」


三人はスプーンとフォークを皿に置いて手を合わせる。


「いっただっきまーーすっ!」


熱々の麺をスプーンに乗せフォークで巻き取って口に運ぶ。

トマトソースの濃密な味わいとチュルチュルな麺が絡まって食欲をそそった。


「うんっ!おいしいっ!」


口元にソースをつけたまま喋る。


「おい、リリス、口にソース付いてるぞ」

「えっ…?」

「全く…」


少尉がわざわざ布巾で口元を拭いてくれた。


「ありがとうございますっ!少尉っ!」


リリスが一点の曇もない笑顔を少尉へ向ける。  


そのふと見せた純白な笑顔に少尉は思わず顔が熱くなり鼻血を出してしまった。


「わぁっ!!少尉の鼻からもトマトソースがっ!!」

「ン゛んんぅぅっーーっ!メリーっ!ティッシュっ!」


一時は騒然となった昼食だったものの、三人の胸に楽しい思い出として記憶されたのだった。



食事も終わり、空になった皿を端に寄せて今後の行動について話し合う。


「…そうだな、リリス、メリー一つ提案があるんだが…」  

「提案…?」 


リリスとメリーが首をかしげる。

そして少尉の口から出たものは思わぬことだった。


「…正直、もう隠しきれない…俺とベルヘンだけでは無理だ…もう潮時だな」


その言葉に二人は顔を見合わせる。


「ど…どういうことですか…?少尉…」

「今から説明する、驚かず、ただただ俺のいう事だけを信じろ」


二人は息を飲んで少尉の言葉を聞く。


「この戦争の開戦は陛下の決断ではない。あの参謀総長、シンザ・ハッケルが反テニーニャ派の政治家を暗殺してこれを口実に開戦を主張した、陛下はそれを飲み込んだんだ。

なぜ開戦を勧めたのか、それはロディーヤ敗戦の先に真の理想郷があると信じているからだ。

荒れ地から新芽のように新しい政治思想人民、それを支配しようとしているのがあの参謀総長だ」


驚くなと言われても無理な話だった。


「…っ!?そんなことあるはずが…!」


メリーも少尉に詰め寄る。


「俺もそう思いたいさ、だがあいつは直接俺に言ってきやがった、わざわざ俺の目の前で…」


リリスが少尉に質問する。


「ロディーヤ敗戦…でもそしたら参謀総長にも危険が…」

「…どういう算段かは知らないがやつは絶対の自信を持っている、わざわざ皇帝に開戦させたのも責任を全ての押し付ける為かもな…」


メリーは机を思いっきり叩いて立ち上がる。


「それじゃ参謀総長はただの売国奴…」

「それは違うと思う…あのせん妄もただの売国奴にはできない、国を愛しているからこその凶行だ」


三人の間にも沈黙が訪れる。


「…っ今まで黙っていてすまなかった…どうしても巻き込みたくなかった…許してくれ…」


「少尉…騙していたんですか…」


リリスの言葉に頭を下げていた少尉の目が見ひらく。


「違っ…そんなつもりは…っ!」

「じゃあどうして言ってくれなかったんですかっ!少尉だけで抱え込むなんて無茶なこと…」

「…すまない…罵ってくれ…罵倒してくれ…迷惑かけまいとしていた行動が迷惑になってしまっていた…俺は…」


「…顔を上げてください…少尉」


リリスの言葉通りに恐る恐る顔を上げる。


「少尉、協力させてください、その計画がなければそもそも戦争は起きなかったんですよね、なら私は少尉を責めることはできません」


少尉の目に涙が浮かんでくる。

そのリリスの言葉に賛同するようにメリーも付け加える。


「そうですわ、上司と部下の関係なのにみずくさい、なにか困ったことがあるのならば別け隔てなく教えて下さいまし」

「お前たち…ありがとう…こんな不甲斐ない私を庇ってくれて…」


少尉は目に浮かんだ涙を手の甲で拭き取る。

だがメリーはまだ疑問に残っている。


「でも少尉…その話は本当なのですか…?思い違いだとかは…」

「信じられないのも無理はない、だがベルヘンもこの計画を知ってるんだ、聞いてみるといい」


メリーは薄っすらと納得してくれたようだ。


「ではどうすれば良いのです?その参謀総長を殺せばよいのですか?」 

「いや、殺しはまずい、仮にも参謀総長だ、余計混乱が広がる。

それに下手に殺すと他にも計画を知っている側近やら高官やらが『参謀総長は理想半ばにして倒れた英雄だ、今こそ敵討ちを』ということで火に油を注ぐ事態になりかねない」 

「じゃあどうすれば…」


少尉は言葉を強くして伝える。


「このまま前線で兵士として戦っていても参謀総長を打ち倒すことはできない、今後ロディーヤ女子挺身隊を抜け、俺とお前たち三人を含めた新しい部隊を作る」 

「新しい部隊…」 

「そうだ、参謀総長の目的を妨げるための小さな部隊だ、目標は影で暗躍し、参謀総長の野望を止めること、そしてロディーヤを勝利に導き、誰にも知られずに計画をなかったことにする。それが部隊の役割」


新しく作るという部隊の説明をしたあとなぜこの部隊を決定するに至ったかを言う。


「ロディーヤ女子挺身隊は参謀総長の傘下だ、それでは思うように動けない、だからどこにも属さない新しい非公式の部隊が必要になる」


リリスは水をいっぱい飲み干すと。


「でもなんでこのタイミングで…?」

「どうやら参謀総長が本格的に敗戦へと動き出したと思われる、だからこのタイミングだ。

きっと恐ろしい計画だ、だからもうこのタイミングしかないと思った。

そして、肝心の部隊の名前だが…」


少尉がポケットから出したウェザロの手帳の表情を指さす。


「『ダーリンゲリラ』、ウェザロのメモ帳の名前だ、そしてこれからの俺たちの名前だ」


それは十二月三日のことだった。

ついに本格的な動き出した参謀総長とどこにも属さない秘匿部隊『ダーリンゲリラ』との戦いが始まろうとしていた。

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