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異床同夢

ロディーヤの航空隊が猛威を振るう中、テニーニャのグラーファルとシッコシカはやむなく連日の敵都への爆撃を中止した。

爆撃中止の影響は前線にまで及んでいた。

ワニュエの泥臭い塹壕の中で過ごしている三人の少女。


エロイス、ロイド、オナニャンの三人はいつもどおり何気ない日々を送っていた。


ロイドとオナニャンは塹壕に設置された椅子に座っている。

エロイスは塹壕の中を走り回るネズミを屈んで見ていた。


チューチュー鳴きながら子供を連れて逃げるように走るその生き物を興味深そうに見ていた。


「暇ね、エロイス」

「…ロイドこそやることあるの?」

「…」


エロイスのジト目の質問にロイドは思わず顔を背ける。


彼女はゆっくり立ち上がって座っている二人に向けて言う。


「こんなに苦痛な時間はないかな、暇だし、だからといって休めないし。

ほんとに気を抜いたら発狂しそう」


彼女の言葉を最後に会話は途切れた。

しばらく無言の時間が流れるが三人の少女たちにも一人の少女がやってくる。


「おい貴様たち、いい話と悪いけど話、どちらから聞きたい?」


そう言ってやってきたのはダンテルテ少佐だった。

制帽をかぶり黒いとんびコートを肩で羽織っている彼女は尋ねる。


「え〜っ…じゃあ悪い方から」


オナニャンの問に彼女は答える。


「敵都への爆撃中止されたことによって上層部は苛立っている、そして早く奪われた領土を奪還せよとの命令により戦車を用いた敵陣突撃の日にちが六月七日から明後日五月三十日に決まった。

いい話は私の近所の犬が無事出産したそうだ、以上、終わりだ」


それだけを告げると彼女は踵を返し背を向ける。


「ちょっ…明後日って…!まだ…」

「エロイス、死ぬのが早くなっただけだ。

遅かれ早かれいずれ死ぬ、自分で死を受けいいれば相応の覚悟はできるがいつまでの先延ばしにしているといつまでたっても命が惜しくなってしまうぞ」


少佐の言い分にエロイスは少し納得しながらも言う。


「でも…」


うつむく彼女に少佐は近寄りはめた白手袋をつけた手で頭を撫でる。

オレンジ色のボザボサの彼女の髪を優しく撫でるよう触る。


「あっちには旧友も盟友もいる。

安心しろ、いずれみんなそこへ行く」

「…でも…それだと国を守れませんよ。

国を守ることが自分たちを守ることにつながるのですから…私は…なるべく生きたいと思います」


ふと少佐の撫でている手が止まる。

ゆっくりと手を離した彼女はニコッと笑うとその少女へ言う。


「素敵な考えだ。

貴様に加護があるように」


ダンテルテ少佐はその場から立ち去っていなくなってしまった。

取り残された少女たちはいよいよ近づく戦闘へ向け意識を切り替えるのだった。


ブロディヘルメットを被り、軍用バッグパックを背負う。

ハイウエストベルトには陣地構築用のスコップ、腹には弾薬ポーチを装着しベルトの隙間には柄付き手榴弾をいくつか差し込んでいる。


着剣した半自動小銃を構え最前線の塹壕へと移動する。


「いよいよなのね…嫌だわ」

「それはみんな同じなのです、散った仲間の無念を晴らすのです…」


オナニャンはいつになくキリッとした表情でも前を見ていた。


「オナニャンは戦闘は初めてなんだっけ?」

「そうですっ!だからワクワクしているのです、国のために貢献できると思うと誇りで満ち溢れるのですよ」


オナニャンはフンスと鼻息を漏らしながらそう答えた。


いよいよ最前線の塹壕へと足を進めた。


塹壕の中で横たわる兵士たち、おそらく敵から撃たれたのであろう。


彼女たちはその死体を避けつつ移動すると丁度いいポジションを見つけたのかとある地点で停止した。


「ここにしましょう」


ロイドはそう言って立ち止まる。


塹壕にかけられた梯子、塹壕は土嚢や板材で補強されていたがそれでもボロが多く簡易的であった。


三人はそこで突撃を待つのであった。


テニーニャの塹壕では祖国を奪還するために少女たちはワニュエにいた、一方飛行兵として従軍したするリリスたちにも動きがあった。



湖畔の航空基地のとある場所。

滑走路へと通じる道の傍らの芝の上には置かれたテーブルに手をついたイーカルス大尉が叫ぶ。


「はぁ?どうなってんだよ畜生っ!」


大尉はリリスとシュトロープが見守る中怒りに拳を震わせている。


「馬鹿か…?複葉機で艦隊を攻撃するだと…?しかも戦闘機だけで…?

馬鹿め…複葉機のことは俺が一番よく知ってらぁ…あんな鉄板見てーなペラッペラの複葉機で鉄の塊を攻撃だなんて無謀だぜ」


大尉の怒りに満ちた表情はリリスたちに只事ではない雰囲気を伝えるのには十分であった。


「た、大尉…どうしたんですか…」

「参謀本部から連絡があった。

近々ロディーヤの西側の海域を敵の艦隊が通過するらしい、おそらく海岸の要塞を破壊でもするのかもしれない…だがそんなのはどうでもいい。

問題なのはその艦隊を複葉機で止めろと言われたんだ、んなアホな…」


思わず近くにあった椅子を引いてそこに座る。

頭を抱える大尉を慰めるようにリリスが近づき背中を擦る。


それを聞いたシュトロープは口を動かす。


「複葉機と軍艦との尖塔と言うことか?文字通り前代未聞だな、いい捉え方をすれば歴史上、世界で初めての戦いを実行することになるが」

「そんなのはどうでもいいっ!

…負ける戦い何だ…誰だ…こんな作戦を立案したやつは…」


シュトロープとリリスには誰が絡んでいるのかすぐに理解できた。


「リリス…」

「うん、間違いないよ。

参謀総長が潰しに来たんだ」


リリスは頭を抱える大尉へ尋ねる。


「大尉、具体的に伝えられた作戦を教えて下さい」

「ああ…爆装した戦闘機で軍艦を爆撃、これだけだ」


リリスは想像以上に杜撰な作戦に思わず口を開ける。


「それだけ…ひどすぎる…」

「仕方無い…言われた命令は絶対だ。

多少なりとも工夫して生存率上げるしかないな…一応各地の航空隊と連絡を取り合って編隊を組んでいくようにしているが…やはり…複葉機だけでは…」


憔悴しきった彼女の表情を見てリリスは思う。


「…大尉、私に任さてください」

「えっ…?」


リリスは座っている大尉よりも目線が下になるよう片足立ちでかがむ。


「完璧な作戦の立案はできません…必ずしも犠牲はつきものです、ですけど私はその犠牲を最小限にすることができます」

「本当か?リリス」

「はい、兵舎に軍艦に関する情報が載った本があったのを思い出したんです…本当は海軍の人に聞くのが一番いいと思うんですけど…」

「そうか、俺も海に関しちゃ痴呆だからな」


大尉はそういってくれたリリスの顔を見る。

すると彼女はニコッとまぶしい笑顔で笑いかけてきてくれた。


大尉はそんな彼女の顔を見て思わず頬が赤くなった。


「わっ…わかった、よろしく頼む…」

「はいっ!頑張りますっ!」


そう言うと彼女は走って兵舎へと向かっていったのだった。


シュトロープとイーカルス大尉はそれを立って見送っていた。


リリスとエロイス、異なる国と環境に置かれた少女はそれぞれの戦闘のために動き始めたのであった。

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