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無い未来に向かって

ロディーヤの参謀総長ハッケルの謀略もさることながらリリスやギーゼ大将たちの活躍により徐々に破綻し始めた。

このままではワニュエにて勝利を収めてしまうのを危惧した参謀総長は新たに司令を出し始めた。

参謀本部へと帰還した参謀総長のハッケルは不機嫌そうな表情でいつもの執務室へと戻ってきた。


その機嫌に察したのか、部屋にいたルミノスはソファから立ち上がり踵を揃える。


「おかえりなさい参謀総長殿、どうしたんですか?もしかしてカフェイン切れですか?」


参謀総長は執務机に腰掛けると一回ため息をついて答える。


「私がまるでカフェイン中毒者のような物言いはよしたまえ。

…それより、ワニュエでの動向が気になる」

「はい、現在ロディーヤ軍とテニーニャ軍の一部が会敵中、特に異状はないですねいつものことです」

「そうか…」


彼女は机に肘をついて頭を抱える。


「何か手を打たなければ…」

「…まずいんですか?」


不安げに尋ねるルミノス。

たが参謀総長は微笑んで返す。


「君は何も心配する必要はない、私が全て解決して見せる」

「総長殿…」

「さて…問題は…」


総長が机の引き出しから一枚の写真を取り出した。


「リリス…こいつを始末しよう」

「我々のゆく先々で障害になるこの女…もちろん既に手を売っています」

「それは本当か?」


ルミノスはニヤつきながら答える。


「はい、敵艦隊にわざと傍受されるように暗号化せずに作戦を伝え合わせました、もちろんわたくしの部下です、今頃艦隊は向かってくる航空隊を撃滅せんと迎撃準備に取り掛かっているでしょう」

「なるほど、よくやった。

あとはワニュエだな、兵站を止めていたおかげてそろそろ兵糧攻めの効果が出てくるといいが」


参謀総長は口角を上げながら言った。

謀略は未だに戦場に蔓延っていた。


そんなワニュエでまさか自軍から苦しめられているロディーヤ軍と交戦していたオナニャンとロイドは着剣した半自動小銃を振り回しながら白兵戦を繰り広げていた。


未だに雨は止まず豪雨であった。


「ぐっ…!」


オナニャンは歯を食いしばりながら敵兵の腹を銃剣で突き刺す。


瞬時に柔らかい腹から血が吹き出しオナニャンの身体を染める。


素早く抜くとそれはより勢いを増して赤い噴水となった。


「オナニャンっ!!後ろっ!!」


ロイドの声に気づき振り返るとそこには陣地構築用の手持ちのスコップを持ったロディーヤ兵が今にも振り下ろさんとしていた。


スコップを縦にし、刃を肩に叩きつける。


オナニャンはすぐに小銃を横に構えて受け止める。


「ぐうっ…!!」

「ゔぅっ…っ!!」


お互いキリキリと武器を押し付け合う。


瞬時に小銃を盾にしたおかげでスコップを受け止めることができた。


「馬鹿が…女の腕力で俺に敵うわけ無いだろ…!!」


ロディーヤ兵は足を突き出しオナニャンの腹を蹴っ飛ばす。


「がっ…!!」


オナニャンは吹っ飛び泥の中に伏せ込んだ。


「あがっ…お゛っ…お腹…がっ…!」


見ると小銃は手元に無い。

蹴られた衝撃でどこかに落としてしまったようだった。


「オナニャンっ!」


ロイドはすぐに彼女のもとに行こうとした瞬間、近くのロディーヤ兵が彼女の軍服の首襟をつかんで地面に叩きつけた。


「がは…っ…!!」


好きをつかたれロイドは弾丸飛び交う戦場の中でその敵兵は彼女に馬乗りになって硬い拳で顔面を滅多打ちにし始めた。


「がっ…!やっ…やめ…っ!」

「うるせぇクソアマっ…!良くも仲間を殺してくれたなぁっ!!」


ゴツゴツした硬い拳が柔いロイドの顔に何度も振り下ろされる。


彼女は必死に手を出して抵抗しようとするが敵兵の足によって脇腹に固定されたままであった。


オナニャンはゆっくり泥濘の中で立ち上がろうとする。

たが近づいてくる敵兵は素早く彼女をの顔を掴み取り押さえる。


もがく彼女に構わず彼はスコップを振り上げた。


もうだめかとオナニャンが目を閉じた瞬間、生暖かい液体がオナニャンの顔にかかった。


オナニャンは肩へスコップを入れられたかと思ったが、不思議と痛みは無い。

気づけば彼女の顔をつかんでいた敵兵の手の力も和らいでいるように思えた。


恐る恐る顔を顔を開けるそこあったのは目を見開き口から血を吐き出しているロディーヤ兵のだった。

喉元には銃剣が突き刺さっていた彼の後ろに立っていたのはダンテルテ少佐だった。


彼女はゆっくりと銃剣を引き抜くとロディーヤ兵の死体を蹴っ飛ばした。


「大丈夫か?オナニャン」

「あっ…ダンテルテ少佐…!どうしここに…」

「やはり少佐であろうと戦場に立ったほうが好感は高いからな、助太刀に来たんだ」


頼もしい笑顔を見せる彼女の登場にオナニャンは感極まったように目を潤めた。


見ればロイドも助けられていたようで、鼻血を出しているロイドがゆっくりと立ち上がった。


「痛いわよ…全く…」


ロイドは顔を殴りつけていたロディーヤ兵の死体を尻目にそういった。


なんとか生きながらえたオナニャンとロイド。

ダンテルテの登場によりやる気を取り戻したが彼女の口から出てきた言葉は意外なものだった。


「貴様たち、撤退だ。

ロディーヤは想像以上の戦意だ、このままどちらかが絶滅するまで殺し合うんじゃ滅せられるのはテニーニャだ、一旦引こう」  


少佐の言葉に二人は驚愕する。


「だっ…だめです、ここから逃げればボルダージュへと敵兵を近づけることになるのです。

もとより死滅は覚悟の身、もう元来のテニーニャ軍はここにはありません。

常に逃げ出し、弱小と呼ばれたテニーニャ軍は過去のものです。

我々は武装聖歌隊、勝つときは強く、滅びはときは潔く。

…死なせてください、この場所で」


オナニャンのその言葉に少佐は少しびっくりしたような表情だ。

たがロイドもオナニャンと同じ考えのようだった。


「…そうか…そうだな。

部下の気持ちを汲んでやるのが上司だよな…

死のうか、もう私達にはこれしかない」

「…はい」


オナニャンの横顔は勇ましく、けれど少女らしい朗らかな笑顔であった。


彼女は近くに落としてしまった小銃を拾い上げる。 


「さぁ敵陣へ向け一直線だ。

私達の武功は必ず子孫たちが語りついでくれるぞっ!」


ダンテルテと共にオナニャンとロイドは駆け出した。


少佐はとんびコートを脱ぎ捨てハイウエストベルトに差し込んでいた普通の黒い拳銃を取り出すとそれを発砲しながら突き進む。


「ぎゃぁっ…!!」

「うゎぁぁっ!!」


彼女たちは敵兵を次々と撃ち殺し刺し殺しを繰り返しながら進んでいく。

だが彼女たちの最後も、もうすぐそこにまで迫っていたのだった。

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