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白日に晒される蛮行

リリスたちロディーヤ軍は占領したワニュエの塹壕で敵の武器や少食料を奪取していた。

そこにギーゼ大将とルフリパ中将が現れた。

そしてリリス少尉とギーゼ大将の二人っきりで今後について話していた。

そしてリリスの口からとある『作戦』を提案される。

二人っきりとなった大地は火薬臭く、人の腐臭が漂っている。


まっすぐと立つ二人の軍人は真剣そうに向き合っていた。


そして、その『作戦』を伝えられるのであった。


「それで、その作戦とやらを教えてもらおうか」


ギーゼ大将は落ち着いた口調で言うとリリスは答えた。


「はい、私が望むのはこれ以上の犠牲を出さないでする敵都の陥落です。

そこで考えたのですが…………」



「………なるほど、ソレが作戦の全容か」

「はい、名付けて『夏の聖戦作戦』です。

何度も言いますが成功する保証はまったくありません、しかしこの可能性に掛けたいんです。

私なりのこの終末の終わらせ方でこの悪夢を終わらせたいんです」


ギーゼは後頭部を掻きながら言う。


「本当に…難しい事を簡単に言うんだな…こんな作戦前代未聞だぞ」


それでも真剣なリリスの眼差しを向けられた大将はその澄んだ瞳の視線に負け、仕方なさそうに承諾した。


「しょうがない、たしかにもし成功すれば本当に国史に残る。

まぁ作戦の内容を聞くに失敗しても攻撃を加えて無理矢理陥落させれば問題ないしな。

いいだろう、この作戦を念頭に、私の軍のみならず他の師団を動かしてみる」

「ほっ…本等ですか!?」


リリスは嬉しそうに両手を握りしめて上下に振る。


「まずは…そうだな、首都へと安全へ行けるルートの確保だな」

「はいっ!ともに頑張りましょうっ!」

「…ありがとう」


二人は密談に近い形で『夏の聖戦作戦』と呼ばれる作戦を話し、そして実行に移そうとしていた。

その全容は我々にはまだわからない、ただ彼女たちが言うには『犠牲を出さずにボルタージュ陥落』を成し遂げるための作戦らしい。


その内容が知れる日はそう遠くないだろう。



ワニュエのロディーヤ軍たちとは別に敗走したエロイスたち武装聖歌隊はいよいよ自国の首都ボルタージュ近郊まで撤退ししていた。


そこは古式ゆかしい中世の名残が残る建物が並ぶ街だった。


その街の広場のようなところに集められたエロイスたち敗走兵はきれいに整列して隊の前の台に乗る一人の兵士を見ていた。

 

周りにも同じ武装聖歌隊の兵士たちは居るが皆弾薬箱を運んでいたり土嚢を持っていたりと忙しそうにうろついている。


台の上に立っていたのは武装聖歌隊の最高司令官のフゥーミンであった。


彼女は目の前に並んだ数百の兵士たち向け言う。


「ちみたちは本来ならば処刑されているんだ、敗北主義者として街頭に吊るされていたことだろう、しかし今は猫の手も借りたい、どんな主義をしていようが人が欲しかった。

もう敵はすぐそこまで攻めてくるっ!この街がっ!ちみたちが最後の砦なんだっ!もう逃げられないっ!全力をとして戦ってほしいっ!」


フゥーミンはそう拳を握りながら呼びかけた。



エロイスたちはその必死の呼びかけにも関わらず暗い顔をしていた。



フゥーミンの演説が終わり、エロイス、ロイド、オナニャンの三人は水が止まって緑色に濁っている広場の噴水の縁に揃って腰掛けていた。


エロイスが大きなため息を吐くと心配そうな顔でオナニャンが話しかける。


「エロイス、元気がないのです…」

「そりゃあ、そうだよ。

だってもう逃げれば首都なんだよ…?前も後ろにも行けないなんて…」


するとロイドは冷たく言う。


「ここが私達の墓場なのね、今のうちに遺言でも書こうかしら」


すると三人の視線の先にとある人物が横切っていった。


それは泣きじゃくる子供を抱えて走っていく貧相な服装の女性だった。


子供は広場に響くぐらいの声量で泣きながらその場を横切っていった。


「逃げ遅れた避難民かしら、列車に乗れるといいのだけど」


するとエロイスは突然、つぶやくように言う。


「子供は嫌いだ…すぐ泣くし、弱虫だし…」



エロイスはゆっくりとまぶたを閉じるすると真っ暗の瞼の裏に懐かしい人間が浮かび上がってきた。

背を向けているホリゾンブルーのテニーニャ陸軍の野戦服を着た少女。


エロイスの幼馴染の金髪の少女、リグニンだった。


「まるで昔のあんたみたいね」


脳に響くようなエコーがかかった声でそう言われ同じ空間にいたエロイスは答える。


「だから嫌いなんだよ」


だが目を開ければそんな寸劇は消え失せた。


視界には石畳の広場、隣を見ると退屈そうに会話しているロイドとオナニャン。


エロイスはふと寂寥感を感じた。


「もう…昔の私を知ってる人はいなくなっちゃったな…」


彼女はそのまま空を見上げる。 

その茶色の瞳には青々とした晴天の色が写し出されていた。


戻らない人の事を思いながらエロイスは立つ。


「エロイス?」

「…私達だけじっとしてるなんてできないよ、なにかしないと」


するとロイドはちょっと笑って言った。


「そうね、もう最期かもしれないもの、せめてなにか貢献しないとね」

「それじゃあ路上めくって塹壕でも掘るのですっ!」

 

息巻くオナニャンに釣られるよう二人も微笑んだ。


こうしてエロイスたちはついに最後の戦いに身を置いた。

いよいよ首都防衛のため骨身を砕く気持ちで兵士として戦うことを決意するのである。


意気揚々なテニーニャの武装聖歌隊。


しかし、ロディーヤ軍が占領完了した各地域でテニーニャ軍の蛮行がいよいよ明らかにされるのであった。


ロディーヤ帝国陸軍の兵士たちはとある林のとある場所へとやってきていた。


青年たちはその場所の異様さに困惑していた。


「なっ…何だこれは…」


有刺鉄線に囲まれた敷地、その敷地の中には崩壊し潰れかけている木造平屋立ての建物が点在している。


兵士たちは門から侵入しあたりを探る。


「こっ…これはっ…!!?」


兵士たちが見つけたのは敷地内に設けられた鉄のゲートに麻製の無地の質素な服を着て手足を縛られた人間が木の実のように吊るされていたのだ。


顔は青紫に鬱血し目玉は今にも飛び出そうなほど張っており舌はぽっかり開いた口から飛び出て垂れている。


あたりには纏めて焼却処分されたと思わしき資料の紙束が小さな灯火を揺らめかせて放置されていた。


「収容所か…?これは…?」


放置されて荒れ放題の収容所の一つがロディーヤ軍に見つかった。

これを皮切りに占領地から親衛聖歌隊の蛮行の証拠である放置された収容所と処分された大量の人骨が発見されるまでに時間はかからなかった。

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