史上最大の作戦の立案
差し迫るテニーニャの敗戦、親衛聖歌隊のグラーファルはもはや覆せない敗北を受け入れつつ徹底抗戦、首都に防衛線を築き上げることを命令したのであった。
そしてワニュエを攻略したロディーヤ軍は分散し逃げ遅れたテニーニャ軍を包囲しつつ分散していた敵兵の撃破を繰り返していた。
武装聖歌隊の兵士たちはワニュエから敗走し、平野の道を隊列を組んで歩いていた。
生き残った敗残兵のテニーニャ兵士たちの表情は暗く、どんよりとした空気が漂ってる。
その乱れた列の中にエロイス、ロイド、オナニャンは重い足取りで行進する。
「…っ聞いた?エロイス」
「ん…?何…?」
小声で尋ねるロイド、敗残兵不思議そうに耳を傾ける。
「聞いてなかったの…?私達これからボルタージュに向かうのよ」
「えっ?そうなの…?」
「もぅ…何にも聞いてないんだから。
武装聖歌隊の司令官のフーミンからの命令よ、首都防衛のために各地の戦力をボルタージュに集めてているらしいの」
それを聞いたエロイスはいよいよかと半ば諦めたような表情で「そっか」と言った。
するとその話を聞いていたオナニャンは元気そうにエロイスの肩を掴む。
「エ〜ロイスっ!らしくないのですっ!もっと元気で行くのですっ!首都を守れるなんて名誉な事ですよっ!背後にグラーファル閣下がいるのですからっ!」
にこやかに笑うオナニャン。
エロイスはその少女の笑顔を見ては作り笑いに近い笑顔を向けた。
「…ありがとうオナニャン」
「いいのですよっ!」
長い武装聖歌隊の列はボルタージュ近郊の街へ進んでいく。
いよいよ首都決戦が近づいている,背負わされた使命はただの少女兵の彼女たちには重すぎた。
一方、ワニュエを占領していたがロディーヤ帝国陸軍。
生き残ったテニーニャ兵を捕虜とし、塹壕近くの地面に集団で座らせていた。
その数約百名。
「おい、こいつらどうするんだ?」
「さぁ、敵兵養う余裕なんてないし殺せば?」
「ん〜、勝手に殺すのはなぁ、俺たちの責任になるし上官の許可取ってから殺すか」
ロディーヤ兵は歩兵銃を持ちながら与太話をしていた。
安全となったワニュエでは塹壕内にいる必要もなく、兵士たちはあたりに散らばりながら兵器や野戦砲の鹵獲、食料などを奪って獲得していく。
リリス、ワット、クザイコは塹壕内を歩いて捜索してなにか使えるものはないかと目を配らしていた。
「ん…?これは…」
リリスは足元になにか紙切れのようなものを見つけると、土の中に埋もれていたソレを引っ張って持つ。
それは散々折りたたまれ十字に折り目がつけられたクタクタの白黒写真だった。
写真にはどこかの庭で椅子に座るワンピースの微笑んでいる女性と武装聖歌隊の軍服を着た笑顔の青年が写っていた。
リリスはそれに思いを馳せるような目で眺めていると背後からワットが声をかける。
「やめろやめろっ、敵に情が湧くぞ」
リリスは無言でその写真を丁寧にもとあった位置に置いた。
するとクザイコは頭部で手を組みながら言った。
「そんな紙切れ燃料にすらならねーぞ、早くなにか見つけよーぜ」
三人は結局なにも見つからず塹壕から上がった。
「何もなかったな、備蓄もなんも」
ワットは首元を掻きながら言った。
するとそこには二人の軍人が現れた。
「あっ…貴方は…!」
リリスはその二人を見て驚き声を上げた。
そこにはあのギーゼ大将とルフリパ中将がとも立っていたのだ。
「よっ!」
「久しいな、リリスたち」
すぐに三人は駆け寄り大将に尋ねる。
「どうして大将が…?」
「リリス…ワニュエ占領の戦果は大きい、一度閲兵でもしてやろうかと思ってな」
大将はわずかに微笑んでそう言った。
そして周りにいるワットたちに言った。
「これからリリスと二人で話す、お前たちはこのルフリパとともに捕虜を収容所へと運ぶよう呼びかけておいてくれ、殺害は認めん、頼んだぞ」
「「はっ!了解しました」」
ルフリパとワットとクザイコは敬礼をして素早くその場を去った。
「…さて、リリス。
ここまで来たんだ、もはやロディーヤの勝利は約束されたようなものだ」
「はい、参謀総長の動向はどうですか?」
「あぁ、あれこれ工作しているようだがもはやその効果は微細なものだ。
参謀総長の立案した作戦を私が少し手を加えて司令部に提出しているんだ。
おかげで無茶な作戦は是正されてスムーズに進撃が進んでいる」
「そうですか…ありがとうございます」
丁寧に頭を下げるリリスの頭をギーゼは優しくなでわました。
「な~に、どんなに優れた作戦でもそれを実行できる前線部隊がなければできない、お前は歩兵連隊少尉として十分な戦果を上げた、滞りなく作戦実行してくれたお前に感謝だ」
リリスはギーゼのナデナデを受けながら頭を上げる。
ギーゼはさらに言う。
「首都攻略までもう少しだ。
だがおそらくはこの戦争一番の戦闘になるに違いない、軍需物資の増量や兵站ルートの増設、欠けた兵員の穴埋めなどに時間がかかる。
敵都の兵士を皆殺しにする気概でやらねば」
「その…決戦はいつ頃になりますか…?」
「そうだな、七月上旬あたりになるだろう」
リリスは少し頭を垂れて考える。
「…首都決戦となれば…お互い膨大な死傷者が出るんですよね…?」
「…?あぁ、何十万人規模で死ぬ」
そのギーゼの言葉を聞いたリリスは顔を上げた。
「そんなの誰も得しません、市民も軍人も死に絶えて、首都がボロボロになれば戦後の統治も難しくなりますよ」
「それはそうだが…いまさら何を言うんだ、相手がハイソウデスネで首都を渡してくるわけ無いだろう」
するとリリスは真っ直ぐ上目遣いの真顔で言い放った。
「私に…作戦があります。
成功する保証はまったくありません、ただ僅かな可能性の一つとして考えてください」
「…なんだいきなり」
ギーゼは突如真剣になったリリスの雰囲気に思わず困惑する。
「…いいだろう、内容によっては承認してやる。
さぁ話してくれ、その作戦とやらを」
するとリリスはニヤッと笑って言う。
「わかりました、これからその作戦について語ります」
彼女の口から突如作戦を提案されたギーゼ、果たして首都攻略の作戦とはどんなものなのだろうか。




