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剣を捨てた勇者たち

次々と首都防衛の要所を攻め落としていくロディーヤ軍破竹の勢いで首都を包囲し始めていた。

徐々に首都陥落が現実味を帯びて迫ってきてきた。

星がキラキラと瞬く紺色の星空が空を包んでいる。


その下にテントが張られただけの簡易的な基地があった。


輸送車が立ち並び静かな暗闇の中、兵士たちは眠そうに歩いて移動していたり、タバコを吸ったりしている。


そのうちのとあるテントの中に二人の軍人がいた。

暖色の電灯が吊られたテント内で木目がはっきり見えるテーブルを囲んで話していた。


「ルフリパ、我が軍の動向はどうだ?」

「はい…そうですね、帝国陸軍は現在破竹の勢いで進軍しています。

首都近郊の約半分はすでに兵が駐屯しており、首都から逃げてくる人間の拘束、兵站線の断絶など順調です」


会話をしていたのは杖をつくギーゼ大将とルフリパ中将だった。


ギーゼは報告を聞き静かに話す。


「そうか、『例の作戦』も順調なんだな」

「例の作戦…?あぁっ、あのリリスが提案してきたアレですね…もし成功すればそれはそれでいいんですがうまくいくんですかねぇ」

「さぁな、まぁ失敗してもなんら変更はない、砲撃と爆撃、そして銃撃で敵都を原始時代にするだけさ」


二人は密室のテント内でリリスが提案した『夏の聖戦作戦』について話していた。

その作戦の全容はまだわからない、だがその作戦が順調に進んでいることは会話からわかる。


「…リリスらしいといえばらしいですね、あんな作戦の内容、前代未聞です」

「できるなら完遂させたいな、もし成功すれば…誰も犠牲にならない、首都決戦という戦いは間違いなくこの戦争最大の犠牲を払う、両軍どちらともだ、無払いでいいのなら私もそれを望む」


落ち着き払った態度のギーゼは椅子を引いて腰を下ろした。


「…ふぅ〜…私ももう歳だから…疲れてしまったなぁ」

「な~に言ってるんです大将、まだ二十代じゃないですか」

「気持の問題だ、心が疲れるんだ」


するとルフリパは座っているギーゼの背後に回り込むとそっと彼女の両肩に手を添えて肩を揉み始めた。


「あ゛ぁ〜…気持ちいいぞ…」

「凝ってますねぇ…もうおじいちゃんみたいです」 

「ははっ、そうかな。

…それじゃあルフリパに介護でもしておらおうか」

「え〜」


ルフリパは満更でもなさそうに困り笑いの表情をした。


「…お前の得意分野じゃなかったのか?」

「そりゃあ、たしかに私は介護職希望でしたけど…」

「…」


肩を揉まれるギーゼは目をつぶってその気持ちよさに浸かりながら言う。


「戦争が終わったらその夢叶えろよ、私の叔父は放置されて死んだ…いや、殺されたという言った方が妥当かな。

お前みたいな介護職員のいる所に預けたかったなぁ…」


ギーゼ大将の背中は哀愁漂う寂しそうな雰囲気をまとっていた。

ルフリパはそれを感じつつ肩を揉む手を止めなかった。


「…きっとなります」

「おう、頑張れ」


まるで親を労るように肩揉みをするルフリパとそれに目をつぶって受ける。


時間が穏やかに流ていると錯覚するほど静かで温かい空間であった。



数週間後。

その後もロディーヤ軍は連戦連勝を重ねテニーニャ軍を各個撃破しボルタージュ近郊を占領していった。


ギーゼ大将やその他の将軍の指揮のもと奮闘し、首都ヘの包囲網を築き上げつつあった。


各地に検問を設置し、首都へと運搬される食料や、列車を止め載せていた家畜などを引っ張り出す。


とある場所では単線上に停車した列車の荷台からロディーヤ兵士が牛を引っ張り出されている様子が見える。


「おおーっ!!牛だっ!肉が食えるぞぉっ!!」


その場にいたロディーヤ兵たちは奪った家畜に狂喜乱舞する。


さらに別の場所では大規模な榴弾砲陣地が築かれた。

その斜めった仰角の銃口はボルタージュの都市へと向いている。


七月十日、首都はロディーヤ軍に殆ど抜け目がないほどの包囲網に包まれてしまったのだ。

ロディーヤ兵たちはいつでも首都へと攻め込められるように態勢を整えていた。


リリスたち連隊は少し前に占領したボルタージュ近郊の街で過ごしていた。


そこにリリスとともにいたのはこの街に閲兵しに来たギーゼ大将だ。


リリスとギーゼは二人だけで話す。


「リリス、我々ロディーヤは首都を殆ど包囲した。

あとは攻め入るだけ…だが、例の『夏の聖戦作戦』を実行してからだ」

「はい」


ギーゼ大将は辺りを見渡してちょうど雑談に夢中のワットとクザイコを見つけた。


「あれが一番信頼の置ける部下か?」

「えっと…まぁそうですね」

「呼べるか?」

「もちろんです」


リリスはワットとクザイコを呼び集めた。


そして集まった二人に向けリリスは言う。


「ワット、クザイコ、聞いほしい。

これからとっても大事な事を話すから」


二人は頭上にハテナが浮かんだような表情をする。


そしてリリス乗った口からついに語られる。


「首都決戦…の前に、博打に近い作戦、『夏の聖戦作戦』を説明する」


ワットとクザイコは突然、聞いたこともない作戦の内容を知らされると聞き驚きを隠せない。


「『夏の聖戦作戦』…?なんだそれは…っ!?聞いたことねーぞっ!」

「まぁ説明するして来なかったからね…首都決戦への準備とは別に、私達は別の作戦も実行しようと考えていたんだよ」


思わずクザイコはリリスに問いただすが彼女のこれからされる説明を聞くために落ち着く。


「じゃあまず前置きから。

この作戦は史上最小で史上最大の戦果を挙げられる作戦である。

この作戦の実行は私達三人で、そしてその援助は何万人の兵士たち。

…もし成功すれば都市を無傷で占領できるし最小限の犠牲で都市決戦は終わらせられる」


リリスのその言葉に二人の緊張も高まる。


「それが…『夏の聖戦作戦』…」


ワットの確かめるような一言にリリスは無言で頷いた。


「それでその詳しい内容って言うのは…?」


クザイコが尋ねるとリリスは少し微笑んで語る。


「簡潔にいえば、私達三人でボルタージュを陥落させる」

「「っ!?」」


ワットとクザイコはその衝撃的な発言に思わずのけ反る。

だがリリスもギーゼ大将も想像通りと言った具合に顔を向けあって微笑んでいた。


「私を信じて。

私には武じゃなく、言葉で人を動かせる自信がある、この力を以てその作戦を完遂させる」


リリスの自信に溢れた頼もしい笑顔を見た二人はふと謎の安心感のようなものを覚えた。  


クザイコは直ぐに笑みを浮かべて言う。

 

「んなこたぁ説明しなくても知ってるぜ、俺はその力に救われたんだからな、信仰しなきゃなぁ?その力をよ。

どんな作戦だろうが俺の命はお前のだ、好きにしごけ」


クザイコはリリスの肩に腕を乗ってけて言うとリリスは嬉しそうに笑った。


そしてワットはそんな二人をみて少し考える。


「無理しなくてもいいよ、最悪、私一人だけでもやろうと思っていたことだから」


リリスは迷うワットを気遣いそう声をかけたが、彼女がギュッと拳を握るとまっすぐリリスの目を見て言った。


「あたいも…あんたの力は知ってる、クザイコを手懐けるなんて常人にはできない知ってる、それを近くで見ていたから…。

不安で少し怖い、だけどよ、なんか…あんたとならできる気がする。

物事を実行に移すのに成功だとかそんな保証はいらない、ただあんたのいる場所で戦いたい、だからあたいもやるよ、やってみせる」


そう言ってワットはリリスの前へと歩く。


三人が集まったのを見てギーゼは一息、安堵のため息をつくのであった。

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