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心情念写

テニーニャ国内ではグラーファルによる大規模なロディーヤ人のジェノサイド『赤い雪作戦』が決行されようとしていた。

敗走できたテニーニャ兵とエロイスたちは近くの小都市に逃げ込んだ。

一方要塞を今らくさせることができたロディーヤ兵は情報収集の為、アッジ要塞跡を念入りに探索していた。

山中で合流することのできたリリスとルナッカー少尉はメリーたちと合流し、山頂で一夜明かしたあと、下山していた。



「色々ありましたけどなんとから落とせてよかったですわ」


メリーも胸をなでおろして安堵する。

背中にはベルヘンが無気力に背負い込まれている。


「で、これからどうしますの私達」

「そうだな……」


他の兵士たちと山を降りながらあれこれ考えてみる。


「とりあえず、ベルヘンを帝国病院へと連れて行く、お前たちも来るか?」

「当たり前だよっ!ぜひ行かせてくださいっ!」

「当然ですわね、お友達の看病とあらば昼夜関係なく見守りますわよ、ウェザロさんはどう…」



メリーが誰かに話しかけようとした。

もういないウェザロを、つい癖で呼んでしまった。


メリーは少し俯いて。


「…もし返事が帰ってきたら…良かったのですけど…」


ウェザロはもういない。

その現実を受け入れるのに、まだ時間がかかりそうた。



「ぁ゛ぁ……っ…」


メリーに背負われていたベルヘンが何かを発する。


「こら、ベルヘン、まだ傷が癒えたわけじゃないんだ。あまり喋ると良くないぞ」


するとベルヘンはメリーの肩を不規則的に指で突き始める。


「…?どうしたのかしら?」

「なにか伝えようとしているんじゃないのか?」


トントンと変則的に突かれる指の動きに、リリスがひらめく。


「もしかして…モールス信号…?」


リリスの言葉にまさかと少尉もベルヘンの動きを観察すると、たしかにモールス信号そのものの動きに近かった。


「なんだ…モールス信号か…しかしベルヘン、いつの間にそんなもの覚えたんだ…?」


少尉が信号を解読しようと注視する。


「め し く れ …っだってさ」


その少尉の発言にリリスとメリーは思わず笑ってしまう。


「なんだそんなことか、信号使うぐらい緊急なのかと思ったが、すまんすまん、今飯出してやる、ほらっ」


少尉のポケットから干し肉が出された。


「肉を飲み込むんじゃないぞ、よく噛んで旨味だけ飲み込め」


傷が癒えていないのもあって固形物を飲み込むことはできない、代わりによく噛んで出たダシくらいなら大丈夫だと判断したのだ。


ベルヘンがメリーの肩を再度トントンと突く。


「なになに…う ま い そりゃあ良かったっ!」


そんな会話を交えながら山を降り、そして湖付近まで降りることができた。


舟が足りず留守していた帝国陸軍と挺身隊メンバーにより森は開拓され小さな駐屯地となっている。


リリスたちはその駐屯地に居座ることにした。



駐屯地は居心地が良かった。


様々な設営テントが張られ、野戦病院らしきものも作られている。

寝床も食堂らしきテントもある。


そして何より特筆すべき点は戦場記者がいたということだ。


細いひげの生えた中年くらいの男性。

着ている黒の背広にはシワひとつなく、悪い印象は抱かなかった。


そしてその男は何やら奇妙な装置を設置している。


木製の三脚に黒い蛇腹のようなものがついた箱、そしてキラキラ光るガラス玉が一つ埋めつけてある。


リリスは思わず聞いてみた。


「少尉…なんですかあれ…?」

「あぁあれか…あれは組立暗箱とか大判カメラとか言ってだな、驚くなかれ、あれで私達の姿を見ることができるんだ」

「自分を…?」

「そうだ、そんなに気になるなら撮ってもらうか?」


少尉がリリスとベルヘンとメリーを呼ぶ。


「なんだベルヘン、もう歩けるのか」


ベルヘンは静かに頷く。


少尉が背広を着た男性に写真を撮ってもらうようお願いする。

男性は嫌な顔せず受け入れてくれた。



「まずこれねーこれはテクニカルカメラっていうねー。

この遮光フードを被ってボルターにフィルムを入れてシャッターを切るねー。

ピントは蛇腹で伸縮ねー、このローターブラインドシャッターで撮れるよー」


その男性はカメラについて異様に詳しく教えてくれた。

正直リリスたちの頭では何を言っているのかちんぷんかんだ。


「あの…そんなことより写真を…」

「いいよーじゃあ全員そこには並んでー」


男性が促すとカメラの前に置いてある木製の椅子に少尉を座るよう促す。

少尉が座ると、リリスたちもそれを囲むように立つ。


「ここここーこのレンズ見ててねー。 

はい撮るよーえいっ」


その掛け声とともに撮影は静かに終わった。


あまりの質素さに全員拍子抜けしてしまった。


「あれ…?これだけですの?」

「少尉…カメラって…」


すると少尉は自信アリげに鼻高に説明して見せる。


「ここからだぞ、本命は」


その男性がフィルムケースを取り出して近くのテントへと駆け込んでいった。


「今現像しているところだ、開けちゃだめだぞ」



少尉たちはしばらくの間、撮影した椅子の周りで雑談に興じていた。


そしてテントから男はがゆっくりと一枚の紙切れを持ってやってくる。


「これだねーいい写真ねー」


そう言って見せてきてくれた写真には、椅子に腰掛けている凛々しい少尉と膝立ちして手を繋いでいるリリス。

椅子の背もたれに手を置きにこやかに笑いかけているメリーと椅子の後ろでかすかにほほえみながら正面を見据えているベルヘンがいた。


白黒で画質も悪いが十分個人として認識できるほどの完成度だ。


「すごいっ!数十分間前の私がいるっ!」

「これはすごいですわね…噂には聞いていましたけどはじめてみましたわ」


ベルヘンもじっとそのモノクロの四人を見つめている。


「ねぇおじさんっ!もう一回とってもいい?」

「二回目は有料ねー」

「えーっ!ケチィー!」


リリスがごねるも記者は納得してくれなかった。


写真を持った少尉が。


「この写真は俺が待っておこう」


メリーとベルヘンがプンスカ言いながら抗議する。


「一人じめなんてけったいですわ!」

「んんんーっ!んんっ!!」

「ベルヘン、お前は安静にしていろ」

 

少尉はその写真を見つ、静かに呟く。 


「やっぱりウェザロはいないか…楽しかったな」


写真を胸に押し当てると、昔を振り返り、その思い出をしまうかのように胸ポケットにしまい込んだ。


写真には映らなかったが、少尉の胸の中にはたしかにウェザロの姿が映し出されていた。

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