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決戦前夜

要塞の麓の湖の湖畔へ上陸用舟艇を設置し、攻勢を仕掛ける予定だった挺身隊と帝国陸軍たち。

だがその道中、参謀総長から増援の十万人の帝国陸軍が要塞を左右から挟み撃ちにすることが少尉に伝えられた。

湖を正面突破するリリスたちは知らず識らずのうちに囮になっていた。

それを聞いた少尉は信頼できるリリスたちだけに伝え、混乱に陥らないように秘匿しておくのだった。

そこに索敵しに来たテニーニャの複葉機が爆撃をけしかけ、ウェザロ・ウエニングが犠牲となった。

「只今連絡が入りましたっ!正面湖の遠く、約十キロ付近にて、ロディーヤ軍と思われる軍隊を視認しましたっ!上陸用舟艇らしき物も確認できる、どうやら湖を突破してくる模様ですっ!」


通信兵の報告により要塞内にきんちょうが走る。


「やっば、正面から来んのかよ、とりま野戦砲装填しといたほうがよくね?」


レズーアン大尉の言うことに共感した兵士たちは各砲台に砲弾を装填するよう呼びかけた。


「タイミングはいつ頃だ」

「機体により舟艇の破壊も確認できました。

戻れば十二月中旬、このまま来るのであればもう明日には」

「よし、その舟で湖を渡ったときが機会だ、各砲っ!射角を合わせろっ!」


陸軍将校の呼びかけにより、砲弾が湖に飛ぶよう射角が合わさる。


「いつでも来い、鬼畜ロディーヤ、迎え撃ってやる」



攻勢を仕掛けてくるとわかった要塞は大忙しだった。


「エロイス、この砲弾を第三砲台に運んでくれ」

「うん、リグニンは?」

「ウチはこの弾薬箱を運ばないといけない、頑張れ!落とすなよっ!」


リグニンは箱を両手に携えたまま立ち去ってしまった。


エロイスは積まれた砲弾を砲台まで全て運ぶ為、砲弾を両腕で抱えるように持ち上げる。


「えっほ…えっほ…えっほ…えっほ…」


掛け声を独り言のようにつぶやきながら砲弾をなんとか運び込んだ。


「おっ!サンキュー」


砲兵たちは砲身を磨きながら射角を合わせていた。


「ここに積んどいてよ、いくつ使うかわからないからなぁ、ありがとうね」

「いえ…ゼェ…これくらい……ゼェ…なんてこと…」


すでに行き絶え絶えだった。

それを見て労おうと思ったのか砲兵が水筒を差し出してくれた。


「はい、お茶、飲めるだけ飲んでいいよ」

「あ…ありがとうございます…ではでは」


エロイスが水筒の蓋を開け、口をつけて中のお茶を喉に流し込む。

この時期なので温くなっていなかった。


「お茶美味しかったです…ではこれで…」

「あ、待ってっ!」

「えっ…?」


エロイスが立ち去ろうとするも砲兵に呼び止められてしまった。


「俺ら女の子と会話するの久しぶりなんだよね、せっかくだから何か話さない?」


砲兵が俺の隣開いてるよと言わんばかりにトントンと座るよう促す。


「でもまだ砲弾が…」

「これだけあれば十分だって、さ、座った座ったっ!」

「そうだね…」


三人の砲兵に圧されエロイスは雑談に興じてしまった。


「かわいいね~どこ住み?」

「今まで付き合ってきた人数とか」

「お母さんかわいい?」


そのグイグイ来る質問にエロイスは戸惑ってしまった。


そこにリグニンがやってくる。


「エロイスっ!砲弾全然減ってないじゃん…ってあれ?」


会話に参加しているエロイスを立ち上がらせ、三人の砲兵に軽いゲンコツをして出ていった。


「第三はいいや、第二に運んで」

「ご、ごめん…っ!リグニン…!」

「いいよ別に、とにかく今度はお願い…てか一緒に運ぶか、もうウチやることないし」

「うん…っ!ありがとう…っ!」



仲良く砲弾を運ぶ二人を残して、レイパスとレズーアン大尉、そして多数の陸軍兵は要塞から離れ、下山していた。


「ここらへんでいいんじゃね?しらんけど」


大尉が少し平らな斜面で立ち止まる。


「私らの使命はここで敵数を減らすこと〜、レイパスがいるなら大丈夫だね♪」

「いやだー」

「ちょとひどーい!」


そこへレイパスが両手で運んできた重機関銃を設置する。


「斜面に合わせて置くの難しいなー」

「ざぁこ、貸してみっ!」


大尉が機関銃の三脚の足の長さを微調整して設置する。


「これでよし…」

「上出来かなー」


機関銃を設置し終え、あとは袋に土を詰めて即席の土嚢を作り上げた。

それを機関銃の銃身まで積み上げ、銃座を作る。


「いいねーでも二人しかいないのは不安かなー」

「気持ちはわかる、でも正面といえどこの山はでかいからなぁ、二万の兵力を割くならこれが妥当じゃね?」


重機関銃一つと短機関銃二丁、柄付き手榴弾が三十本。

正直に不安になる装備だった。


「兵站どうなってるんだーこれじゃ不安だよー」

「おいおいボブ、どうしたんだい?そんなに怖気づいて?俺は地獄のベトナムを生き抜いた帰還兵の一人だぜ?頼ってもらわにゃ困る」

「んー?」

「もーノリ悪いねぇ」



気づけば日はすっかりと沈み始めていた。

ぐんぐんと沈んでいく太陽を見送る。


「おお、いいねぇ山のサンセット」


夕日は木々を燃えるように赤く染めながら山際へ消えていった。


「さて、暗くなったし、飯でも食うかな」


そう言って大尉が取り出したのは固まった牛肉の欠片だった。


「うぅ〜ん歯ごたえ抜群、お一ついかが?」

「じゃあもらおーかなー」

「いくら払う?」

「とっととよこせ」

「ちょ…!?」


ぶんどった肉を口に放る。

胡椒で味付されて、少し辛味が滲み出てきて美味しい。


「うん…美味しい…」

「なら良かった」



二人は一枚の毛布を使って包まる。

この時期の夜の寒さと言ったらとても耐えられるものではなかった。


「おお、寒っ…まともに考えて二人だけってやべーだろ」

「そーだね、多分撃退しろってことじゃなくて時間稼げってことなんだろーけど」

「ま、いいけどよっ…とっくに覚悟はできてるし…ていうか機関銃二人でとか過労死するわ」

「ま、頑張ろー夜のうちは来ないでしょ」

「なんでさ」

「この真っ暗の中湖突破とかリスキーすぎるしー」

「そっか、ていうか暗すぎない?明かりつけたいんだけど」

「つけるなって言われてるけどー?」

「位置バレ?いいじゃんもう」

「…でもつけないほうがいいかも」

「えっ…?」


そう言ってレイパスは夜空を見上げる。

そこには無数に散りばめられたキラキラと光る星々がこちらを覗いていた。


「わぁ綺麗…」

「明かりはこれだけで十分だぜー」

「そうだなっ!めっちゃ綺麗で気に入ったっ!」


二人がはしゃぎ、口から白い息が漏れでる。

それは星空へと昇りやがて消えていった。


「エロイスは何してるんだろー」

「あのそばかす娘?さぁ?自慰じゃね?」

「コラー」 

「冗談だってわりぃわりぃ、でもしたくなるでしょ夜は」

「普段ならね、でもこんなに寒いとなんか全部の欲が凍ってする気も起きないなー」

「言えてる、無理無理こんなとこじゃ…」

「でも…今は温かいからできるかも」


大尉がその言葉に驚愕する。


「おいっ!だからっておっ始めんじゃねぇーーっぞ!」

「安心してー温かいのは毛布だけだからーというわけでちょっと借りるー」

「ちょっ…待てって…!」


レイパスが二人で包まっていた毛布を独り占めして、立ち上がって森のどこかへといこうとする。


「いつ死ぬかわからないし、今晩だけ許して」


レイパスが下をだして笑いかける。 


「…汚さないでなー」


背を向けたまま手を降ってそのまま消えていった。

銃座には毛布を剥ぎ取られた大尉だけが残されてしまった。


「おお…寒い…早く帰ってこいクソ…」


身をさすって暖を取ろうとする。

寒過ぎて眠れないかと思った大尉だったが、疲れから案外すんなり眠りにつくことができた。


そして山には静寂が訪れた。



時刻が日付を跨ぎ、十一月三十日。


いつにリリスたちが上陸用舟艇を湖畔へと運び込むことができた。


任務の達成に全員声を上げたかったが、敵陣の前ということもあって流石に自重した。


荷台にくくりつけられていた舟を下ろし、湖畔の要所要所の茂みに隠す。

湖畔全体に隠して、標的がバラバラになるようにする為だ。


「攻撃は夜明けとともに」


将校の伝令が全体に伝えられ、決戦の意を固めた。


「俺たちはこの真ん中の地点の舟に乗り込む、ちょうど俺、そしてお前たち三人だ」

「あの舟四人乗りなんですの?」 

「そうだなだから半分舟を失った分余るやつが出てきてしまう、そういう奴らは居残りだ」

「流石に泳いで渡れっていうのは無茶よね…」


少尉は三人の肩を円陣に組むよう言う。


「いよいよ明日だ、覚悟はできているな」

「はいっ!もちろんっ!ウェザロちゃんの分までがんばりますっ!」

「悔いはありませんわ」

「無事帰れるようにでも祈っておこうかな」

「良し!気合い入れて頑張るぞっ!」

「おっーー!」


挺身隊と帝国陸軍兵はそれぞれの舟の付近に移動して、睡眠をとる。


リリスたちも乗る予定の舟に寄り掛かって目を閉じた。


太陽が登るとともに攻撃が始まる。

リリスは拳をギュッと握って、決意を固めた。

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