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真の想いは蓮と咲く

戦車と共に敵陣へと向かって言ったテニーニャの武装聖歌隊だったがロディーヤの犬爆弾によってあえなく撃破されてしまったのだ。

ロディーヤ兵士たちは歓喜し、テニーニャ兵士たちは絶望してしまった。

そして心の支えを失ってしまったテニーニャ兵たちは無謀にも敵陣へ次々と突撃していってしまったのだ。

テニーニャ兵たちは猪突猛進でまっすぐロディーヤ兵士たちに向かってくる。


その光景は丸手死を恐れないような不屈の精神を持った兵士たちのようにロディーヤ兵士たちの目に写ったが、実際は早く楽にしてほしいと願うテニーニャ兵士たちの自殺に他ならなかった。

 

「うっ…うわぉぁーーっ!!イカれ野郎だっ!!殺せ殺せ殺せ殺せ殺せぇーーーっ!!」


ロディーヤ兵たちは次々と発砲する。


銃声が鳴り響くたびにテニーニャ兵たちは泥濘に倒れていく。


向かってくるテニーニャ兵士たちは笑顔だった。

この地獄からの開放を願う一人の狂人たちだったのだ。


次々と撃ち殺されるテニーニャ兵士たち、そんな彼らはとは別に正気を保っている兵士たちは一旦引くかそのまま突撃するかで迷っていた。


「どうしますっ!一旦引きますかっ!」

「いや、今はあいつらが盾になってくれている、こんなチャンスはめったにない、俺たちは後に続いて行くだけだ」


兵士たちは攻撃は続行するとの意見で一致していた。


それはエロイスたちも同じだった。


「私達もいかなきゃ…」

「そうなのですっ!

エロイスっ!覚悟はいいのですねっ!」 

「…もちろん、この局面で分けるわけにはいかないよ」


三人はうつ伏せの状態で匍匐前進しながら敵陣へと向かう。


雨は一層激しく降り注ぎ完全に戦場は泥沼と化していた。


そんな汚泥を腹ばいに進む少女たち、すっかり全身泥まみれになってしまっていたが気にせず前進し続ける。


しばらく進んでいると突如、ロディーヤ側からも笛の音が鳴り響いた。


「突撃しろっ!!今が狙い目だっ!敵の塹壕を占拠するんだっ!!」


つんざくような笛の音と共に喊声を上げながらロディーヤ兵士たちが塹壕から続々と飛び出してきた。


「はっ…白兵戦に持ち込むつもりね…」


ロイドは思わず顔が引きつる。


彼らは向かってきたテニーニャ兵たちへ発砲しながら走り込んでくる。


「ぎゃぁぁっ!!」

「ゔぎゃぁぁっーー!!」


布を裂くような断末魔が木霊する。

篠突く雨により霧がかる視界のなかで薄っすらと敵兵たちが攻め込んでくるのがわかった。


「ここに伏せているだけじゃまずいのです…!うちたちもいかないとっ!」

「そうね…行きましょ」


三人は立ち上がりデコボコとぬかるんだ戦場を駆け回る。


そしてやってくる敵兵と交戦しようと走っている途中、突然エロイスが崩れた。


「っ!?」


二人は思わず振り返る。


「ゔっ…ゔぅっ…」


エロイスはその場でうずくまっていた。


抱えていた左腿からは血がタラタラと溢れているようだ。


すぐにロイドが駆け寄る。


「撃たれたの?」

「うん…そうみたい…くっ…痛い…」 


エロイスは苦痛で顔を歪ませる。


するとロイドはオナニャンに言いつけた。


「オナニャンっ!貴方は先に行きなさいっ!」

「わかったのですっ!」


彼女はそそくさと銃声の響く霧の中へと駆け込んです姿を消していった。


「…大丈夫よ、もうすぐ後方から衛生兵たちが追いついてくるわ、彼らに助けてもらいなさい」


ロイドは泥の中でうずくまる彼女を優しくさすっていた。


段々と敵兵の雄叫びが大きくなっていく。


断末魔と銃声の音量は大きくなり、すぐそこまで迫っているのが直感的に理解できた。


ロイドは痛みに悶える彼女から迫る敵へと目線を移動させる。

その顔は既に覚悟ができていた顔だった。


ロイドはポケットから手榴弾を取り出しした。


「ロイド…何を…」

「エロイス、もう敵兵はそこまで来ているわ。

この戦い、負けるのは必須…せめて美しく散りたいわ、この泥の中で…強く華やぐ蓮のように…」


彼女はそう言うと安全ピンを抜く、それを動けないエロイスの左利き薬指にまるで結婚指輪をはめるように丁寧に挿し込んだ。


「はい、お返し。

指輪返せてなかったから」


そう言い残すとロイドは勢いよく敵陣へ向け走り出した。


「ロイドっ!!待ってぇっ!!」

 

エロイスの左手薬指には、安全ピンの指輪がつけられている。

叫ぶ彼女の言葉にロイドは立ち止まり、そして振り返って静かに微笑んだ。


「じゃあね、愛してるわエロイス。

大好きよ」 


ロイドはそう告げると名残惜しそうに背中を向けて敵陣へと走り出した。


(あぁ…まだだ…みんな私の前から消えていく…なんで…?なんでみんな…私の前から消えちゃうの…?私が何もしないから…?戦争だから仕方ないっていうの…?

そんなの…嫌だ…っ!!)


エロイスは痛む足を使ってロイドへ向かって走り出した。


そしてそのまま勢いよく彼女の背中へと飛び込んだ。


「きゃっ…!」


彼女は前方に倒れ込んだ衝撃で手に持っていた手榴弾を手放した。


するとしばらく転がった手榴弾は爆発し破片をばらまいた。


幸いにも二人に怪我はなかった。


「何してるの…!エロイス…っ!」


エロイスはロイドの肩をガッチリとつかんでうつむきながらやがて泣き始める。


「この死にたがり…っ!そんなロイド嫌い…っ!

…もう…いかないで……何処にも…私の前から…消えないで…」


言葉の後半が彼女の本音だった。


ロイドはその言葉を聞いてハットさせられてように目を見開く。


「…ごめんなさい…私…散ることばかり…」


彼女の目にも涙が浮かんできた。


二人は雨か涙か分からないびしょ濡れの状態でもお互いが泣いていることに気がついていた。


二人の本当の思いが、泥濘の戦場で芽生えたのだ。

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