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載せるのは夢、などではなく

補給部隊とともに森の拠点へと移動した挺身隊員たち。

中規模な拠点の兵舎にて余興に浸るリリスたちに参謀総長からの命令が少尉の口から聞かされる。

一方の国防軍の少佐、ハーミッド・フロントはテニーニャの首都のボルタージュにてついに航空機の性能向上に成功した記念として催されている式典に呼ばれていた。

テニーニャ首都のボルタージュはお祭り騒ぎだった。

航空機の性能向上に成功し、今までの航空機を旧式にするほどの航空技術の飛躍を見せたのだから。


飛行可能高度は上昇し、操縦性や安定性も向上。

三葉機の開発にも成功し、もはや他国の航空技術を寄せ付けない勢いだった。


そのテニーニャ共和国の発展を祝っての式典だった。


『十一月二十日、テニーニャ陸軍が航空機を戦力にあたると発表す』

『テニーニャの飛躍、以前飛ぶ鳥を落とす勢い』

『人類有史以来の大快挙、いよいよ夢の飛行機が戦場へ』


新聞は色とりどりの言葉で着飾られていた。

それもそのはず、人類が空を飛び初めて数十年、まだまだ未熟な乗り物を兵器に転用できることが証明されたのだから。


フロント少佐はその式典に呼ばれ、開会前の大統領を待っていた。

式場の大統領会議堂前は人で埋め尽くされている。


一流の人もいれば抽選で選ばれた人。

軍人、政治家、技術者や設計者、小さな子供から老人まで。


式に呼ばれた人間に手には一人一つヘリウムの入った色とりどりの風船の紐が握られていた。

大統領の開会式の終わりとともに空へと飛ばすものだ。


少佐もその風船を持ったまま、一人で突っ立っていた。


「いつ来るんだ…全く…もう時間過ぎているじゃないか…」


演壇の前にはカメラを置いて構えている記者らしき人が大勢たかっていた。


そしていよいよ花で飾られた演壇の階段を登り、金髪で恰幅のいい大統領が現れた。

登場とともに手を振り、それに答えるように参加者は拍手を贈る。


そして設置された演壇のマイクに口を近づけいよいよ開会の挨拶を始める。



「遅刻してしまい申し訳ない、何より黒革の椅子が気持ちよく、お日柄もよく」


参加者の間で小さな笑いが起こる。


「改めまして、こんにち参加された皆さんは幸運だ。記念すべき十一月二十日の佳き日、全国民が国を挙げて待望のこの日を目の前で見ることができるのだから」


そう言うと、人力でゴロゴロと白いシーツで覆われたソレらしきものが運ばれてきた。


「これがテニーニャ軍の総力を挙げて作られた最新鋭の航空機だ。他国が多少強化した木と布で老いぼれのカラスのように低空をフラフラと飛んでいる最中、我々は鋼鉄の鋼を持つ陸鷲を生み出したのだから、ロディーヤという飛行機を飛ばした功績も大きいが、我々も負けっぱなしとはいかない。見よっ!これが叡智を結集させて作り上げた航空機だっ!!」


その掛け声とともにシーツが外される。


そこには凹み一つない銀翼の複葉、後席には大きな重機関銃が取り付けられ、武装された見たことないような航空機が存在した。


参加者からも思わずおぉっと声が漏れる。


「名付けて『シルバーテンペスト』っ!

見たかっ!ロディーヤっ!これが我々の技術力だっ!これほどの巨体でもバランスを崩さずに飛べるのだ!空は我々が治めるのだっ!高度はまだ飛行船には追いつかないが機動力が違うっ!戦闘に使えるのは航空機だ!航空機っ!今回はそんな歴史的偉業を達成した軍部とそれを支えてくれた全国民を祀る日なのだっ!

これにてっ!開っ!会ィーーーっ!」



ダイカス大統領の呼び声とともに手に持った風船が空を舞う。


青いキャンパスに花弁を散らしたように飛んで行き、新たな時代を告げることとなった。



その華々しい光景をカメラは白黒で映し、その一瞬を切り取った写真が新聞に載せられて次々と刷られるのであった。


参加者たちは用意された食事やワインを味わったり、銀色の複葉機『シルバーテンペスト』を間近で見たりしている。


特に親しい人がいないフロント少佐は一人、タバコを咥えてベンチに座っている。  



「テニーニャ初の軍用機か、ロディーヤは開発を進めているとかの情報はないからもう飛行船飛ばして満足しているんだろうな、それにしても…」


少佐が人々の注目の的となっている航空機に目をやる。


「戦場の空を飛べるなんて夢みたいだな、色々な戦術が実現するぞ。

空中から掃射したり、爆弾だって落としたたりしてもいいかもしれん…もっともっと行くと、航空機同士で戦ったり時代も来るのか…?」


少佐は期待と嬉しさの反面、少し嫌な予感がしていた。


「…そうだよな、もしこの複葉機が成果を上げればロディーヤの奴らも同じようなのを作るはずだ。

となるとやはり空中で戦うことになるよな、空中で戦うならより頑丈に、より速く…そしてさらにそれを上回る機体が出てきたりして…あれ…?」


少佐は銀翼の複葉機を眺め、一つの仮説にたどり着いてしまった。


「…戦争これっていつ終わるんだ?」



技術の進歩はより多く、悲惨な戦争となることを静かに物語っていた。

そして少佐は薄々勘付き始める。


「…ふっ少し心配しすぎたな、こんな暗いことを考えているのは私だけかもしれん。

今は人類の進歩を心から喜ぶべきだ」


そう言い、タバコの灰をトントンと落とすと突如、三つの黒い影が風を纏って式場を横切った。


少佐のボサボサの黒髪も揺らし背後へと飛んで行く。


少佐はその影を追い、立って振り返った。


見ると空を飛んでいたのは三機の『シルバーテンペスト』。

一機の前席と機関銃の後席にパイロットが乗り込んでいる。

後席のパイロットは紙吹雪を町中に降らせながら首都ボルタージュの上空を悠々と飛び回った。


首都は歓声と紙吹雪の彩りで包まれる。


「全国民よっ!これが喜ばしきテニーニャの大いなる飛躍だっ!空を制するものが戦争を制するのだっ!」


規則正しい飛び回る機体を少佐は複雑な表情で見ていた。


すると少佐の耳に軍人同士の会話が入ってきた。


「すげぇな、いつか実戦に投入するんだろ?」

「いや、もうすでにアッジ要塞付近に運ばれているらしいとの事だ、さてさてどうなるか」


少佐はその話を聞き、テニーニャのアッジ要塞への力の入れようの凄まじさを確認した。


「私も扱えるようにならなければいけないのか…骨が折れるぞこれは」


少佐であるフロントも操縦する可能性のだが、未知の乗りものということもあり少し不安がる。


「だが航空機を戦場でどう使うのかはすでに検討がついてある、後でダイカスに案を話そう」


少佐は吸い終わったケシモクをその場に捨てると、靴底で火をズリズリと擦り消した。

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