刃を交える時
外輪式の蒸気船にて金塊を輸送中だったギーゼ大将とルフリパ中将。
だがそれを追って白の裁判所のルミノスとチェンストンが金塊の在り処を訪ねてやってきたのだ。
蒸気船の上で彼女たちの戦闘が始まる。
仕込み刀を持つ大将と二本のサーベルを携えるルミノス。
お互い睨み合い機会を伺う。
「ペッ!このスカタン女、貴様の首を川底に沈めてやる」
「全く、威勢と言葉だけは強いな。
弱いやつの特徴だが」
そう言った次の瞬間、ルミノスはサーベルを両手に持ちつつ走り込んでベンチの前で立っている彼女へと振るう。
大将はこれを仕込み刀で受け止めるとがら空きの胴体の胸へ向かって強烈な蹴りを入れた。
「ゔっ…!」
心臓近くを蹴り込まれたルミノスは衝撃で後ろに後ずさり胸を手で押さえる。
「クソっ…心臓狙いやがって…っ!」
大将はそのまま船尾から船の両脇にある通路へと走って向かう。
「待てっ!逃がすかっ!」
すかさずルミノスも後を追う。
背中を追うルミノスは予想以上の速さで近づき大将の背中を目掛けサーベルを振りかざす。
大将はそれに気づき仕込み刀で受け止める。
が、受け止めたサーベルは一本だけだった。
大将はそれに気づき目を見開く。
もう一本のサーベルは既に大きく振り下ろす直前だった。
「それ喰らえっ!!」
ルミノスはもう片方の腕を振るい大将の腹を横一文に切り裂いた。
「ぶぇっ…!!」
大将は腹を切られ口から血が溢れ出てくる。
全身の力が抜け、ヨロヨロと後ろに後ずさる。
「くっ…」
自分の腹から血が溢れ出ていくのを見つめ非情な現実を受け入れざるを得ない状況を飲み込んだ。
そのままゆっくりと自分の血の水たまりの中にぺたんと座り込む。
「安心しろ、死にはしねぇ。
加減は私がよく知ってるからな、ひょいと腹の表面を撫でてやったのさ」
「…それでも血が止まらない…」
「いいだろ別に、血が出ようが口は動かせる。
…さぁ話せ、金塊はどこにある、ここに積んでいるのはわかっているんだ」
ルミノスは血の海の中に座り込む大将を見下ろす。
「…おつむがガキのお前にはわからないだろうな、この船が川を進んでいる間は絶対に金塊は見つけられない」
「うるぇーーっ!!喋んなっ!!図に乗るなよこのクソアマがぁぁーーっ!!!」
ルミノスは大将の前髪を鷲掴みにすると飛び膝蹴りで大将の顔を歪ませる。
「ゔぅ…っ!…」
「立場をわきまえろっ!私が上っ!貴様は下だぁっ!そのクソ穴みてぇーな口からひり出していい言葉は金塊っ!金塊の場所だけだっ!」
追い詰められたギーゼ。
(ルフリパ…金塊の守り人はお前だ…
…頼んだぞ)
彼女はそう思いルフリパにバトンを渡した。
ルフリパはチェンストンと対戦していた。
といっても斧を振り回すチェンストンの攻撃を避けているだけだった。
通路を通り、階段素早く登る。
「あははははっ!!武器はないのかっ!君はっ!!」
ルフリパは二階へと通じる階段の手すりをジグザグに飛び移りながら上がる。
そして二階に上がったが構造は一階と同じだった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「ははは、もう息切れか?普段運動していないのがここで出てきたな」
「勝手に人の暮らしを決めないで…貴方の体力が異常なんだよ」
それを聞くとチェンストンは大きな斧を持って近づく。
「早く金塊の場所話してくれないかな?あれば参謀総長の軍資金であり僕の研究資金でもあるんだ」
ルフリパはふと横目で客室の壁を見るとそこあるとあるものを見つけた。
壁の長方形の箱、その一面はガラスで作られております中身が見える。
その中には斧が掛けられていた。
(防災用の斧…チェンストンの攻撃は防げないけど、確実に一撃食らわせられる…)
ルフリパは素早くその斧を取るために走り出した。
「おっ!やる気かっ!!」
チェンストンはすかさず近づいてくる。
ルフリパはガラスを拳で破壊する。
拳でを斬りつけるガラス片を耐えながら手持ちの斧を持つ。
「それっ!」
ルフリパが振り向くと両手に持った斧を振りかざしてきた。
彼女はすぐに避けるがその勢いで地面へと転がる。
防災用の斧があったところにはずっしりと大きい斧が壁にめり込んでいた。
それをゆっくりと引き抜くチェンストン。
「いいねぇ心のちんぽが勃起する。
反抗的な君を嬲れると思うと震えが止まらない」
「…私、貴方の事ただのマッドサイエンティストだと思っていたけど違うは、それ以上に人としてカスよ」
ルフリパにそう言われるとチェンストンは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「嬉しいねその言葉、大好きだ。
僕は小さい時から生き物の仕組みが知りたかった。
セックスという行為は大いに興奮する、性的快楽という意味ではなく研究対象として。
だけどまぁ、行き過ぎたね
染色体異常の人間と精子とその染色体の数に近い動物の卵子を無理矢理受精させるという実験を永遠と繰り返していたら偶然、受精卵が分裂を開始してしまったんだ。
道徳的、法的な問題からキリスト教の教会や化学の学会から実験の禁止を言い渡され追放されてしまった。
だけど参謀総長は僕を拾ってくれたんだ、研究の場を設けてくれた、おかげで僕は自由に研究ができた。
そう施しを受けて思ったよ、僕はこの人に恩を返さなければならない、それがたとえこの国の命運がかかっていようと…たとえ滅ぼうと」
引き抜いた斧を持ちながらルフリパへ向け言う。
「『昔、ロディーヤ人という心の美しい民族がいました。』それでいいじゃないか」
その言葉を聞いた彼女はだんだんと怒りを顔に浮かび上がらせる。
「そうやって自分を正当化するんだ…ただの熱心な研究気違いで終わればいいものの、売国思想にまで手を出した…」
ルフリパは防災用の軽い斧を構えて言い放った。
「人間らしい脳なんかしてるからそういう考えになるのですね。
手段を選ばないのは私も同じ…
必ず屠る、それが今の最優先事項だ」
そう言われたチェンストンは一瞬、真顔になった後、ゆっくりと口角を上げた。
「素晴らしい。
君をサンプルを産む機械として扱おうと思っていたが撤廃だ、人として扱った上で犬死させてやろう」
チェンストンとルフリパはお互い向き合っていた。
覚悟を決めた二人がいよいよ刃を交える時が来た。




