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新戦法に敵艦、没する

敵艦隊と戦火を交えるイーカルス大尉の爆撃隊たち。

敵艦からの圧倒的な対空砲火に思うような効果を与えられずにいたがシュトロープは海面近くを飛ぶリリスのグリーンデイを見つける。

シュトロープはリリスが敵艦への自爆をしようとしているのではないかと言う不安がよぎったのであった。

リリスの機体はいくつもの対空砲火をもろともせずに飛行していく。


砲火が海面にぶつかり何本もの水柱を揚げそのたびに飛沫がリリスの身体に降りかかる。


「くそっ!近づいてくるぞっ!なぜ当たらないっ!」

「横滑りだっ横滑りで機体を斜め横にしながら飛んでいるっ!

進路を予測しにくくさせるという策だっ!惑わさせるなっ!!慌てるなっ!!」


対空砲火の銃座の兵士たちはそのなかなか当たらない一機にあわてていた。


するとリリスの機体は海面を離れて徐々に上昇し始めた。


(あのまま上昇してから敵艦へ急降下してぶつかるつもりなのか…!)


「リリスっ!思い直せっ!!自殺なんかするなっ!!」


シュトロープは思わずそう叫んでしまった。

しかし彼女の心情と言動に関わらずリリスの機体は徐々に上昇し、そして海面から百メートル程度上昇すると水平に飛び始めた。


操縦桿を握るリリスの表情は真剣そのものだった。

気迫に満ちた彼女の顔はまるで禿鷹のような目つきをしていた。


「入射角はバッチリ…速度を少し緩めて…」


スロットルを握り戻し速度を落とすとぐんぐん敵艦へ近づく。


「今…っ!!」


リリスはそう口にした。


すると彼女の機体の腹から爆弾が投下された。


敵艦からの離れた場所への投下に艦上でその様子を見ていた兵士たちが困惑する。


「何やってんだあいつ…爆弾と魚雷の区別もつかないのか…」


艦上ではなく海面への爆弾の投下に兵士たちは理解が追いついていなかったが一人の兵士が困惑の表情から恐怖を直接見るような表情で海を見ていた。


「あっ…っ…あぁ…っ!」

「ん?どうした、そんな表情しちゃって…」

「来るっ…来るぞ…!来るぞぉっ!!」


そう叫び一人逃げ出した。

隣にいたが兵士はその行動に理解しがたそうな顔をしたが砲撃の音にまじりバチャバチャと、まるで水切りのような音が聞こえてきたからすぐに理解した。


ゆっくりと顔を海へと向ける。

するとその兵士も先程逃げ出した兵士と同じ顔をして。


「そんな…!そんな馬鹿なっ!!」


その光景に思わず愕然とした。


なんとか向こうから黒い爆弾だ海面を水切りのように跳ねながらこっちの軍艦に向かってきたのだ。


「反跳爆撃…っ!!そんな事が…っ!!」


反跳爆撃とは投下された爆弾が水面上を水切り石と同じ要領で反跳し、目標の軍艦への攻撃をする戦法であった。


「うわぁーーっ!!逃げろっ!!来るぞっ!来るぞぉーっ!!」


愉快に跳ねながら向かってくる悪魔に付近の兵士たちは持ち場を離れて逃げ出したそしてその爆弾は船舶に十分と近づき、海面下へと没した。


姿が見えなくなり安心する兵士たち、だが次の瞬間、彼らが乗る重巡洋艦が轟音と共に大きく揺れ始めた。


そして先程の跳弾が没した箇所に大きな白い水柱が立ったのだ。


「なっ…!何事だっ!!」

「右舷の喫水線下で爆弾したんだっ!」

「何っ!!まずいぞっ!このしたは弾薬庫じゃあないかっ!!」


兵士たちは混乱のなかそう口々に言う。

するとすぐに船体の中央が跳ねるように跳ね上がり船体を揺らす。


そしてまたとない大爆発を引き起こし空を覆うほどの黒煙と火災が発生した。


甲板にいた兵士たちは飛んできた破片や板材に貫かれ船体は被弾した右舷側へ傾き始めた。


「浸水確認っ!早く浸水を防げっ!」

「駄目ですっ!電気系統がやられましたっ!密水できませんっ!」

「艦長っ!船倉にも浸水してますっ!このままではなく我が艦は沈みますぞっ!!」


艦橋の司令室は大慌てであった。


「たった一発の爆弾が弾薬庫の砲弾へとぶつかり、誘爆し、轟沈も想定しなければならないほどの被害を被ったのだ、艦長。

すぐに艦橋からでて退避を念頭に置かねばなりません」


艦長の取り巻きたちは口々に進言する。


しばらく思い悩んでいた艦長だったが操船者の一言により決まった。


「艦長っ!舵が動きませんっ!完全停止ですっ!!このままで雷撃の的ですっ!早く退避を…!!」


円形の舵をもつ兵士がそう言うと艦長は命令を下した。


「…そうか、沈むか。

お前たちは部下をまとめて退避しろ」

「艦長…!あなたは…!」


艦長はほほえみながら答えた。


「いつも言っているはずだ。

私とこの船は一心同体、沈むときは私の艦長人生も没するときだ」



その重巡洋艦は海上で完全に停止し、他の軍艦から置いていかれぐんぐんと傾き始めた。


空を飛ぶリリスは艦橋が斜めになっているのを見て浸水を確認するとビシッと敬礼しながらその場を去った。


その一部始終を見ていたシュトロープはいつの間にか口が空いてしまっていた。


「すごい…対空砲火を弱めるだけじゃなく…まさか軍艦そのものを無力化させるとは…なんてやつだ…。

ふっ…私には到底真似できると技じゃないな、大人しく爆撃しに行くか」


シュトロープはそう言って徐々に降下し始め目先の駆逐艦へと向っていく。


速度をぐんぐん上げながら駆逐艦に近づき、対空砲火を掻い潜りちょうど艦上の手前に来たところで爆弾を投下した。


だがその爆弾は駆逐艦の上空をすり抜け反対側へ行き水中に突入してから爆発した。


「…やはり駆逐艦は早いな、ちょっと計算をミスったか」


そう言うと素早くラダーペダルを踏み込み操縦桿を手前に引き機体を持ち上げながら進行方向を変えた。


シュトロープが上空を見上げるとには雷撃隊が待機していた。


そして彼らは機体を傾けながら降下し始めていた。


「頼んだぞ、雷撃隊」


そう言うと彼女は踵を返して敵艦から離れていった。

こうしてリリスたちの爆撃隊の役目は終わりを迎えた。 


彼女たちはそのまま基地へと帰投するのであった。

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