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夏夢想

ロディーヤ皇帝は鎮圧した暴徒の無数の死体を串刺しにして野ざらしにするという暴挙にでた。

これによりより一層テニーニャの反ロディーヤ感情は強まり、大統領もこの感情に拍車をかけるように演説をし、支持率回復を測った。

飛行実験場で保護されていたエロイスたちだったが、そこへフロント少佐とあのレズーアン大尉を乗せた車がゆっくりとやってきた。

その目的は侵攻を進めるロディーヤへの反撃を企てた作戦の伝授だった。

エロイスたち国防軍は未だに飛行実験場にて寝泊まりしていた。

その実験場に送られてくる実験機を眺める毎日が続いていた。


正直ただの穀潰しとなっていた少女隊の国防軍をお荷物だと陸軍たちは感じていた。


「いつまでいるつもりなんだ、あのメスガキ共」

「しょうがないさ、少佐がそのままおいていけって言うんだもの」

「同性贔屓か?寝てばっかりいるくせによ」

「でも乱れたらエロそうだから好き」


陸軍兵たちの不満がつらつらと飛び出る。

事実、国防軍の少女たちも罪悪感を感じていた。

ただにもせず実験を眺める日々、航空に関する知識もない為特別役に立てるわけでもない。


そう感じていた少女たち見覚えのある車がゆっくりとやってきた。


「あっ…あれは…」


そこから降りてきたのは少佐、ではなく見慣れない顔の少女、レズーアン大尉だった。


「あれ?ちょっ少佐冗談きついって〜まるで私が少佐みたいじゃん、ほら早く起きろゴラっ!」


レズーアンが後部座席から赤いコートを引っ張って少佐を外に出す。


「あれー確か安眠少佐ー?と、誰あのチャラそうなのー」

「誰だろう、でも少佐にあんなベタベタできるなんて相当高い階級の…大佐?」

「ええっ!?た、た、た、た大佐…っ!?」


三人がお互いに考察するがそれをピアスの少女はバッサリと断ち切る。


「ちーすっ大尉のハマナウ・レズーアンでーすぴすぴーす」


その場にいる国防軍全員が驚く。


「大尉っ!?なんでそんな人が少佐にベタベタと…」

「ちょパツキンそんなってなによ~、一応みんなより上なんだけど〜」

「なんて頭の悪そうな大尉だ、准尉に戻してほしいなー」

「なんか言ったかそこ、顔覚えたかんな、なんて言うんでちゅかちみ〜?お名前は〜?」

「レイパス・グランダー。私君のこと嫌いかなー」

「オイっ!言葉に気をつけろ〜?じゃねーとこんな風にっ!」


大尉がレイパスの顔へと振りかざした拳を目の前で止める。


「な〜んてうっそぴょ〜ん!冗談だって仲良くしようね〜私暴力とか嫌いだしぃ〜。

あ、あと敬語とかいいよ堅苦しいのも嫌いかな〜」

「…まぁ、こんなやつだが意外と頼りになったりするかもしれん、無益な争いはやめてくれ」


少佐も念を押すように大尉の肩に手を乗せる。


「ってことはいなくなった准尉の代わりですか?」


リグニンが少佐へと質問をする、少佐もその質問に答える。


「そういうことになるな、まぁ本人がこういうやつだからあんまり不祥事とかはないとは思う」


少佐が襟を直して改めてここにやってきた意味を説明する。


「諸君に新たしい任務だ、それ以上ロディーヤを好き勝手させない。

陸軍兵の目が辛かったことだろう、ようやく異動だ」


国防軍の少女たちが沸く。

ようやく自身が戦える日が来ること、そしてロディーヤへの復讐のときが来ることを心の底で楽しみにしていた。

陸軍兵たちもやっといなくなってくれるのかと言うようなため息をつく。


「それで場所は…!」

「まぁ落ち着けエロイス、場所は我が国が誇る砦、アッジ要塞だ」

「アッジ要塞…!」



アッジ要塞。


それはハッペルより遠くにある標高約三百メートルの山脈の峰に作られたバンカー群の事。

それは外部からやってくる敵を防ぐのに十分な強度を誇っている、反撃のチャンスというわけだ。


「少しの人手が足りなくてな、陸軍兵と一緒の任務になるが国防軍の諸君、頼むぞ」

「任せてくださいっ…!私たち頑張ってみせます…!」 

「確かエロイスとか言ってたな、頑張ってくれ。

私はその要塞まで付き合う、何日か歩くことになるからしっかり休んでおいてくれ。

明日の朝出発だ」


国防軍たちのやる気も回復してきた。 

アッジ要塞は国内でも広く知られた存在であり国防をの象徴だった。

そこに配属されるということはとても名誉なことなのである。


「みんなすごいじゃ〜ん、私も一緒に付き合うからさ、頑張ろ〜ね〜」


しかしその馴れ馴れしい態度に国防軍の少女たちの目線は冷たかった。



エロイスたち三人は密かにレズーアン大尉への陰口を言っていた。


「ねぇねぇみんな…あの人どう思う?」

「そりゃあんまり頼りにならなそうだな〜ってのが正直なところ、あとウチをパツキン呼びするところとか、なんか距離感おかしいよね」 

「私も嫌いかなー、エロイスは?」 

「うん…悪い人じゃないとは思うけど…少佐に一目置かれているんだったら安全だと思う。

私はそこまで嫌いじゃないけど…」


チラっと見ると大尉は初対面の国防軍の女の子たちに話題を振って回っていた。

少女たちの表情から本心から楽しんで会話をしていないことが感じ取れる。


そしてついにエロイスたちのもとににもやってきた。


「ねぇねぇ調子どー?いい感じ?アッジ要塞だって、映えスポットじゃんやったね!」

「あ、私大尉のこと嫌いなんで話しかけないでもらっていいですかー?」

「またまた〜冗談だ下手だなぁ全く〜」

「大尉…一つ聞いていいですか?」

「どうぞどうぞ〜」

「その…大尉はお喋りが好きなんですか…?色んな人とどんどん会話していってて…」

「ん〜…まぁ強いて言うならそうかな、なんかさこう、長年できなかったことができるようになるとその欲求が爆発する?まぁそんな感じ」

「欲求?」


リグニンがふと疑問に思う。

そしてその疑念を解消すべく尋ねる。


「敬語はいいって言ったよねレズーアン、質問するけど喋られなかった欲求ってどんなの?」

「どんなのってなぁ、まぁ自分でもわかってるんだよこんなおしゃべりなやつだっての、はっきり言ってうぜぇだろ?でもやめられない。

多分病気なんだ私」

「そうなんだー事情を知ってもあんまり好きになれないなー」

「レイパスって言ったっけ?あとで毛先チリチリの刑な」

「マジかー」


そんな他愛もない会話が続く。

少しの嫌悪感が和らいだ気がしたが根本的な性格の差から、合わないなと三人は感じていた。



そして翌朝、いよいよフロント少佐とレズーアン大尉に率いられ国防軍は列をなして実験場をあとにしようとする。


「今までお世話になりました」


そう国防軍全員で頭を下げる。

陸軍兵たちも小さく手を降ってそれを見送った。



国防軍一行は長い針葉樹の森林地帯を歩いていた。

未踏の獣道を草を踏み分け慎重に進む。


「うわっ!?」

「大丈夫?エロイス?」

「う、うん…ちょっと足を取られちゃって…」

「地面はぬかるんでるからねぇ、しんちょーしんちょー」


大尉がわざわざ手を差し伸べてくれる。

言動はアレだが、根は悪い人ではなさそうだ。


「ありがとうございます…」

「いいってことよ、あと敬語は使わなくてもいいのにー。

リグニンもレイパスも私に全然敬語使わないよ〜」

「言われなくても使わないけどねーこんなやつ」

「レイパス、腹減ったろ?あのキノコ美味いって評判だぞ?死人のあいだでな」

「わー美味しそー大尉先に食べていいよー」

「二人ともギスギスしない、さっさと歩いて」

「もー」

「まぁしょうがないか〜」


しばらく無言のまま歩いていると流石に疲れてくる。

冬の寒波も手伝ってなかなか厳しい環境に歩みを続ける。



「さ、寒い…ねぇみんな〜しりとりしない〜?少佐も一緒にねぇ?」

「そうだな…口を動かさないと唾液で唇がくっつきそうだ」

「じゃあ先頭の少佐から私、エロイス、リグニンって順で後ろまで行こうよー聞こえる声で大きくねーー!はい、少佐、どうぞ!」

「じゃあ、利子」

「し、少佐!はい!」

「さ…さ…、五月雨」

「れ…レイパス」

「酢の物」

「の…ノンアルコール飲料…」

「雨量観測」

「く………



しりとりは特に盛り上がる場面もなく列を何周かしていった。

そしてまた先頭の少佐まで回ってくる。


「ね…ね…年齢差」

「おお、じゃあささみ!」

「み…み…民事訴訟はもう言ってるし…み…み…」


エロイスが言葉に詰まっていると突然森が終わり、開けた場所へとついた。


「湖だっ!」


そこには広大な寒々とした湖が広がっていた。

かすかなそよ風で水面全体が波打っている。

湖の反対側に山が並び、その頂上に灰色の要塞が木々の間から顔を出していた。

あれがアッジ要塞である。


「なるほどー確かに攻める側からしたら嫌なところに建ってるねー。

目の前の湖、そして山のてっぺんに要塞、これはロディーヤも骨が折れるぞー」


少佐は列を開けた場所まで誘導し、全員の顔が見えるように湖を背にして説明する。


「見ての通り、あれがアッジ要塞だ。

あそこまで行くには悪いが湖を迂回して山を登らなければならない、大変だがもう一息だ。

それとも休憩するか?せっかく水場があるんだ、遊んでもいいぞ」

「え?マジマジ?太っ腹じゃん!」


レズーアンが真っ先に食いつく。


「だが泳ぐとかなら気をつけろ。

あの要塞には陸軍兵もいる、見られたくなかったらやめたほうがいいぞ、もしかしたら双眼鏡で覗いたりしているかもしれないからな。

こんなに寒いと水の中のほうが暖かかったりするかもしれないが」


国防軍の少女たちは開けた場所でたむろうことにした。

倒木に腰を掛けて雑談したり、森を再度探索したり湖を観察したり。


三人はそんな国防軍のもとを離れて草木が茂る、湖の端の方へやってきた。


「レイパスー…どこまで行くの〜…私もうくたくた…」

「まぁまぁ、頑張ってついてきてー」


レイパスが主導になってリグニンとエロイスを引っ張る。


たどり着いた先は人の気配一つないそんな大自然の風景だった。


「なんでわざわざこんなところに連れて来たの?ウチらにになにか関係ある?」 

「全然関係ないよー」

「なんじゃそりゃ」


レイパスは立ち尽くす二人の尻目に突然軍靴を脱ぎ始めた。


「でもさー三人の思い出なんか作りたくない?私、戦争の思い出だけじゃなくてこうやって年相応の女の子みたいなことを三人でやりたいなーって思ってたんだー、時期が悪すぎるけどねー」


軍靴を放ると靴下も脱ぎ始めた。

ズボンの裾を上げ、素足のレイパスが湖の方へと走っていく。


「いやっほ〜っ!!」


バシャバシャと湖の浅瀬をかけるとそのまま腰を曲げなにやら手探りで水底を探る。


「採った!」


手には湖に生息している小魚を手に持っていた。


それを見た二人は顔を見合わせて、リグニンは呆れたような、エロイスは楽しそうな表情を浮かべる。


「よーし!ウチも魚採ったる!」


リグニンが走りながら軍靴や靴下を脱ぐ。

そしてそのままの勢いで魚を探すことなくレイパスヘ突っ込んでいった。


二人は真冬の湖へ倒れるとそのまま起き上がって走って岸ヘ戻ってくる。


「バババババ馬鹿っ!魚も逃げたし、服も濡れた!」

「こここここんなに寒いなんて思ってなかった!エロイス!やばい死ぬっ!」


二人の唇はすっかりと青紫色になっていた。

一生懸命濡れた軍服の上から腕をさする。


そんな滑稽な二人を見ていたエロイスはなんだか自然と面白おかしくなってきた。

次第に大口を開けて笑い始める。

それを見たびしょ濡れの二人も寒さを忘れるたかのように釣られて笑い出す。

まるで旧知の親友の交流とも呼べるほどのやり取りだ。


すっかり三人のいる空間は微笑ましい雰囲気に包まれていた。

軍服を着てさえいなければ戦時中ということさえ忘れてしまうようなそんな光景だ。


「エロイスっ!手っ!」

「私も私も!」


凍える二人の冷たい手をエロイスは温かい両手で迎える。

そして手を繋いだまま、近くの倒木ヘ腰を掛けた。


「いつもだったら濡れた服すぐに家に帰って着替えてまた遊ぶんだけど流石に濡れたままは堪えるなぁ」 

「ねーエロイスの手ー温かい…」

「わかる…馬鹿やってごめんねエロイス」

「いいよいいよ、二人見てると元気出てくるし、また見たいなこんな光景」

「戦争が終わったらねー」


リグニンがエロイスの肩に頭を乗せる。


「戦争が終わってもウチら友達でいようね、兵士としてじゃなくて普通に親友って感じで」


それに同調するようにレイパスも肩に寄り添う。


「エロイスはどんな服着るのかなー、君に戦闘服なんて似合ってないよ。

かわいいお洋服ちゃんと着て夏、どこかに行こう」

「どんなとこがいいかな?普通に街で買い物とかでもいい、それとも海かな?エロイスのやらしいエッチな水着が見てみたい」

「ちょっとっ!私はそんなの着ないって!」

「同感ー、ほぼヒモみたいなやつでしょー知ってるー、そういうのなさそうな子程興味あるからねー」

「レイパスまで!」 

「あははー、夏までには終わってるかな?」

「どうだろうねー、あとで一ヶ月でクリスマスだし、サンタに終戦でも頼んでおこうかな?」

「いいね…っ!レイパス、その案に賛成!」

「確かにいいな、頼んでみるかな三人で」


そのまま肩をエロイスに寄せたまま妄想に浸っていた。

そんな妄想が遠くない内に実現してくれることを願いながら。 



「やばい…エロイス…ウチねみい…」

「わかるー…なんか眠くなってきたなー…」


次第に濡れた二人に眠気が襲って来る。

体の温度が上がり始めたことでエロイスの肩でとうとう眠りについてしまった。


エロイスは二人の睡眠の邪魔をしないようにじっとして動かない。

その代わり二人の寝顔をじっくり観察することができた。


リグニンは静かに寝息を立てながらスヤスヤと眠りについている。 

一方のレイパスは上を向きながら口を開け、よだれが口から垂れている。 

そんな顔も愛嬌があってエロイスにとっては微笑ましいものだった。


「三人ともーそろそろ出発だぜぇ〜」


落ち葉をザクザクと踏んでやってきたのはレズーアン大尉だった。

どうやら出発するので集まるということを伝えに来たようだ。


「あっ、大尉…っ!すみません、でも…」

「え?なになに?二人の寝顔が愛おしくて起こせない?わかるわかるその気持ち痛いほどよくわかる」

「ど、どうして心の声を…!」

「え?嘘、適当に言ったんだけど」

「あっ」


思わず顔が赤くなる。

手で顔を覆いたいくらいの恥ずかしさだったがあいにく今手は動かせなかった。


「ふぅ〜ん、ま、なんでもいいけど…あっゴキブリっ!」

「えっ!?」


エロイスが勢いよく立ち上がり、倒木から離れた。

エロイスという支えがなくなった二人はお互いに倒れ合いそのまま頭を強打した。


「いっでぇぇ〜…なんてことをするんだレイパス…」

「そっちこそ…」

「ご、ごめん…!二人とも!」

「おはよー目ぇ覚めた?」


二人がすごい形相で大尉に迫る。


「エロイスになんて言ったんだぁ〜?レズーアン?」

「エロイスがこんなことするわけ無いしなー?きっと虫でもいるって脅かしたんだろうなぁー?」


あまりの気迫に大尉も額に汗が流れる。


「ごごごごごめんって…エロイスが起こしづらそうだったから代わりに起こしてやろうと…」

「にしてもやり方あるでしょー?大尉さぁ〜ん?」

「レズーアンもそろそろ寝たさそうですしなー?一発眠らせてあげましょー?」

「ヒェェぇぇぇぇッ!た、助けてぇ〜!」



ようやく四人が国防軍の元へ集まる。

少佐はその変わり果てた大尉の表情を見たが、いつものこととさほど気にしていない様子だ。


「さてではそろそろ出発するぞ、あの山頂目指して一直線だ」



顔が潰された大尉が二人の後ろでぼやく。

隣には心配そうにエロイスがくっついていた。


「クソー顔がピカソになるくらい殴りやがってあの二人」


そんな少女たちのほのぼのした茶番をあとに国防軍一行はアッジ要塞へと向かうのであった。

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