やがて咲く蕾
ワニュエの塹壕で少尉として務めるリリス。
しかしその塹壕でクザイコと言う少女に出会う。
典型的な嫌な性格の彼女であったが、リリスはどうやら少し気になっているようだった。
リリスは塹壕の中で弾薬箱に座りながらワットと共に過ごしていた。
そんな彼女の表情はどこかへ浮かない顔だった。
「どうしたリリス、顔色悪いぞ。
…ヤな気分が収まらねぇんだったら一発殴ってくりゃあいい」
「いや…別にそういうわけじゃないけど…」
しばらく考え込んだと思ったらリリスは立ち上がりその場を離れる。
「どこ行くんだ!リリスっ!」
「あの子に…あの子に会いに行ってくるっ!」
それだけ告げると早足で去っていってしまった。
「…変わってるなぁ、あいつ」
ワットの呆れ気味な声でそう言う彼女は一人リリスが座っていた弾薬箱の上に座った。
リリスは塹壕を移動していると彼女の耳に先程聞いた怒号に近い声が聞こえた。
「散れ散れっ!バカガキ共っ!
豚にやる飯はねぇぞっ!」
クザイコはベーコンが詰まった缶を抱えながら男の兵士を追っ払っていた。
男たちはその剣幕におののきたまらず退散していた。
「フン、玉無し野郎共。
一生チンコシコってろ。
…んっ…うまっ、うまっ…」
男を追い払ったクザイコは缶に入っているベーコンを指を摘みテカテカ光るベーコンを口に運んで咀嚼している。
「あの…クザイコちゃん…?」
「あ゛っ?んだよなぁしつけーぞ女っ!!」
相変わらず傲慢な態度で暴言を浴びせてくる。
リリスは表情を変えずに近づいてくる。
「なんだなんだっ?このベーコンは渡さねぇぞ、お前は飢えて死ね乞食っ」
リリスは少し真剣な顔と口調で言う。
「クザイコちゃん、その態度と言動は人としてだめだよっ!私にならいいけど、誰彼構わずそんなの態度じゃ周りに誰もいなくなっちゃうよっ!」
「うるせぇーっ!俺はもとから一人だ!知った風な口を聞くなっ!!」
クザイコの剣幕にリリスは少し身を引く。
だが彼女が拳を振り上げてリリスの顔面へと振り下ろして来た瞬間、リリスの構えと表情が変わった。
リリスは拳を避けクザイコの腕をつかむとそのままぐるりと彼女の身体の向きを変え、腕を背中に押し付けながら地面へとうつ伏せに押し付けた。
「ぐっ…!」
彼女が地面に倒れた拍子に野戦服の胸ポケットから薄い切り抜いた紙のようなものが飛び散った。
クザイコは片腕を背に回されリリスに乗っかられたことで抵抗できなくなってしまった。
「馬鹿っ!離せっ!!」
リリスは喚く彼女を抑えつつ、彼女の胸ポケットから飛び出た紙に気づいた。
「これは…?」
リリスは近くの紙を一枚拾い上げる。
どうやら新聞の切り抜きのようだった。
「やっ…!やめろっ!!見るなぁっ!」
リリスはそのまま切り抜きの表裏を見た。
すると彼女は思わず目を見開いてしまった。
「これは…」
そのま切り抜きには白黒の一人の軍人が写っていた。
つなぎのような服装に飛行帽とゴーグル。
首にマフラーを巻いた飛行兵のようだった。
リリスであった。
散らばった新聞の切り抜きには写っていたのは角度や場所が異なるリリスの写真であった。
初戦の歩兵時代から飛行兵時代のリリスと思わしき少女兵が写っていたのだ。
「…全部私…?」
そう尋ねるとクザイコの耳と頬はじわじわと赤く染まっていく。
「違っ…違うっ…これは…っ…」
彼女が否定しても明らかにその写真に写るのはリリスだった。
語気が弱まって落ち着いたクザイコを取り押さえるのをやめリリスは膝をついてクザイコを起こす。
「…この写真、何のために…?もしかして呪いに使う?」
「バカっ!違うっ!!これはっ!
これは…」
うつむいて立ち尽くすクザイコを近くの広い陣地へと誘導した。
弾薬箱やドラム缶などが点在している陣地にあるベンチに座った二人は話し合う。
「…俺は承認欲求強ぇからよぉ〜…、リリスみてーなやつに憧れてたんだ。
でも憧れより嫉妬の方が強くてよ、ホントは尊敬して仲良く接したかったんだが…俺よぉ…こんな性格だからよぉ、どうやって絡んでいいかわからなくてよぉぉ〜っ!」
クザイコはリリスへ向けて訴えるように言う。
「そうなんだ…でももう少し接し方あったんじゃない…?その…憧れてくれるのは嬉しいけど…」
クザイコは暗い顔をして語る。
「だってよ、人との接し方教えてくれるやついなかったから…小さい時の記憶なんて鶏小屋にいたぐれーしか思い出がねーしよぉ…っ!」
クザイコは自分で語りながら声を震わせ泣き出してしまった。
リリスは嗚咽を漏らしながら泣くクザイコを優しく抱き寄せる。
「えっ…」
クザイコは戸惑いの顔をするがリリスは目を瞑り彼女の過去を感じ取るかのように話す。
「…あんまり詮索すると嫌な思いさせちゃうかもしれないから聞かないけど…辛かったんだね…よ〜しよし大丈夫、私あなたを嫌いになったりしないよ、むしろ隠さずに話してくれてありがとう、信頼してくれてありがとう」
そう言いながらリリスは背中をさすってくれた。
クザイコは泣くのをやめて感情のこもった震え声で話す。
「そうだよ…っ!そうだよっ!信頼したから話したんだよっ!お前の人格はよく知ってるからきっとわかってくれると思って話したんだよ…っ!」
クザイコは袖で顔を擦り涙を拭くと立ち上がり言い放つ。
「だがお前がいくらいいやつでも俺の性格は変わらねーからっ!このぎっ…偽善者っ!お前に俺の気持ちがわかるもんかっ!せめて俺と同じ経験してから慰めろっ!うわぁーーんっ!!」
「ちょっ…クザイコちゃーんっ!」
彼女は突如走り出し呼び止めようと声を出すリリスから離れて姿を消した。
リリスは一人になってしまい、しばらく立ち尽くしていたが顔は優しげな笑顔をしていた。
「…根っからの悪い人じゃなさそうで良かった、頑張ればもっと優しい人になれるよきっと」
反抗期の子供を見守る母親のような目つきで彼女が走っていった方を見つめていた。
クザイコの内情を少し知れたリリスは満足げには彼女の後を追うのであった。




