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幸せを分け合って

会戦後、塹壕に溜まった雨水を組み上げて排水作業に従事していたエロイスたち。

作業後に鶏肉を食せることに心を踊らせながら排水を終えて支給される鶏肉を待つ。

彼女たちの排水作業は半日も続いていた。


ぬかるんだ塹壕の中でエロイスたちは屯していた。


「やっと排水終わったぁー…半日もかかっちゃって腰がもう…」


エロイスは腕を伸ばしながら気持ちよさそうに言う。


三人の少女たちはワニュエ一帯に漂う嫌な匂いを気にかけていた。


「干上がったワニュエは臭いのです…」

「そうね、腐臭と泥の匂いで鼻がむず痒いわ。

…でもそんな匂いの中でも何か食べようと思えるんだから不思議よね」


ロイドとオナニャンはつらそうな表情でそんな会話をしていた。


すると彼女たちのもとに配給の缶が回ってきた。


少し大きな金属のバケツに蓋がついていた。

それを隣の青年兵から回されてきた。


「一人一本」


無愛想に言われて受け取ったロイドは缶の蓋を開けた。


「わぁ…っ!」


ロイドの顔が自然と笑顔になる。


そこには少し赤く色のついた骨付きの鶏肉が入っていた。


「美味しそうなのです…!」


ロイドが一つ摘んでオナニャンに缶を回すと、彼女は二本取った。


「あっ、オナニャンずるい、二本取って」

「わ、わかってるって…高度なボケなのです…これはエロイスの分なのですよ…」


渋々答えたオナニャンにエロイスは微笑むと缶を持って少し離れた青年たちへと回しに歩いていった。


「…二本食べちゃだめよ」


両手に携えた鶏肉をキラキラと輝く瞳で見つめていたオナニャンが今すぐにでもそれを口には入れていましそうな様子に静止をかけた。


「わかってるって…!うちがそんながめつい子だと思わないでほしいのですっ!」


顔を赤らめて憤慨するオナニャンを微笑んで見るロイド。


エロイスが戻ってくるとオナニャンから鶏肉を受け取り三人は仲良く並んで冷たい骨付きの鶏肉を頬張ろうとした。


「「いっただっきま〜すっ!!」」


三人が口を開けて鶏肉を頬張ろうとした瞬間、辺りに不気味な機械音が鳴り響いた。


どんどんと大きくなる音に兵士は声高に叫ぶ。


「敵機ぃーーーっ!!!」


その瞬間、上空の雲間から複数の機影が姿を表した。


「グリーンデイ一機っ!ホワイトデイ二機っ!!爆弾を抱えているっ!伏せろっ!!」


急降下してくる敵機に塹壕の武装聖歌隊の兵士たちは慌てふためく。


近づいてきた敵機は機体の底に抱えた爆弾を投下してくる。


着弾した三つの爆弾がエロイス付近の塹壕で爆発した。


爆風により泥や土は巻き上げられ、雨のように降り注いでくる。


ロディーヤの複葉機はゆっくりと上昇して去っていく。


「くそっ!!あの野郎っ!!」


兵士たちは半自動小銃を使い去りゆく敵機に銃撃を浴びせていたが、効果は殆どなかった。


三発爆撃を食らわせた敵機はそのまま空の彼方へと姿を消しいていった。



近くに爆撃がされたエロイスたちは降り注いだ土の中に埋まっていた。


「ゔぐっ…ゔぅっ…」


エロイスは自力で土の中から起き上がった。  


頭のヘルメットや背中に土を乗せながら起きた彼女はあたりを見渡す。


塹壕の底に新たに降ってきた土が堆積していた。


エロイスはおぼつかない足取りで立ち上がると両手を見つめ絶望する。


「あっ!鶏肉っ!!」

 

足元を見渡すと彼女の軍靴の下に感触を感じた。


「まっ…まさか…」


ゆっくりと足をあげるとそこにはボロボロにほつれた骨付き鶏肉が泥や土をまとってあった。


彼女は鶏肉を落とした上に自分の足で踏みつけてしまっていたのだった。


「ああっ…そんなぁ〜…」


思わず膝を突き、手をつく。

四つん這いの彼女はその無様に泥中に埋まる鶏肉を見つめていた。


落胆で涙が出る。


にじみ出た涙が目から零れ落ちそうになったが、落ち込む彼女の背中をトントンとつつかれた。


エロイスが振り返るとそこにはロイドとオナニャンが立っていた。

ふたりとも土で汚れていたがオナニャンの手には鶏肉があった。


小さな手のひらサイズの骨付きの鶏肉。


オナニャンは笑ってエロイスに言う。

 

「…三人で食べようと思ったのです…一緒に」


オナニャンは少し気恥ずかしそうに言った。


エロイスはその言葉を聞くとゆっくりと立ち上がってオナニャンを向き合う。


「…うんっ、ありがとう」

「…っ!!」


エロイスのにこやかな明るい笑顔により顔が赤くなるオナニャン。


「はっ…始めてなのです…

友達っていうのは自分の都合のいい人間のことじゃないって思ったのは…

エロイスの為を思うと不思議と…心が暖かくなるのです…っ!」


オナニャンの成長したような、優しくたくましい表情でそう言ったのだ。



三人は広いな塹壕の真四角の陣地のベンチに座って分け合って鶏肉を食べた。


肉を裂くように摘み仲良く笑いながら食事を長く味う。


「皮肉にも敵襲が私達の仲を深めてくれたわね」

「うん、ちょっとしか食べられないけどそれ以上のものを味わってる気分」


少女たちはそうお喋りを交わしながら小さな鶏肉を咀嚼していた。


空は既にわずかにオレンジ色に染まりつつある。

僅かな鶏肉の食事は夕食になってしまっていたのだった。

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