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心を探る少尉

リリスはワニュエのロディーヤ軍の塹壕の中で特に目立つ少女のクザイコと少し話をすることができた。

小さな一歩であったが両者に取っては大きな一歩であった。


リリスとワットは敵の様子を見るため塹壕の前線に来ていた。


リリスは双眼鏡を覗き込み敵陣の様子を見る。


「リリス、頭上げすぎないようにな、撃たれるぜ」

「うん、大丈夫」


リリスはしばらく塹壕から双眼鏡のレンズを覗かせていたが偵察を止めた。


「う〜ん、攻勢を仕掛けてくる気配はないなぁ、もしかして持久戦に持ち込もうとしているのかな」

「それはまずい、声を大にして言えないが軍備で言えばテニ公共の方が勝っている。

ただでさえ兵站が軍部の野郎共のせいで届かないんだ、このままだと滅ぶぞ」


ワットは不安そうに言うがリリスは彼女を勇気づけるように言う。


「確かに、戦力を比べれば今、このロディーヤ軍は劣っている。

でもあのテニーニャ軍を倒せる方法を知っているよ」

「それは本当かっ!一体どんな…?」


リリスはニヤリと静かに笑った。


「外側からじゃなくて内側から、内部から瓦解させちゃえばいい」

「そんなやり方が?」


そう尋ねられたリリスは自信に溢れたような口調で言う。


「あるよ、私も危うくその洗礼を受けるとこになるところだったアレが」


リリスが含んだ言い方をするがワットはすぐに理解できた。


「『自軍の兵士に紛れたスパイがいる』…?コレか」


リリスの言うアレとはコレであった。


ワニュエの帝国陸軍内も同じような情報が飛び交い疑心暗鬼に近い空気が発生していた。


「なる程…あの嫌〜な空間と雰囲気を相手にも体験させてあげようという素晴らしい提案だと言うことだな?」

「そ、ロディーヤじゃ参謀本部がこの情報を漏洩させちゃったって言っているけど、その情報の内容は相手にも使える。 

うまく敵軍に伝われば統率は取れなくなり士気はは落ちる、その好きに最後の賭けをする」


リリスは塹壕の向こうを見つめ凛とした顔をで語る。


「私たち連隊が突破口を開く、そして塹壕で戦闘を開始し、混乱したところで残ったこの塹壕の別連隊を突撃させ、内外から相手を叩く、これで行くよ」


リリスは今後の軍の方針を決めた。


だがワットが一つ疑問点を提示した。


「少尉、だけどそのスパイが紛れているという情報は誰が流すんだ?それができないと肝心のその作戦も円滑にいかないと思うが」

「う〜ん、私は連隊の指揮を取らなきゃいけないし…」


リリスは悩み詰めた挙げ句一つの案を出した。


「…クザイコとか…?」

「ええっ!?少尉正気っ!?異常者のあいつをかっ!!それはやめとけっ!あいつが役に立った事例なんてないんだぞっ!」


ワットは激しい口調で言う。

だがリリスは彼女に可能性を見出していた。


「ワットはクザイコのことを知ってるの?」

「えっ…?いやっ…別に仲いいとか言うわけじゃないから…」


リリスはワットに近寄り諭すよう言う。


「『なんにもできない』そう言われる人がいるなら私が存在意義を与えたい。

クザイコは使えない人間なんかじゃないよ、私にはわかる」


彼女の剣幕にワットは押されてしまう。


その真剣な眼差しに貫かれワットはうなずく。


「わっわかった…リリスがそこまで言うなら別にとやかく言わないが…」

「えへヘっ、ありがとっ。

じゃあちょっとクザイコのところ行ってくるね」


リリスは真剣な表情とは一転し、微笑むを浮かべながら走り去っていった。


「…よく分かんねぇな、リリス少尉は…変なやつ」



ワットと別れたリリスは塹壕を捜索する。

すると目立つ彼女はすぐに見つけることができた。


何やら近くで怒号が聞こえる。

リリスはそこへ向け走ると案の定、クザイコがいた。


「死ねっ!この世に産み落ちた責任を死で果たせ糞男っ!!公衆の福祉に反する子宮ウンコめっ!親のマ○コかひり出された五体満足肉ウンコめぇーーっ!!」


とんでもない暴言を浴びせながら一人の男の兵士の胸ぐらを掴み今にも殴り度しそうな勢いで拳を振りかざした。


すぐにリリスが駆けつけ静止する。


「クザイコっ!何してるのっ!だめだよ人に暴言と暴力を振るっちゃ!」


その言葉に反応したのかクザイコは兵士の胸ぐらを離す。


「ひぃぃぃ〜こいつイカれてやがるっ!!」


開放された兵士はそうわめきながら逃げていった。


「どうしたのクザイコ?何があったの?」

「だってあいつが俺の事馬鹿にしてくるから」

「…」


リリスは事の小ささに呆れたようなため息をついた。


「とりあえず一旦落ち着こう、」


そう言うとリリスはクザイコに抱きつき背中を擦る。


「すぐに手出しちゃだめだよ、抑えないと」

「…わかってるけどよぉ…わかってるけど…それでも手ぇ出ちゃうんだよなぁ…」


クザイコは頭を抱えて困ったように弱音を吐く。 


「ていうかいちいち俺に突っかかるなよっ!どっかいいけっ!何が少尉だっ!図に乗りやがってっ!ムカつくんだよっ!」


クザイコはリリスを指さして詰め寄る。


リリスはそれでも表情を変えずにクザイコの目を見つめ続けると彼女は次第にその強気な姿勢を崩し大人しくなった。


「もう関わるなよっ!次は本当に殴るからなっ!何がリリスだっ!理解者ぶりやがってクソっ!」

「待ってクザイコっ!!」


クザイコは猛スピードでその場を走り去った。


リリスもそれには追いかけることもできずただ取り残されてしまった。


そこに後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「おーいリリスっ!ここにいたかぁ」


駆けつけてきたのはワットだった。


「あれ?ついてきたの?」 

「あぁ、殴られてないか不安になってな、珍しく杞憂に終わっていたが」


リリスはクザイコが去っていった方を見つめている。

その目はどこか寂しく慈しみがあった。


「わざわざあんな奴と関わるなんて少尉もだいぶ変わってるな」

「そうかな…でも、根っからあんな人じゃないと感じるんだ、何が…隠しきれない過去の何かが…」


クザイコの過去、それがリリスが彼女にまつわるもので一番気になるものであった。


彼女の過去とは一体どんなものなのだろうか。

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