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悪魔が笑うとき

ワニュエの塹壕にて過酷な生活を余儀なくされているエロイスたちは六月七日の突撃へ向け残り少ないかもしれない人生を生きることにしていた。

泥臭い生活をしている彼女たちとは裏腹にもうひとりの少女は大空を飛び回る英雄として存在していた。

リリス・サニーランド。


十代後半の麦色ショートカットの彼女は既にロディーヤ帝国ではちょっとした有名人になっていた。


それだけではなくたった三人の第一特別航空隊の名実を高めていた。


そんな彼女たちは苦しい生活を余儀なくされている国民たちに希望を与えていた。



帝都チェニロバーンの一角、とある通りの歩道のフェンスに腰掛けて新聞を開く青年二人。


「すげぇよなぁ…女の子三人だっていうのに連日名前が載ってるぜ、第一特航隊」

「あぁ、国母たちだ。

彼女たちが俺たちに勇気を与えてくれている、彼女たちがいれば勝利はほぼ確実だろう」


青年たちは文字の羅列する新聞の紙面に彼女たちの名前が載っているのを見てそう言っていた。


他にも配給を受け取るために並んでいる薄い色素の服を着た婦人が話していた。


銀の皿を持って列に紛れる二人は航空隊のことを話していた。


「すごいわよねぇ、みんな若いのに空を自由に飛び回って…おかげで空爆も最近収まってきて何よりだわ」

「そうねぇ、私も子供が大きくなったら飛行兵になりたいだなんて…」

「あら、いいじゃない。

素敵ですわ」


帝都の人々の話題は目覚ましい活躍を果たす陸軍航空隊で持ちっきりだったのだ。


するとその列から離れて遊んでいた幼女二人が空を見上げる。


「見てママーっ!飛行機だよーっ!」


ママというのは先程の婦人のことだった。


幼い幼女は空を見上げるとそこには無数の複葉機が隊列を崩しながら空を飛んでいた。


グリーンデイもホワイトデイも入り交じる帝国陸軍航空隊の機影が地上に影を落としながら通り過ぎていく。


「ありがとーっ!」


幼女たちは手を振って飛行兵たちを見送る。

複葉機の集団はそのままエンジン音を響かせて空の果てへと姿を消していった。


それにいい顔をしなかったのが陸軍参謀総長のハッケルだった。


彼女は参謀本部の屋上で航空隊を真顔で見送る。


その表情は敵対心もなくかと言って仲間意識があるように見けるわけでもなかった。

ただ、無心で緑と白の複葉機を見送るのだ。


そんな彼女のもとにあの人がやってくる。


「あ、ここにいたんですね参謀総長殿。

どうしたんですこんなところで黄昏れて…」


軍靴を鳴らして近づいてきたのはルミノスともうひとりの少女だ。


ルミノスと同じ軍服ワンピースの上から黒い白衣を着たチェンストンだ。


彼女の顔に切り落とされた鼻の断面を隠すように包帯が横に巻かれていた。


目と口の間に包帯が巻かれいるチェンストンは若干喋りづらそうに言う。


「そういう時期は誰にでもある。

気にしなくていいんだ、僕だってあったし君だっていずれその時期が来る」

「適当言うなよチェンストン」


ルミノスに叱責され言葉を瞑るチェンストン。


二人のやり取りを聞いていた参謀総長は振り返り腿ぐらいの高さの柵を背にして言う。


「陸軍航空隊は思ったより厄介だった。

下手に手を出すと私の地位が危ない、奴らは海軍と実力を背につけている…だがあのまま跋扈させるわけにはいかないな、今度は少し難しい作戦でも取り付けてやろうか」

「ほう、具体的には?」

「そうだな…」


参謀総長は少しうつむき考える。


しばらく無言の時間が続いているとチェンストンが案を出す。


「彼らは空と陸では敵なしだ。

だが海ならどうかな?」


その言葉にルミノスとハッケルは目を見開くがだんだんと目元が愉悦に満ちた様に歪む。


「なぁるほどぉ…?海か…つまり艦隊へのだ攻撃を…?」

「そうだよ、文字通り前代未聞、戦争史未曾有の戦い。

鉄の塊の軍艦とペラッペラの鉄カス見たいな複葉機をぶつけてやるんだ」


チェンストンの説明に笑顔が浮かぶ二人、参謀総長は早速朽ちを動かした。


「よし、海に近いいくつかの航空隊を動かしてその作戦を実行させてみよう。

だが敵艦隊がやってこなければ意味がない」

「それならご安心を」

「…?」


チェンストンのその発言に参謀総長は驚く。


「近々テニーニャの艦隊が西の海上を通過するとの情報が入りました」

「おお、いいぞチェンストン。

きっと海岸を砲撃でもする気なのだろう、いいぞ航空隊を返り討ちにしてくれそうないい手合いだ」


参謀総長は納得したようにうなずくと手を前に突き出して言う。


「早速この作戦の旨を伝えるっ!

戦闘機で軍艦を襲撃しろっ!それだけだっ!これだけを遵守して作戦を行え、それ以上も以外も認めないっ!そう伝えろっ!時期は敵艦隊が通る頃っ!早速伝達するんだっ!!」


参謀総長がそう言うとチェンストンとルミノスは踵を揃え右腕を折って敬礼をする。


「「承服しますっ!」」


二人はそう同時に言うと背中を向けて彼女の側を離れていく。


「軽々しく承服なんて言葉に使うなよ貴様、参謀総長殿に承服屈服征服されていいのは私だけなんだからなっ!」

「…君のようなドチンポ野郎を彼女がそばに置きたがる理由がわからない。

相当な物好きだよなハッケルは」

「バカッ!せめて総長と呼べっ!」


二人は口喧嘩をしながら参謀総長のもとを去っていった。

そんな二人を見送りつつ参謀総長は屋上から帝都の景観を見下ろしていた。


「…素晴らしいな、ロディーヤ帝国。

早く私のもとにしたいな…」


そう一人で笑みを浮かべている参謀総長。

ロディーヤを蝕まんとする野望を持った悪魔は一人で静かにほくそ笑んでいるのであった。

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