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人生の分かれ道は突然に

リリスを飛行兵から退役させる策を思いついたと言う参謀総長ハッケル。

果たしてその策とは一体…。

場所は変わり、リリスたちのいる湖畔の航空基地へと移る。


流れる真っ白な綿雲、青々としたどこまでも高そうな青空、心地のいい風。


リリスはいつものように自分の航空基地にてのんびり過ごしていた。


彼女は滑走路脇の芝の上に寝っ転がりながら昼寝を着ていると突然、エンジン音と共に砂を蹴るようなタイヤの音が聞こえてきた。 


整備兵たちやイーカルス大尉はその音のする方へ目を向ける。


すると基地内の道を一台の天蓋のついた黒い車が近づいて来ていたのだ。


大尉は不思議そうな顔をしてその車を見ていたが開いた扉から現れた一人の人物によって彼らの態度と表情は大きく変わった。


「すっ…すっ…スィーラバドルト皇帝陛下っ…!!?」


車内から降りてきたのは立派な白ひげを蓄えた彫りの深い初老の男性だった。


この国の皇帝陛下のスィーラバドルトだ。


金色の飾緒にエポレット、腰にサーベルを帯刀した姿の陛下は厳かな雰囲気をまといながらキリッとした表情で航空基地に降り立った。


あまりに突然の出来事に大尉は固まってしまう。


呆然としていた彼らだったが車内から現れたもうひとりの人物の言葉を大尉は聞く。


「はじめまして、この航空基地に所属するリリス・サニーランドの武功を称えたいというおっしゃったのでこちらにいらっしゃった次第です」

 

一人の軍人の言葉を聞き入れると大尉はゆっくりと敬礼して言う。


「ちょっ…ちょっと待ってろ…っ!すぐに呼んでくる…っ!」 


そう言うとすぐに大尉はかけだした。

そして寝っ転がっているリリスのもとへ駆けつけると言う。


「リリスっ!リリスっ!大変だっ!スィーラバドルト皇帝陛下が名指しててめえを称えたいと…っ!「すっ…すぐそこまで…っ!」


息切れしながら言う大尉にリリスはただならぬ雰囲気を感じすぐに起き上がると共に走り出す。


途中でシュトロープとすれ違ったが彼女の事は目もくれず走る二人に何かを感じたのかシュトロープも後ろからついていく。


三人はやってきた陛下に会うべく向かうのだ。


集まっていた整備兵たちはそんなやってきた少女たちのために道を開ける。

 

すると彼女たちの目の前に立派な立ち姿の皇帝陛下が見えた。


「陛下、お目にかかれて嬉しいです。

私がこの航空隊の伍長、リリス・サニーランドです」

「おお、お前が、私もはじめましてだな。

どうも」


そう言うと陛下は手を差し伸べてきて握手を求めてきた。


リリスはその差し伸べられた手に恐る恐る震える手で握手をした。


「はっはっはっ、緊張で震えているのか?肩の力を抜いて気楽にしてくれたまえ、じゃなきゃ私がやりづらいだろう」

「はっ…はいっ…何しろ陛下と手を交わせるなどとは思いもしなかったもので…手汗が出てしまっていたら申し訳ございません…っ!」


相手が陛下となるとリリスもたどたどしい物言いになってしまった。

 

握手を交わした陛下はその後、「立ち話は足がつかれるだろう、どこか座って話そうか」と言うと、場所を移して基地の滑走路と湖が見える芝の上のテーブルとイスに移動した。 


座ったリリスは開口一番に言う。


「陛下…その…お話とはどのような…?」

「ああそうだったな。

リリス、お前の武功と名声がどのようなものが知っているか?」 


そう問われると彼女は首を横に振る。


「お前の飛行兵としての名前は国土中に轟いている、もはやお前を知らないものはいないほどにだ」

「そうなんですね、無知がばっかりに…」

「気にするな、お前がこの国にどれほど大事かを実感してったのならそれでいい。

それでだお前は今、国の光なのだ、国民の希望なのだ。

お前のおかげて航空隊が誉れ高いものになっているんだ、そんなお前が、ないとは思う万が一、万が一戦死してしまったら国民は失意に沈み、戦意が落ちてしまうかもしれない」

「…?つまり…?どういうことでしょう?」


リリスが少し戸惑ったように尋ねると陛下は本題を切り出した。


「お前には生きる伝説になってほしいのだ。

飛行兵を退役し、国民の希望として生き続けてほしい、兵士をやめて、民に希望を与え続けてほしいのだ」

「…っ!?」


二人の間に少し強い風が吹く。

芝の草は舞い上がり宙を踊る。 

 

陛下のその言葉にリリスはしばらく動けないでいた。


そう、これこそ参謀総長が仕組んだ策なのだった。



時間は少し遡り帝都ののチェニロバーンの参謀本部の一室、ルミノスがギーゼを逃した場面へと遡る。

そして参謀総長が言うリリスへの策を語っていた最中であった。


「…その策と言うのはどのようなものですか?」


ルミノスがそう尋ねると参謀総長はいう。


「君は栄誉を積みすぎた、もはや国内では彼女の名前を知らないものはいないし、君は希望の国母なのだ、そうなった以上、君が死んだときに国民の戦意が下がりかねない、それを危惧してリリスには飛行兵をやめてほしい、と言うものだ。 


いくら彼女といえど自分が死なないという保証はないのだから納得言ってくれるはずだ。

ただし、これは私からの命令としてではなく国民たちからの意思ということで伝えてくれ、リリス、彼女はいいやつだ、民意となれば彼女は拒めないだろうな」


彼女のニヤリと笑った顔がルミノスの目に入る。

それを聞くとルミノスも同じように笑顔を浮かべた。


「より具体的には?」

「皇帝陛下から直接言ってもらおう、人民たちがリリスを気遣って飛行から手を引いてもらいたいと言ってもらうんだ、英雄となったリリスを危険な軍役から外すことができれば陛下の臣民からの信頼も上昇する、やつにとっても悪い話じゃない。

そうと決まれば早速実行するぞ」


意気揚々と語る彼女へルミノスは少し不安げに尋ねる。


「…素直にやめてくれますかね?」

「なに、そこは口がうまい陛下に任せておこう」



皇帝陛下がわざわざ航空基地へ赴いたのも、そして辞めるよう言ってきたのもすべて参謀総長の策略であった。


陛下は語る。


「人々は英雄の活躍と死より民と共に生きてほしいと願う、お前もその一人なのだよ。

私はそんなに臣民たちの願いと民意によってここへと足を運んだ、お前に生きる伝説として余生を過ごしてほしいと言ういわば気遣いなのだ。

退役してくれるのであれば、住居もその生活の手当もやろう、お前はまだ若い、これから大学へ行くのはどうだ?」


陛下はリリスにそう口々に言う。

リリスはその話を聞きながら考える。


(陛下がこれほど熱望しているってことは…銃後の人たちがそれほど私に生きてほしいと思っているんだ…私は…私はどうすれば…)


彼女は後ろの国民たちの民意、目の前の皇帝陛下と従軍しなければという思いの間で板挟みになってしまった。


果たして、リリスは決断することができるだろうか。

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