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闘士、リングへ舞い降りる

クザイコの心を解くことに成功したリリスは本題である敵への偽情報を流す役目を務めるためリリス、ワット、クザイコの三人で話し合っていた。

リリスたちの三人は塹壕の広い陣地にて立ち話をしていた。


一見ただ雑談しているようにしか見えないが、その内容はとても重要な内容であった。


リリスはクザイコに言う。


「クザイコちゃんが敵塹壕に潜入してロディーヤのスパイが紛れてるっていう噂を長して来てほしいの。

ちょっとしたしたことでいい、電話線を切るだとかそんなちょっとしたことでいいからしてきてほしい。

私とあなたの目標は敵を混乱させて士気を下げることだけ、それだけでいい。 

敵兵を殺したり、騒動を起こしたりはしないでね、あくまで工作の一つだと思って」


そう言うとワットがどこから取り出したのか、テニーニャの武装聖歌隊の野戦服を取り出した。


褐色の軍衣に黒い乗馬ズボン、サスペンダーで留める革のハイウエストベルトやロングブーツも揃っていた。


「戦死した敵兵のものだよ。

大丈夫、血とか膿とかはちゃんと洗ってるから無問題っ」


そう言うとリリスはクザイコへ向けウインクをした。


クザイコは少し嫌な顔をしてその軍服を手に取る。


「うげぇ…これ着るのかよ…嫌だなぁ」 

「文句言わずに着ろよ、ちゃんとバレないように動かないと殺されんぞ」


ワットの言う言葉に舌打ちで返事すると奪い取るようにして軍服を取った。


「大丈夫?一人で着られまちゅ?」

「はぁ?バカにするなよ馬鹿、ガキじゃねーし大きなお世話だ」


クザイコはぷんすかしながらその場から離れ近くのテントの中へと姿を消した。


「…大丈夫か?クザイコに問題起こさず敵陣へ行けるとは思えないが…」

「大丈夫、口ではあんなんだけどきっといい戦果を上げてくれるはずだよ」

「そうかなぁ…」


二人はじっと待っているとテントの中からクザイコが出てきた。


「「おおっ…」」


二人は思わず声を上げる。


「ど…どうだ…?似合ってねぇなんて言ったらぶっ飛ばすからな」


クザイコの着る武装聖歌隊の軍服はサイズもピッタリだったようでよく似合っている。


「めっちゃ似合ってるぜ、これでお前もあの頭のおかしい軍団の仲間入りだな」

「はぁっ!?っざけんなっ!あんな奴らといっしょにするなっ!」

 

からかうワットと激高するクザイコの間に割って入ったリリスは二人をなだめながら言う。


「二人共落ち着いて…っ!

…ふぅ〜、とりあえず今日の夜、クザイコ一人でこのワニュエの戦場を這ってテニーニャの塹壕へと行ってきてほしい」

「ええっ?匍匐で敵陣まで行くの?それだとだいぶ時間がかかるが…バレずに行けるかな…」


少し不安そうなクザイコにリリスは肩を叩いて慰める。


「心配ない、絶対できる。

…私なんかが言ってもなんの保証にもならないけど…でも、できると思ったら既に半分は成功してる、それは私の経験から知ってる。

だからあと行動さえすれば絶対できる」


リリスの言葉に励まされクザイコは自信に満ちた表情でうなずく。


「よっしゃ、静かに暴れてやる」



やがて夜が訪れた。

辺りは不気味なほど静まり返りシンとしている。


思い紺色の夜空が地上を圧迫しているかのような暗い夜空だった。


雲の量が多いのか、月も星の光も見えなかった。

ただ闇が広がるばかりである。


「雲が多くて光が少ない、今が絶好のチャンスだよ」


武装聖歌隊の野戦服を着込んだクザイコと共に最前線の塹壕にいるのはリリスとワットだった。


「クザイコ、後ろには私達がいる、必ずあなたの活躍を有意義なものにする、だから安心してほしい」

「わかってるよリリス少尉。

…さぁ、そろそろ工作の時間だ、行ってくる」  


クザイコは塹壕を駆け上がり地上へでる。


そして彼女は匍匐前進で泥と土の戦場を進んでいった。


「なんとか頑張ってくれるといいが…まぁちょっとは期待してみるか」


ワットの言葉にリリスは嬉しそうに微笑んでいた。



かくしてクザイコの敵陣ヘの工作は始まった。

 

彼女は一晩中、前進を止めることなく這って進むのだ。


「クソっ…肘も膝も痛てぇ…絶対成功させてやる…クソっ…クソっ…」


一人、孤独に夜を進む少女兵。

どれくらい進んだのかわからない、一寸先の闇も見えない戦場でひたらすら前進、前進また前進。


ハァハァと吐息を漏らし眠気と疲労と戦いながら彼女は這った。


どれくらい進んだのか、何時間這ったのかわからない。

それでも彼女の努力はついに実を結ぶこととなる。


「見えたっ…敵塹壕だっ…」


クザイコは暗闇の中に浮かぶ長い長い塹壕を目にした。


ジグザクに掘られ何重にも掘られた塹壕がワニュエに生成されている。


人の気配は殆ど感じられない。


腕を動かし身体を運びついに塹壕を目前にする。


「くっっ…」


クザイコはそこから転げるように塹壕へと潜入した。


「ふうっ…良かった…天候が災いしたのかもな…」


クザイコは曇天の夜空に感謝しつつあたりを見渡した。


そして口角を上げて「フッ」と微笑んだ。


「ここが俺の暴れ場(リング)かよ、あっちと変わらず土くせぇ」


ニヤリと笑うクザイコの笑顔は闇の中でもはっきりと見えた。


クザイコはこの塹壕で期待通りの戦果を挙げられるのだろうか。

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