蒼穹に頂き
ロディーヤの帝都を情報収集を兼ね観光していたフロント少佐、ハッケル参謀総長と情報を共有をしてともにロディーヤを敗戦へと導くため、手を取ろうとする。
しかしハッケルの理論と思想によりやむなく断言されてしまった。
そんな少佐の国防軍、エロイスたちはアッジ要塞を目指して、要塞がある標高三百メートルの山を攻略していた。
麓の湖から移動してテニーニャ国防軍たちはアッジ要塞へ行く為、山を登っていた。
大自然に囲まれた人工物がコンクリートの要塞以外に見当たらない。
山には薄く霧がかかり、湿度が高い。
足元に注意しながらもなんとか中間地点までたどり着いた。
「も…もう無理…死ぬ…」
「ちょ!エロイス早いって!まだまだ山頂は銀河系の果てくらい遠ぉ〜い〜ぜ?」
「大尉、それ逆効果」
エロイス含めレズーアン大尉とリグニンとレイパスは休憩の最中、そんな雑談に興じていた。
「大尉ー、あとどれぐらいー?」
「えっとな、今ターニングポイントだからね〜あと半分?長げぇ〜」
「待って…無理…水…」
「エロイスあと半分だって、頑張ろうよ」
「うん…あ…ありがと…」
休憩も終わり、荷物を再度背負って歩き出す、麓に来たときの様にまた同じ並び順で要塞を目指す。
霧も深くなり、息を吸うたび喉に水滴がわずかに付く。
視界も塞がり、点呼を取りながら進む。
「レズーアン元帥っ!はいっ!
エロイス!」
「はい」
「リグニンっ!」
「はーい」
「レイパスっ!」
「なにー?」
「点呼してるだけ!しゃべんな!」
「ひどいー」
「次ー!……」
かろうじて未舗装の道を進む、しかしあるけどあるけど景色は殆ど変わらない。
国防軍のみんなも少し不安がってくる。
「た…大尉…ほんとにあっているんですか…?なんか全然景色が変わらないんですけど…」
「心配は無用だ!エロイスっ!私が道を間違えるわけが…あ゛っ!!!」
国防軍の足取りが止まる。
全員が大尉を覗き込む。
「ま、まさか…」
「違うっ!リグニン!地図はあってるっ!」
「地図は?」
「ただ…ほ、方角が…」
「はぁぁ〜〜あ???」
一同の頭上にハテナが大量に浮かび上がる。
なんと大尉が地図を反対に読むという凡ミスなどとは擁せない程のミスだったのだ。
「そりゃたどり着くわけ無いじゃん!コラッ!」
「ごごごごごめんっ!本当に!ごめんなさい!」
大尉が土下座で頭を下げる。
全員始めてくる場所なので土地勘もクソもなく、自分たちがいるところなど検討もつかなかった。
「どうするの?大尉、ウチらここらへんの土地勘ないよ」
「ま、まだ慌てる時間じゃない…よく考えてみて!要塞は頂上にある!つまり上を目指して登り続ければいつかはたどり着く!」
「確かに…そうだねそんなに慌てるような問題じゃないかも…」
「でもーエロイスー?この地図道以外の表記が殆どのないよー、何があるかがわからないぜー」
「だ、大丈夫だ!もし何かありそうならば、私が責任を持って先陣を切る!」
大尉たちはとりあえず目の前の未舗装の道を歩くことにした。
山と言っても急斜面が立て続けにあるわけではなく、緩やかな勾配が繰り返し襲ってくる山である、登山というよりハイキングに近い。
しばらく無言で歩みを進める。
だんだん喋ることで体力が奪われることに気づき自然と静かになってしまった。
口を始めに開いたのはエロイスだ。
「ト、トイレ…」
「ほらー水飲みまくるからー」
大尉がエロイスへと訪ねる。
「もう少し我慢できる?」
「はい…がんばります…」
エロイスの顔からだんだん色が抜けていく。
桃色の頬は白く冷たくなって、汗とも違うような液が吹き出る。
「みんな…ごめん…限界…」
「しょうがないな〜…じゃあ…そこらへんの奥行ってしてね」
「はい…ありがとうございます…」
エロイスは素早く茂みに入り、そのまま奥へ奥へと向かっていった。
エロイスは人気のない、大自然の中で一人となった。
見渡す限り背丈の高い木と霧、世界で唯一人と言っても過言ではないくらいの静けさが広がるばかりだった。
「ここらへんでいいかな…」
あたりを見渡して人がいないことを確認する。
エロイスは軍服のベルトに手をかけ、外し始めた。
ベルトを外し、軍服のスカートの中のズボンとパンツを足首まで下ろし、硬いスカートを捲り、かがんで用を足す。
「はぁ…」
静けさの中で水音と吐息が響く。
そのあまりの暖かさに湯気が薄く立ち上った。
エロイスの表情が安堵と開放感でほころぶ。
「ふぅ…なんか新鮮…」
初めて感じるその感覚に酔いしれている。
良いか悪いかわからないがこんな機会はもうないだろう。
用を足し終わると、ズボンとパンツを履き再び皮のベルトを締める。
そして置いておいた荷物を持ち、列に戻ろうと荷物を手にしようとすると。
「あれ?水筒が…あれ?」
荷物と一緒に携えていた銀の水筒が見当たらない。
まだ半分程残っており、無くすには惜しかった。
「あ…!それ…!」
目線の少し先に灰色の狼が口に水筒の紐を加えていた。
それを見た狼はエロイスと目線があった瞬間、そっぽを向いて森の中へ駆けていってしまった。
「ま…待って…!」
エロイスも追いつこうと走るが到底追いつけるものではない。
少しだけ追ったあと、すぐに諦めた。
結局用を足したところから少し動いただけに好きなかった。
「まだ半分くらい残ってたのに…しょうがない…なぁ…」
仕方なく荷物を担ぐと、重い足取りで列に戻る。
「おかえりーあれ?エロイス、水筒はー?」
「うん…犬に盗られちゃって…」
「犬も水筒を携帯する時代か、物騒になったなぁ、まぁ冗談はよしこちゃんとして、エロイスっ!列に戻るんだ!急いで出発しんこーっ!ゴーゴーっ!」
エロイスを列に戻るよう促し、再び列を要塞へと向かわせる。
用を足し終わり、不思議と身体が軽くなったような幻想に取り憑かれる、それの証拠に、足取りも軽やかだ。
とにかく頂上を目指し、大尉率いる国防軍が休憩を挟みながら、登っていくと、ついに見えた。 灰色のコンクリートのバンカー郡、アッジ要塞だった。
峰に連なるように作られ、侵入者を絶対に迎撃するぞ、という強い意志を感じるほど。
各地に野戦砲が配置され、弾薬や銃器も申し分ない。
「ここまで来るのにもやっとなのに、見上げたらこの要塞のとか死にたくなるね」
「まぁそう思った瞬間望み通り死ぬんだけどねー」
大尉が設置された砲台からバンカー内へ入るよう促す。
「ここから中に入れるぞ〜、ここにはちゃんと寝具もあるし、ゆっくりできるからな。
しっかり疲れとってクレメンス、オケ?」
円型のコンクリート台に野戦砲が一台設置されていた。
野戦砲の周りには大きな砲弾が所狭しと横に積まれている。
アッジ要塞はこのような砲台がいくつも造られているのだ。
これで遠くの敵を撃破しやってきた敵は機関銃でなぎ倒す、見晴らしのいい山頂に作られた要塞はまさに敵なしといった感じである。
要塞内ではテニーニャ陸軍が国防軍を歓迎してくれた。
「よくきた!君が大尉かね、見た目こそ色々言いたいが、君たちは国母なのだ!厳しい戦いとなるだろうが、一心同体、頑張っていこう!」
一人の陸軍将校がレズーアン大尉の手を握り共闘を誓う。
ここには約2万の陸軍兵とエロイスたちの国防軍がいる、いよいよ反撃のために本腰を入れてきたことが伺える。
「やばくね?マジここ神ポジでしょ、負けるはずがない」
大尉が誇らしげにエロイスたちにも話す。
エロイスたちもその立派な建築物に感嘆する。
「ここは陸軍兵たちの寝室、女子禁制」
大尉がエロイスたちを率いて要塞内を探索する。
「ここが医療室、んであそこが配給室」
コンクリートで仕切られた部屋を一つ一つ解説していく。
遮るような横長の要塞は侵入者を迎撃するのに十分な食料と人員と軍備があった。
その中の部屋の配置を覚えるのは一苦労だ。
エロイスは野戦砲の横で山頂からの景色を眺めていた。
山頂はすでに霧が晴れ、冬の晴天が大地を照らしている。
真冬の山頂は手先が赤くなるほど寒いがそんなことを忘れてしまうほど美しい世界だった。
「エロイスー何してるのー?」
「あ、レイパス…ううん、なんでもない、綺麗だなーって思って」
「わかるー今までなんとも思ってなかったけど、皮肉にも戦争で自然に触れる機会が増えたからかな、いい景色」
しばらく眺めているとリグニンが鉄の扉を開け、二人がいる砲台にやってきた。
「ここにいたのね、来て、陸軍のみんなが美味しいもの振る舞ってくれるって」
「ほんとっ!?」
「うん、だからエロイスもレイパスも来て」
「りょーかいー」
リグニンの声に誘われて、冷たい鉄扉の取手を上げて中に入る。
寒色のコンクリートの中にはほのかに温かいホワイトシチューの匂いが漂っていたのだった。




