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血で書き綴る判決文

戦争もいよいよ終わりへと近づいていた。

リリスたちは『夏の聖戦作戦』と名付けた作戦を敢行するために敵都ボルタージュへと潜入、ロディーヤの侵攻を防いでいたテニーニャ部隊も次々降伏し、残るはエロイスたちの武装聖歌隊の部隊のみとなり、包囲されていた。


もはやボルタージュ近郊まで軍を進めたロディーヤ軍の師団の指揮を執っていたギーゼ大将は勝利を確信していた。


設置されたロディーヤ軍の榴弾砲陣地を眺められる丘の上でルフリパ中将とともに朝を迎えていた。


「もうすぐ勝利が来るぞ、敗北とともに」


ギーゼを横から照らすように東から太陽が登り始めた。

燦々と光る朝日が二人の少女の顔を照らしている。


「見てくださいよ、遠くに敵都があります、百年前、ロディーヤ人が景色に私達は立ってるんですねぇ」

「そうだな、しぶとい国だったが、ついに滅びるか」


ルフリパは嬉しそうにほほえみながら遠くを眺める。


すると爽やかな風が吹き辺りの木々や草を揺らす。

サラサラと音を立ててざわめく草木の中、ギーゼは丘を降り始める。


「さぁ行こうか、終末までもうすぐだ」


ギーゼは手を伸ばしてルフリパを誘う。


「…はいっ」


ルフリパはそっと差し伸べられた手に自分の手を重ねるように置く。

そしてギーゼの手をギュッと握ろうとした瞬間、視界が真っ赤に染まった。


「えっ…」


ギーゼは何が起きたかわからない表情を浮かべる。

突然の出来事を把握するのにしばらく時間がかかった。


ルフリパは自分の腹部を見ると、身体から鋭利な刀身が赤い液体を纒って飛び出ている。


「あっ…ぁ…っ…」


腹から生暖かい血液が下腹部や腿を伝って流れ落ちる。

あまり権威高くならないよう、前線の兵士と同じ野戦服がみるみるうちに赤く染まるのだ。


するとその刀身は腹へ引っ込むと力なくルフリパは前のめりに倒れた。


ギーゼはその身体をそっと抱きかかえる。


「ルフリパ…?」


支えている彼女の身体から暖かな血液が手に伝わる。


ギーゼの顔は心ここにあらずといった表情であったが、その顔はみるみるうちに険しくなりやがて目からルフリパの流血と同じぐらいの温度の涙が頬に流れた。


「ルミノスゥーーーっ!!!!」


ギーゼは叫んだ。

丘を下り始めていたギーゼを見下ろすように丘に立っていた。


真っ赤涙がサーベルを片手に持った白い軍服ワンピースの人物。

 

『白の裁判所』総指揮官のルミノス・スノーパークだった。


「お前っ…お前ぇっ!やってくれたなぁっ!!」

 

珍しく語気を強めて激高するギーゼ。

ルミノスはそんな彼女を達観したような無表情で見下ろしていた。


「ルフリパ…っ!大丈夫かっ!」


ギーゼはうつ伏せに寄りかかっている彼女の身体を翻し、顔を見る。


ルフリパは口から血をタラタラと流し、腹部からは真っ赤なシミを作っている。  


顔に表情は無く、目には光がなかった。


「ルフリパ…ルフリパぁっ!」

「たっ…大将…ぅ…」


かすかに動いた口からは彼女の名を呼んでくれた。

それを聞きギーゼは更に呼びかけた。


「しっかりしろっ!今野戦病院へ…」

「いやっ…間に合いませんよ…私の…為だけに…時間と…燃料と…兵員を使うのは……し…心外です…ゴッホゴホッ…っ!」


ルフリパは力を振り絞って喋るが途中で咳き込み同時に口内から血の飛沫を飛ばした。


ギーゼはもう彼女の命が長く持たないことを悟ると優しく語りかけ始めた。


「もう…いいさ、喋らなくて…お前の声は聞き飽きた…」


ギーゼは少し震える声で健気に言う。

それを見てるルミノスは攻撃をするような素振りも見せずただ眺めているだけであった。


「…大将…お世話になりました…唯一の…心残りは…祖国の勝利がこの目で…この目で見れない事…それだけ…です…」


ルフリパはその言葉を最後にぐったりとして首が座っていない赤子のように頭を重力に身を任せた。

ギーゼはそんな彼女の亡骸をそっと地面へ安置した。


そしてゆっくりと杖を持って立ち上がる。


「…さぁ、待たせたな。

わざわざ待ってくれてありがとな」

「激高にかられた貴様に刃を向けるなんて自殺行為だからな、先に貴様を屠りたかったが…まぁ結果オーライだろ?未練たらしいクソみたいな女に成り下がらずに死ねるんだ」


次の瞬間、空いたもう片方の手でサーベルを引き抜き二刀流で刀身を十字に構えた。


「感謝して死ねっ!!この刀身の錆になれっ!!」


ルミノスの両手にサーベルを携えたままギーゼへと駆け寄る。

大将も持っていた仕込み杖の鞘を抜くと真っ直ぐな細い剣を朝日に照らす。


「清く往ねっ!!大将っ!!」


ルミノスは飛び上がり二本のサーベルを大きく横に振りかぶってから凪ごうとするが、ギーゼは杖の鞘をサーベルを振る前にその柔い腹部へ向けて真っ直ぐ付き出した。


「グッ…っ!」


鞘の先端がルミノスの腹へ衝撃を与え一瞬攻撃の手が緩むとその隙を逃さんとギーゼは鞘を手放し体勢を崩した空中のルミノスの前髪を逆手持ちで掴むと顔面ごと地面へと叩きつけた。


「往ぬのはお前だ、そのまま雑草の養分になりやがれ」


素早く振り上げた仕込み刀を斬首する処刑のようにルミノスのうなじへめがける。 

そのまま殺せるかと思うほど圧倒的だったギーゼだったが、ルミノスだって負けてはいない。


うつ伏せのままサーベルの先端をギーゼの足首めがけて振るうと思わず彼女はルミノスの前髪を手放し後退した。


直ぐに立ち上がったルミノスは両手のサーベルをぐるぐると回転させて挑発するように言う。


「やるぞやるぞ、死闘だ、道理も論理も無い血みどろの殺し合いだ。

貴様となら、やれて嬉しい果たし合い。

絶頂に逝けそうな程の屠り合いだ。

血も汗も、全部流して殺してやるっ!」


意気込むルミノスに対し大将は荒れた息を整えて言う。


「…もう悟ったか、お前たちの楽園が潰えた事を」


するとルミノスはフッ、と口角を上げた。


「終いだ終い、私達の『廃園』は露と失せた、廃れるのは栄華があってこその表現だ。 

だがそれも無くなった、もはや巻き返しは不可能だと悟った。

『廃園化計画』は終いだ、もとより成功の見込みはなかった、成功すれば万々歳程度の計画だった。

あの計画は所詮、死ぬ予定だった私や参謀総長殿に人生の目的を持たせ延命していたと言っても過言ではない、言うなれば終末思想、どうせ死ぬんだったらなんかやって死のう、失敗したらその時が死ぬときだ、成功したらもう少し生きてみよう、それだけの…計画だった」


ギーゼは少し怪訝そうな顔で尋ねる。


「何だと?歪んだ愛国心から来た計画ではないのか」

「それもある、だがそれは計画に説得力と合理性をもたせるだけの要因の一つにすぎない。

本質を覗けば総長殿と私の…まるで末期患者の延命装置のようなものでしかなかったんだ。

いずれ死のう、だが羽虫のように死ぬのは嫌、それだけだ」


それを聞いたギーゼ大将は呆れたように失笑した。


「結局自己満足か、歪んでも国のためを思っているのであれば少しは同情しようかと思っていたが…」

「同情なんかいるもんか、欲しかったのは私と総長殿の楽園だけだ」


そしてゆっくりと息を吸い込むと刀身同士をこすり合わせながら心地よい金属音を奏で、腕を交差させサーベルの刃の背を自分の首に当てる。


「我々は参謀総長の代理人、代行者、代弁者。

理を示し、罰を下し、尊き総長殿の聖業に代って弁と刀を振るう執行者なりっ!

来いっ!来い戦豚(いくさブタ)っ!!

戦争だっ!貴様との舞踏もこれで終いだ!!」


サーベルの刀身の刃の背がルミノスの首の左右に当たる。

顎を引き上目遣いの獣のような目が昇りゆく朝日の日光に照らされ顔にできた影の中から光る。


辺りの草は日光により黄金に輝きながら揺れている。

涼風が優しく肌を撫でるように中、二人の少女は面と向かって対峙していた。


リリスたちとは別に、もう一つの戦いがそこにはあったのだ。


ギーゼ大将は仕込み刀をギュッと握りしめると眼前に真っ直ぐ構え、刀身を縦から横へ向きを変えた。


鏡のような刀身は横へなった瞬間、日光を一瞬反射させて煌めいた。


そしてまるで処刑を宣告する裁判官のように落ち着いた口調で言った。


「判決は死罪だ、ルミノス・スノーパーク。

お縄を首にかけて吊るしてやる」

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