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破滅への道のり

西の海域を通過しロディーヤ本土の海岸の要塞に砲撃を行うつもりである敵艦隊を無力化せよとの命令が帝国陸軍航空隊にくだされた。

リリスたち第一特別航空隊ばもちろん、近くの航空隊をまとめて爆撃隊を編成して向かうのだった。

一方その頃、ロディーヤ帝国帝都のチェニロバーンの参謀本部にて、参謀総長のハッケルは厳かな軍服を着た皇帝のスィーラバドルト陛下と共にひとときを過ごしていた。


陛下はシックな椅子とテーブルに座り対面にている参謀総長と共にコーヒーを嗜んでいた。


彫りの深く白い立派なひげを蓄えた陛下と高い身長とつややかな長い黒髪を持った参謀総長が向き合って話す。


「う〜む、面白いことにこの参謀本部には上質な豆が多いみたいだな」


湯気の立つカップを傾け縁を口につけてコーヒーを啜る。

ハッケルはそんな陛下をほほえみながら見ていた。


「そうですね、私はコーヒーに関しては気違いですから」

「ははは、良いことだ」


和やかな時間が続く。 

やがて陛下が口を動かす。


「最近我が軍は目覚ましい活躍を遂げている、途中原因不明のゴタゴタがあったが、やはりというべきか帝国軍の武功は語り尽くせないほど湧いてくる」


陛下のその言葉に参謀総長は少し嫌な顔をしながらも「そうですね」とだけうなずいた。


(好き勝手ほざきやがってぇぇ…君はただの椅子に座って私の作戦の邪魔立てをしていただけだろう、こんな腑抜けたやつが王ではだめだな…やはり私が新帝として…)

 

心の中であれこれ言う彼女に陛下は構わず言う。


「それでだ…そろそろ終わらせようと思う」

「えっ…」


参謀総長はその言葉に思わず尋ねる。


「終わらせるためって…戦争を?」

「あぁ、それも戦勝でな」


いきなりの発言に彼女は戸惑う。


「いや、少し早いんじゃないか?まだ慎重に…」

「この前とある陸軍大将から進言があった。 

その人は私にこう奏上した。

『私個人の資産を軍資金とし、その運用権を陛下にのみ譲り受ける。

この資産を使ってワニュエにて軍の突破口を開き、そこから一気に敵都へ向けて進撃すべき。

阻むものは見敵必殺、全て打倒し勝利を勝ち取るべき』だと…」


そう言われた参謀総長は顔を驚きの表情へと変える。


「個人の資産を軍資金に…?その運用権を陛下にのみ…?」


参謀総長は少し頭をうつむかせて考える。


「とんでもない好機だ、自分の資産を軍のために使ってくれだなんて、まるで宗教のようだ。

おかげて色々できそうだ」


陛下の言葉は彼女の耳には届いてなかった。

すると彼女はある結論に至る。


「まさか…ギーゼか…?私から奪った資産を軍資金に…?資産は金塊だけのはず…」


参謀総長の顔がみるみる白くなる。


「どうしたのかね?顔が青白いぞ。

…そうだな、資産を使って航空機の数を増やすか…それとも兵力の増強か…」


すると参謀総長は慌てて言う。


「陛下、軍資金としてではなく人民の配給にその金を割きましょう、戒厳令下の中、人々は日に日に少なくなる配給に飢えています」

「はっはっはっ、人民を肥やしたところで軍が強くなるのか?お前らしくもないことを。

とにかく兵力だ、それ以外はいらない。

よしっこれからロディーヤ帝国軍の快進撃だ、一気にテニーニャをせめてこの戦争を終わらせるぞっ!」


陛下はそう意気込んでいる。

参謀総長は途中からコーヒーに手がつけられないほど動揺していた。



参謀総長は急いで本部から飛び出すと、道路に駐車していた黒色自動車の後部座席に乗り込む。


「参謀総長、本日はどこまで?」


白の裁判所の軍服を着た兵士が尋ねる。


「ギーゼ大将のいるところまでだ、やつのいる別荘まで」  


そう言うと車はエンジンを蒸し、自動車と路面電車が行き交う道路を走っていった。


やがて帝都から外れ山の斜面に築かれた道路を走る。


しばらく走っていると、一軒の別荘が見えてきた。


帝都を見下ろせる高さのところに建てられた別荘の門の前に車を止めると参謀総長はズカズカと敷地内に入ってきた。


そして扉を叩くとゆっくりと玄関口の扉が開く。


その扉を開けたのはどうやらロディーヤ帝国陸軍兵だった。


若い彼が参謀総長を導くと向かう先に大きなガラス戸のついた空間でL字型のソファに座っているだけギーゼ大将の影が見えた。


床より数段下がった位置に設けられたその空間は日差しが入り込み暖かな雰囲気を醸していた。


参謀総長は大将に近づいてきて挨拶を交わす。


「久しいな、大将」

「…おお、お前か。

まだ生きていたのか」


参謀総長は大将と話せるよう、ソファに腰掛ける。


「私達の軍資金を陛下に受け渡したのは君だな?」

「私達?片腹痛い、殉心党第一特教のモノだな」

「そんなことはどうでもいい、話の腰を折るな」


二人の間にピリついた空気が流れる。


「確かにあの資産は莫大だった、だが軍資金として運用できるほどではなかったぞ、増やしたのか、資産を」

「なんの、あのカルト宗教仕切っていた特務枢機卿が持っていた敷地を売っぱらって、教会の美術品やらを外国に売ってやった。

するととんでもない額が転がり込んでくる。

そのあまりの額に一人で戦争できるんじゃないかって思ったさ。

あぁ、もちろん私の財産も軍資金として入っているぞ、この別荘も今日で私のものじゃなくなる」


彼女の言葉に参謀総長は険しい顔をした。


「…何が君をそこまで突き動かすんだ」

「お前と一緒さ。

お前も相当な覚悟を持ってその計画を進めているのだろう、ならば私も同等の覚悟を見せなくっちゃなぁ」


参謀総長は相変わらず険しい顔を向ける。


「どうした、そんな険しい顔をして、いつものお前の愛らしい表情が台無しじゃないか」

「皮肉はやめろ、神経を逆撫でするような言葉に言うな、私の癪に触ることを言うな」


やがて彼女は立ち上がってその場を離れようとするが、その時ギーゼが言った。


「お前の負けだ、ハッケル。

陛下は膨大な金を手に入れた、もはや勝つことしか考えていない奴はもちろん軍資金として使うだろう、そしてお前が下した敵艦隊撃滅の命令は帝国陸軍航空隊たちには響かなかったようだぜ、一人の少女の進言で私が新しく練り直した作戦を命令として下した、お前の命令より私とその少女の作戦のほうが合理的でみんな賛同してくれたさ、そして今それを決行している。

…お前は孤独だ、身内で寄せ集まって群れいるが、お前は結局一人だ。

お前のような悪は私達に滅ぼされなくてはいかないんだ」


足を止めてその言葉を聞いていた参謀総長はゆっくりと振り返って笑顔で言った。


「…それもまた一興、滅ぶ奴は滅ぶべくして生まれてきたのだ、これは…その過程にすぎない」


参謀総長はそれだけ言うと足早に去っていった。


残されたギーゼ大将は去りゆくハッケルの寂しげな背中をいつまでも見つめていたのであった。

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