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華に風

森の中の拠点にてアッジ要塞攻略の作戦を聞いた挺身隊と陸軍兵たち。

三十日の攻撃開始日時に間に合うよう二十九日の今日、要塞の麓の湖まで上陸用舟艇を運ぶ為、様々な準備をしていた。

二十九日の今日、天気は快晴。


帝国陸軍兵は日が登る前に起き、三十日の攻撃の日に使う上陸用舟艇を荷台に縛りつけ、軍馬で運ぶ為準備しているところだ。


そして日が昇り始める。


起床を告げるラッパが兵舎内に鳴り響く。

それを聞いた瞬間、挺身隊員たちは素早く起き上がり、寝間着から戦闘服に着替える。


フィールドグレーのの開襟の制服に、バックルのベルトで留めたズボン。

膝辺りまでののスカートと黒革のブーツ。

そしてシュッタールヘルム。


戦闘態勢はバッチリだ。


すぐに朝礼の為、将校が仁王立ちしている台の元へ駆け足で並ぶ。


規律正しく並んだ少女兵を一通り眺めると、眠気を飛ばすような張り切った声で挨拶をする。


「いよいよ攻撃前日っ!只今軍馬に上陸用舟艇を引かせる為、準備しているところだっ!もうすぐ出発の時間!しっかりと身体を休められたか?我々の働きが必ず祖国へ勝利をもたらすことと確信しているっ!一人ひとりがしっかりと意識して動くようになっ!わかったかっ!」


挺身隊たちは元気よく声を出して返事をする。

五十人程の挺身隊では戦力になるかはわからないが、それでも精一杯務めようとする姿勢を感じる。



朝早くから準備をしていた陸軍兵のおかげで上陸用舟艇はすでに運べる状態となっていた。


リリスたちも身だしなみをチェックしていよいよ出発だ。


「ゲートを開けろぉーーーーッ!!!」


呼び声とともに正面のフェンスのゲートが開かれる。


馬は将校に鞭打たれ、鳴き声を上げると、ゆっくりと歩み始める。


ゴロゴロと舟艇を載せた荷台がタイヤ痕道につけながら進む。

陸軍兵と挺身隊もそれに随伴する。


それで拠点ともおさらばだ。


「お世話になりました」


リリスが振り返って小さく言う。


何台もの上陸用舟艇が先頭を切り、その後ろは蛇の尾みたいにつけるだけ。


一日かけて、湖畔まで運ぶのだ。



運び初めて数分、ロディーヤ軍は土を固めて舗装された道を歩いていた。

まだ朝の身が縮む寒さが抜けない。


そんな寒さは雑談することで紛らわせる。


ウェザロの口からどんどん言葉が飛び出る。 


「出発の時間早いなぁ、もうちょっとゆっくりしてもいいと思うんだけど…朝食早く食べたい…」


ウェザロの言葉に誰も反応することなく黙々と足を進める。


「ベルヘン、今何時?」

「えっと、七時半」

「まだ?七時半?眠いぃ…」


するとそれを聞いていたメリーが少し強い口調でウェザロへ言う。


「ウェザロ…口を開けば愚痴ばっかり、そんなんでは気分も沈んでしまいますわ」

「でも〜…みんなで盛り上がれる話題って何かある?」


ウェザロの反論にメリーも言葉が詰まる。


「それは…ええっと…例えばヒラメとカライの見分け方とか…」

「ちょっと教えてほしいけど…って違うっ!」

「じゃあトウモロコシの粒の数は必ず偶数みたいな」


ベルヘンが二人の会話に割り込む。

すかさずリリスも挟まる。


「ゴキブリが逃げるときのIQが130超えるみたいな」

「マジ?…ってそうじゃないっ!」


思わずノリツッコミしてしまうウェザロに全員が笑ってしまった。


「そうそう、そういうのでいいんですわ。

いつものウェザロさんですわね」

「そうそう、みんないつものウェザロちゃんが見たいんだから」

「というわけよ、愚痴ばかり言っているウェザロなんて見なくないって」


ウェザロは少し気恥ずかしそうに顔を掻いて。


「そうだね…しょうがない悔い改めるね…

あ、それでトウモロコシの数の話なんだけど…」

「ちょっと!私のカレイとヒラメの話は興味ないんですのっ!」

「いでででででっ!」


メリーがウェザロの頬を軽くつねる。


そんな和気あいあいとした空気の中、足を進めていく。


しばらく歩いていたところ、行進の列が止まった。


先頭にいた少尉が詰まっている原因と思しきところへ向かう。


「なんだどうした、立ち往生か?」

「それが…」


一人の陸軍兵が指さした先には、上陸用舟艇を載せた荷台のタイヤが泥濘んだところへすっかりとハマってしまって動けずにいた。

軍馬も精一杯前に進もうと奮闘するがぬかるみからは抜け出せそうにない。


「お前らっーー荷台を後ろから押せェーーっ!!」


一人の掛け声で付近にいた数人で荷台を押す。

しかし荷台はちょっと浮いただけで、解決とまではいかなかった。


後列の兵士たちにもその事情が伝わり、進むまで待機することとなった。


リリスたちの話題のもそれに伴って変わった。


「進めないんだって、しばらく時間かかりそう…座って待ってよう」


ベルヘンは疲れからかその場にかがみ込んでしまった。

他の挺身隊も陸軍兵も列が動くまで休息を取る。


「なんで動かないの?」

「タイヤがハマったらしいわ、だから抜け出すまで待機ってこと」


ウェザロとベルヘンの会話を聞いたリリスが少し考えて提案をする。


「タイヤがハマったなら木の枝を使うとぬかるみから抜け出せるよ」


それを聞いた三人は少しきょとんとして、質問する。


「それ本当ですの?リリスさん」

「うん、タイヤのハマっているところに木の枝を束ねて置くとぬかるみから抜け出せるよ、パパとママはそうやってた」


ウェザロがそれを聞いて。


「じゃあそれを先頭に教えようよ!伝言ゲームみたいな感じで!」


ウェザロの提案でリリスの解決法を前の兵士に告げることになった。


「ねぇねぇ」


ウェザロが兵士の肩をツンツンし、耳打ちをする。


「タイヤに木の枝の束を噛ませると動かせるよって伝えて」


兵士はそれを聞いて、同じように前の兵士に伝える。


そして次々とその伝言が前へと渡り、紡がれた伝言は先頭の少尉へと繋げられた。


「あの…」

「ん?どうした?」

「ごにょごにょごにょ…」


「は?ダイヤ兄貴のタバコが混ぜる時キセルになる?何言ってるんだお前」

「私もそう思ったんですけどでもそう言えって」

「よくわからんが隠語か?とりあえず伝えるか」


少尉が先頭で荷台を動かそうと押している兵士に呼びかける。


「おーいっ!ダイヤ兄貴のタバコが混ぜる時キセルになるってよぉーーっ!!」



その言葉を聞いた一人の兵士が作業をやめて、この言われた通りに枝を拾い始める。


「おい、あの女軍人今なんて言った?」

「タイヤに木の枝の束を噛ませると動かせるってよ」

「お前耳遠いはずなのによく聞き取れたな」


偶然にも聞き取れた兵士が枝を集め始めたことで他の兵士も枝を集め始める。


「おおっやっぱり暗号みたいなものだったんだな、誰だ?こんな隠語考えたやつ」

「さぁ?誰でしょうか…」


少尉は偶然伝わった事に気づかずに荷台が動くのを待った。


兵士たちが木の枝を集め、ハマっていたタイヤに枝を噛ませる。


「よし、馬を走らせてみろ」


兵士が馬の尻を勢いよくぶっ叩く。

馬が一声鳴くと、タイヤは柔らかいぬかるみから硬い枝へと移り、さらに補助するように兵士が荷台を押す。

すると徐々に荷台が浮き出し、そのまま脱却することができた。


思わず兵士たちの間に歓声が湧き上がる。


そのまま小躍りでもしてしまいそうな程列の雰囲気が明るくなる。


「リリスのおかけね!」


ウェザロがリリスの肩へ腕を回して称える。

だがリリスは特に喜んだりはしていないような様子だった。


「違うよ、私は案を出しただけで一番すごいのはそれを実践した人だよ。

どんなにすごい設計図を作っても、それをしっかりと作り上げてくれる人がいないと出来上がらないもん」


そう否定するリリスだったがベルヘンも追うように褒める。


「リリスもそれを伝えるみんなも実践したみんなもすごいよ、みんなと同じように、喜んでいいのよ」


リリスが目をやると兵士全員が一丸となって喜んでいる。

それを見たリリスはベルヘンとウェザロの二人に腕を回してみんなと同じように笑った。


「あら、微笑ましいですわね」

「お、はぶれてしまったメリーじゃん、私の横空いてるから好きに肩組んでどーぞいでででででっ!」


メリーはウェザロの頬をつねると、渋々ウェザロの横で腕を回す。


そして四人肩を組んで揃って喜びを分かち合った。



いよいよ朝から歩き続けてきた兵士たちの脚は限界が近づいていた。


そして日も高く上がった頃、ちょうどお昼あたりの時間帯に将校が昼食を兼ねて休憩を取るよう指示した。


広く開けた草原で兵士たちはが憩いに集中する。


「見て、リリス。

あの山の山頂に薄っすら見えるでしょ?あれがアッジ要塞だってさ」


ベルヘンが指さした方向に横長い灰色の建物が見える。

あそこがテニーニャの砦。

遠方に見えるが、威圧感をひしひし感じる程度には物々しかった。


日も高くなり暖かくなったところで昼ごはんが配給される。


コッペパンにいちごジャムがひと塗りされた程度の質素なものだった。


「これだけかい、あの軍馬とかも倒れたら食べられるのかな」

「ウェザロ…あんたには情がないのかしら」

「でもベルヘンだって馬肉が食えるとなると食べるでしょ?」

「そ、そうね…そのままにしてしまうのももったいないし…」

「ほれ〜」


リリスはコッペパンをよく噛んで味を染み出させながら味わう。


「…うん、美味しい!でもバターのほうが好きなんだよね〜私」


するとそこに両手に二つパンを持った少尉が現れた。


「あっ!少尉ひどいっ!人のをぶんどるだなんて!」

「俺がそんなことするような人間に見えるのかウェザロは」

「うん」


少尉の拳がウェザロの脳天にグリグリとねじ込まれる。


「少尉、それって…」

「ああリリス、曲がりなりにも俺は少尉だからな、待遇が違う、だが…」


少尉が一つのパンを口に含むともう一つのパンを三等分しだす。


「へはにはっへひふほへひは」

「少尉、わかりませんわ」


リリスがすぐに通訳する。


「世話になっているお礼だ、って」


少尉もその完璧な翻訳にパンを咥えたままうなずく。


そして等分されたパンをリリス、ウェザロ、ベルヘンへと配った。


「ありがとうございますっ!少尉っ!」

「グリグリの慰謝ということで…」

「その黄金の精神、痺れますし憧れますわ」


三人がパンを受け取り、口に頬張る。


少尉もパンを飲み込み終わると。


「どうだ?質素ながら味があるだろ?

これだけいるのだから少なくて当然だが、少尉から分けてもらったことはあんまり言うんじゃないぞ」

「はーいっ!」


少尉は幸せそうに食べるみんなを見て自然と笑みが溢れる。


「そういえばリリス、お前最近両親にあっていないだろう?手紙でも出したらどうだ?」

「手紙…?」

「そうだ、きっと悲しんでるぞ。一通出したら返事が来るかもしれん、今度時間があったら書いてみろ」


リリスがうなずくと、ウェザロが故郷について尋ねる。


「リリスの故郷ってどんな感じ?田舎っていうのは聞いたことある気がするけど」

「うん、田舎だよ。

パパもママの畑と動物ばっかり育ててる。

時々手伝ったりして過ごしてた」


メリーも羨ましそうに。


「いいですわね〜のどかな自然に囲まれての生活、憧れますわ〜」

「ちょっと不便だったけどね、学校も通ってなかったし」

「あら、では読み書きはご両親が?」 

「うん、新聞を使って教えてくれた。

一回帰ってみたいなぁ…またパパとママをギュッてしたい」


少尉はリリスの肩に手をポンと置く。


「また会えるさ、戦争が終わったらな。

その時はご両親に俺を紹介させてくれ、言ってやる、リリスさんを嫁にくださいってな」


その発言に全員が声を上げて笑う。


「ちょ、冗談きついって少尉〜」

「さぁ?わからんぞウェザロ、冗談かどうか決めるのはリリス本人だ」


リリスは顔を赤らめ、それを隠すように手で覆う。


「えへへ…冗談でも嬉しいですよ少尉、でも強いて言うなら…」



少尉は発言の先を気にして黙り込む。


そして。



「私は、少尉との関係ならどんなものでも受け入れちゃいます」


リリスが少尉に向ってはにかんだ。

幼い子供のような無邪気な笑顔だった。


少尉はそんな天使の笑顔に思わず手が伸びる。


ウェザロがすかさず少尉を静止するように叫ぶ。


「まずいっ!このままでは少尉がリリスに甘い甘いスイートな口づけをしてしまうぞっ!

止めろっ!天使が堕ちる前にっ!!!」


ベルヘンがリリスの顔に近づく少尉を後ろから羽交い締めにする。


「イギギギギギギギギギッッッ!!!イダイっイダイっ!ごめんごめん悪かいででででで」

「あっ…ごめんなさい少尉…つい…」


ベルヘンは伸びてしまった少尉を心配そうにつつく。


「リリス、あなた無意識にそういう言葉が出てしまうの癖ですわ、気をつけなさい」

「えっ?う、うん…」


リリスの両肩に手を置いて説く。

納得したようなしていないような返事をする。


「無意識というか、ちゃんと意識して言った言葉なんだけどな…」


そう呟くも、誰の耳にも届いていなかった。


「でも、なんでだろう、少尉相手だとあんな言葉がスラスラ出てくる…なんというか…尊敬とはまた違った感情…なんて言うんだろう…もしかして…」

「恋?」

「うわっ!?」


ウェザロがいきなり言葉を遮って入ってきた。


「恋じゃない?もしかして?」

「な、な、な、なんで知ってるの!?」

「だって全部口に出てたもん。

私知ってるよ、そういうのには詳しいんだ、恋だねこりゃ」


リリスは両手を小さく否定するように振る。


「ま…まさかっ!…そんな…女の子同士だし…ありえないよっ!」


ウェザロはニヤニヤしながら話を続ける。


「今の私、チェシャ猫みたいな顔でしょ?でもこういう笑みが出ちゃうのは世界がまだまだ広いって知っているから、世界にはそういうものがあるって思ったほうがいいよ」

「ウェザロちゃん…?どういう…」

「いつ死ぬかわからないんだ、自分に正直になろうぜ」


言いたいことだけを言ってウェザロはリリスの隣でただ居座る。


リリスは胸に手を当てて、心臓の鼓動の回数を確認する。

いつもよりテンポが早い、それに少尉を思い浮かべるとより早くなる。


「やっぱり…普通じゃない、もしかしたら…もしかしたら…私は、少尉のことが好きなのかもしれない」


リリスは手を当てたまま困惑する。

今までの固定観念が壊されていくような感覚。


だがそれは決して寂しいものではなく、むしろ開放感のある、新しい新鮮な感覚を受け入れ始めた前兆を感じさせるものだった。

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