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国運を分かつ攻勢を

ある一人の兵士の言動によってテニーニャ軍塹壕にロディーヤ兵のスパイがいるとの情報が流通し始めた。 

エロイスたちもその情報の餌食となり、警戒せざるを得なくなってしまったのだ。


散々喚いていたその兵士は人気のない塹壕へと移動しそこでしゃがんで身を潜めていた。


「ふぅ〜…危ねぇ、危うく捕まるところだったぜ」


そう言って上げた顔には笑みが浮かんでいた。


彼女はクザイコ、ロディーヤ軍のクザイコだった。


額を汗を拭いながら思う。


(あの出来事のおかけでスパイがいるとの情報は独り歩きしてくれるだろう、噂の流布のためだけに殺しちゃったあいつには悪いが)


彼女はテニーニャの武装聖歌隊の野戦服を身にまとい、仲間を殺し、軍内にスパイがいるとの情報を流し疑心暗鬼にさせようと動いていた。


(あわよくば同士討ちしてくれりゃ嬉しいねぇ)


クザイコは一仕事終えたと言わんばかりの達成感あふれる表情で空を眺める。


「…俺にはこんぐれぇしかできねぇーしよぉ…頑張るから…リリス…そっちでも頑張ってくれよなぁ」


クザイコは重い腰を上げ、立ち上がると塹壕を歩き出した。


「さて、次は何してやろうかなぁ、殺しはもう目立つよな。

んじゃ、銃弾の弾頭でも外してやるかな」


彼女はそう言って塹壕のどこかへと姿を消した。


テニーニャ塹壕ではクザイコが跋扈し自由気ままに、そして静かに暴れていた。



一方、ロディーヤ軍の塹壕にいるリリスも何もしていないわけではなかった。


塹壕の野戦電話の受話器を手に持って誰かと連絡しているようだった。


リリスは椅子に座り、塹壕の壁に取り付けられたデルビル磁石の電話で会話していた。


「…あっ…つながった。

もしもし〜…?」


リリスは受話器を耳に当てながら話す。

すると向こうから声が聞こえてきた。


「…?その声は…リリス、リリスか?」


雑音で良くは聞こえないが確かに声が聞こえた。


「あっ、つながったみたいですギーゼ大将」

「びっくりしたな、まさかお前から連絡くれるとは…まぁ少尉としてではなく、一個人、リリスとして話を聞いてやる」

「ありがとうございます」


電話の相手はギーゼ大将だった。

リリスは要件を話す。


「実は…もうすぐ私達連隊…いや他の隊たちと共にテニーニャ塹壕を攻めようと考えているんです」


その一言に大将は驚いたのか、しばらく無言だったがようやく口を開いた。


「正気か?上層部ではそんな話も計画もない、完全に現場の独断じゃないか」

「もう決めたことなんです、それに向けてもう動いています。

それに…現場の兵士たちは戦いたがっています。

戦えは死ぬかもしれないことは重々承知、でも泥の中で飢え死ぬより戦死を臨んでいます。

…だからギーゼ大将に連絡したんです。

帝都でのんびり過ごしている将校や大臣、参謀さんたちとは違い大将は現場主義です、そこに惚れ込んでのお願いなんですよ。

…私個人、少尉の権威だけでは連隊をまとめるので手一杯です、あなたの力添えがほしいんです、あなたに、死に急ぐ兵士たちを纏めて一大攻勢を仕掛けたいんです」   


リリスは必死に受話器に語りかけて説得する。

それをどこかのテントの中で無言で聞いていた大将は目を瞑り少し考える。 


その時間、リリスも相手の思考の邪魔をしないように静かにただ座っているだけだった。


「…なる程、作戦はあるのか」

「今、私の仲間が敵陣で工作しています、もう少しだけ待って敵の統率、結束力が落ちてきたところを全員で攻撃します」

「単純だな…成功する可能性はあるのか…?」

「いいえ、…言うなれば望みのない賭けみたいなものです、でも戦争ってそういうものでしょう?実行してなんぼですよ」


そのリリスの言葉にギーゼ大将は小さなため息をついて答えた。


「わかった、ちょうど面白いもんがある。

設計も生産も終わっていたが、最近ようやく実戦投入された面白いものだ」

「…?」

「まぁ、そのうちお目にかかれるから安心しろ。

…それはともかく、お前の心意気と男気に惚れた、いいだろう、お前たちの指揮を執ってやる。

さっきお前の連隊の他にも兵士はいると言っていたな、どのくらいの規模なんだ?」

「…塹壕にいる殆どの兵士は戦闘を臨んでいます。

今、仲間のワットが塹壕を駆けずり回って戦意を煽っているんです、演説して…まるであのグラーファルみたいに…なのでざっと二万以上は硬いでしょうね」 


その規模を聞いた大将は「フッ」と笑った。


「師団規模じゃないか、その規模なら中将が率いてほしい所だが…いいだろう、私が指揮を執る」 

「本当ですか…っ!?ありがとうございますっ。

…それで、あの話を戻すんですけど…面白いものって…」 

「あぁ、まぁもうすぐ見えるだろうな。

んじゃ私は他にも動かすている軍がある、一旦電話は切るぞ」


そう告げると彼女は一方的に電話を切ってしまった。


なにも聞こえなくなったリリスは受話器を壁に取り付けられている電話に戻す。


するとふと地面が揺れるような振動に襲われる。


「…?なんだろう…」


リリスだけではなく、塹壕の陣地にて木箱に登り兵を集めて戦意を煽っているワットや兵士たちもその振動に気づく。


「なんの振動…?」


ワットが振り返るとその振動の原因が現れた。

後方から迫ってきた現れたのは、エンジン音と燃料の異臭を放つ鋼鉄の乗り物だった。

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