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禁忌を侵した少女

ロディーヤのルミノスたちはギーゼ大将の挑発とも取れる行動に静かに憤慨していた。

彼女を捌くべくルミノスと共にあるもうひとりの少女が行動を共にしてくれることになった。

ルミノスは帝都のとある広場のベンチに座っていた。


腕を組んでうつむきながら考える。


(車庫へと届いたときにはまだ金塊はあった。

それからここに来るまでに消えたということはその間に奪われたということだ…だとすれば捜索範囲は…かなり広いな…)


半ば諦めたように表情で空を見上げる。


「私は一人じゃ無理だな…だからこそ参謀総長殿は支援を一人よこしてくれると言っていたんだな…」


ルミノスは座りながらあたりを見渡すが周りは生気の抜けた人間が広場に集まっているだけだった。


ベンチに横たわる浮浪者のような身なりの老人。

建物を背にじっと座っている親子。


活気ある街とは言えなかった。


(…ここに長居していると浮浪者共に襲われそうだな、配給怠ってるのは私だし…でも私は悪くないもんねー陛下のせいだそうに違いないっ)


彼女は立ち上がろうと腰を浮かすと指を組んで空へ向けて伸びをした。


唸るように背伸びをすると力を抜く。


すると彼女の目にある人物が飛び込んできた。


「さぁ答えたまえ、君はここで何をしているのだ?なぜバナナの皮を見つめているのだね?」

「…」


視線の先には身なりの汚い少年と少し背の高い少女がいた。


ターコイズ色の長髪 かけあげた長い前髪の右半分で右目が隠れているが左側の髪は耳にかけている。

髪には白い精子のような柄が複数あり、薄紫の瞳がキラキラと艶めいている。


軍服を着ていたのだが、ルミノスと同じ白の裁判所の女子用の軍服ワンピースを着ていたのだ。

その上から黒い白衣を着用していると彼女は屈んでバナナ伸び皮を見つめ続ける少年に話しかける。


「…お金くれたら教えるよ、少額でいい」

「いいだろう、これでどうだね」


黒い白衣を着た彼女が銅色の硬貨を手渡す。

彼女の手は黒いレザーの手袋を嵌めていた。


「さぁ教えてくれたまえ、僕は知的好奇心が抑えられないんだ。

君がバナナの革を見つめ続ける理由とは?」

「ありがとうお姉さん。

俺がここでバナナの皮を見つめ続ける理由はお姉さんみたいな人からお金を貰うことだよ」


それを聞いた瞬間、彼女はガッチリと固まってしまった。


ゆっくりと立ち上がると、その少年向けいきなり足蹴りを食らわせた。


「このクソガキッ!!んなしょーもねぇー理由で僕を引き止めやがってっ!!僕が抱いた好奇心を返せバナナ小僧っ!!」


彼女は激しい足蹴りで少年を容赦なく地面に叩きつける。


少年は彼女の激しい蹴りに頭を守るような体勢でやがて動かなくなっていく。


「ちっ…こっちは人を待たせているんだっ!このクソガキッ!子供なんか生むんじゃないぞっ!これ以上この国に無能を増やすなよっ!!」


捨て台詞を吐くと少し遠くにルミノスがいるのが目に入った。

彼女はルミノスに近づきながら声をかける。


「やぁ、僕はチェンストン・ウェンストン、下の名前でいいだろう、チェンストンと呼んでくれ」


チェンストンの笑顔での挨拶にルミノスはわかりやすく頭を抱えてため息をついた。


「あーあ、わかりやすく面倒なやつがいたんだ、まさかこいつかよ」

「君がルミノスだね?よろしく」


黒いレザーの手袋の手を伸ばすとルミノスは少し間を置いてから手を交えた。


「よろしく、私が白の裁判所総指揮官のルミノス・スノーパークだ」

「おお君が…いい…女だ」

「…とりあえず座るぞ」


二人はすぐそばのベンチに腰を掛ける。


ルミノスはベンチの背もたれに腕を回し、チェンストンは丁寧に膝を畳み上品に座る。


「ところでルミノス、君は僕のことを知っているのかね?」

「事前情報は聞いている。


『チェンストン・ウェンストン。


有機化学や生化学の学者。

特に熱を入れているのが生化学、幼少期にグレゴールメンデルやウォルターサットンに影響を受け研究を始める。

染色体異常、つまり障害者の人間と精子とその染色体の数に近い動物の卵子を無理矢理受精させるという実験を永遠と繰り返していた。

ある時、受精実験をしている途中、偶然受精卵が分裂を開始してしまった結果、その実験がバレて道徳的・法的な問題からキリスト教の教会や化学の学会から糾弾され実験の禁止を言い渡され業界からは追放された。


その後は白の裁判所の軍医として参謀総長やルミノスたちに務めていたが参謀総長にその論文を読まれています自由に研究していいという条件の代わりに廃園化計画に加担している』


改めて見ると狂ってるな貴様の経歴」


ルミノスは遠くを見つめながら記憶していた情報を口に出す。


「あはは、そのとおり。

人の遺伝子は面白いぞ、どれだけいじっても飽きない。

僕の研究がいずれ後世に継がれることを祈っている、そのためには手段は選んでいられない。

国が滅ぼうが僕には関係ないね、器具とサンプルの人間がいればそれでいい」

「あーあこいつやべぇ、道理で参謀総長殿が遣わせるわけだ。

…足だけは引っ張るなよ」

「もちろん、君の為に努めさせてもらうぞ…ところで君は男かね」

「あ?関係ないだろ」


チェンストンの唐突な発言にルミノスは戸惑う。


「いや、ここで恩の一つや二つ売るのもいいな、精液のサンプルが欲しかったところだ」

「…やだね、私の遺伝子で新型生物でも作られたらたまったもんじゃない」

「この前の三つ目のひよこが孵化したときはワクワクしたなぁ、すぐに死んでしまったが…

あ、彼は顔がアジア人っぽいぞ、蒙古症かね、少し欲しいぞ、染色体多めのやつが…」

 

通りすがりの人間を見て舌なめずりをしながら妄想を含ませる彼女に少しドン引きするルミノス。


(何だこいつ…なんか…関わっちゃいけない野郎だってのは私でもわかる。

嫌だなぁ、距離置くか…)


ルミノスは尻を移動させてチェンストンと少し離れた。


「おいおい、離れないでくれたまえ。

君も重要なサンプルの一つなのだから」

「そういうこというから離れたくなるんだろがっ!離れろっ!」

「断る、人間は引力でなく心で引かれ合うのだよ」

「知るかっ!それっぽいこと言ってんじゃねぇーっ!」


ルミノスは新たに少し変わった黒い白衣をの少女と顔見知りになった。

チェンストンという謎多き彼女がパートナーとなってしまった瞬間であった。

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