【第四章『幽玄みたいな国編』】プロローグ
リリスは航空司令官となるべく動くギーゼ大将と出会った。
リリスたち飛行兵はいつも通り国を守るために空を飛ぶ。
それぞれの少女たちは長引く戦争に従事していた。
リリスはイーカルス航空隊の一員として大空を飛んでいた。
青い青い空に二機の緑色の三葉機グリーンデイと白い複葉機ホワイトデイが大空を飛んでいた。
その三機がテニーニャの黒い複葉機の双発爆撃機ゴールドミルキーウェイの隊列の上空から奇襲を仕掛けていた。
「敵機っ!」
搭乗していたテニーニャが叫ぶ。
攻撃された爆撃機は真ん中から谷折りのように翼を折り炎と黒煙を上げて高度を下げていった。
ゴールドミルキーウェイの機体は前席の操縦席と後席の銃座を繋ぐ人一人が通れる狭さの通路があった。
ゴールドミルキーウェイの操縦席の横に立っていた兵士はその通路を歩き強い風を浴びながら銃座へと移動する。
足元には真っ赤に染まった兵士がぐったりとしていた。
「野郎っ!敵討ちだっ!」
後席の旋回式の重機関銃の取手を握り取手の間にあったトリガーを押し下げると単調な銃声と共に弾丸が射出された。
その弾丸は飛行するロディーヤの敵機へ向かって行くが、動き回る機体の跡をなぞるようにしか飛んでいかない。
高速で動き回るグリーンデイに発砲が追いつかないという自体に陥っていた。
「なんだからあの機動力…早すぎる…っ!」
そのグリーンデイはぐるっと背面で旋回する。
後ろ向きでやってくる機体は百八十度回転すると勢いよく爆撃機へ向けやってきた。
そこで銃座の兵士は初めてパイロットの顔を見ることができた。
「…っ!少女だっ…」
飛行帽とゴーグルを装着した少女の顔は真剣だった。
リリス・サニーランド。
国内随一のイーカルス航空隊の伍長を務める麦色のショートヘアの髪を持つ少女だった。
驚きで手が止まったその機体にリリスは銃撃を仕掛けていく。
リリスは敵機の上空を通過する瞬間、機首の重機関銃の二丁が火を吹いた。
爆撃機の黒い大きな主翼はバラバラと銃撃よって破片が飛んでいく。
「うわっ!!」
「ぎゃぁっ…!!」
銃座の兵士にも座って操縦していた兵士も弾丸の雨に晒され重症を負う。
そしてゆっくりと機体は傾き速度を落としながら降下していく。
そしてそのままバランスを崩し空中分解すると森の中へ墜落すると共に大爆発を起こした。
「おやすみなさい、いつか地獄で」
リリスはそう言うと爆発した機体へ向けてカーネイションが三輪包まれた花束を操縦席の横から取り出して眼下に投げた。
リリスが敵への敬意を忘れないという彼女の手向けだった。
彼女はそうした日々を過ごしていた。
その一方、テニーニャの武装聖歌隊の第一歩兵連隊のエロイスたちは既にワニュエ地域の塹壕へたどり着いていた。
蟻の巣のように掘られ、張り巡らさられた塹壕の中に身を潜める。
天然の自然はすっかり駆逐されてしまっていた。
塹壕から見える景色は枯れ木が数本立ち並び、砲撃によってボコボコになった泥濘だけだった。
エロイスたちは板材やライナープレート、土嚢泥濘補強された塹壕の中にいた。
「よしっ…!ババ回避っ!」
「ええっ…!見たのですっ!何かしらの手段で…ロイドっ!貴方がエロイスになにか…」
「そんなことするわけないでしょう、早く進めなさいよ。
こういうゲームは早く上がった人が暇なんだから」
ロイドは退屈そうに頬杖をついてドラム缶の上に座っていた。
エロイスの手に一枚の無地のカード、オナニャンの手には二枚のカードがあった。
二人はどうやらババ抜きの最終局面を迎えていた。
そしてオナニャンがエロイスからカードを取るとオナニャンは舌打ちして揃った手札を出して同時にジョーカーも出した。
白いカードの表面には稚拙な絵で描かれたジョーカーのピエロやスペードが描かれている。
彼女たちは自作のトランプでババ抜きをしていたのだった。
「あーあ負けたのです、つまんないのです」
「私運いいからね」
オナニャンとエロイスはゲームを終えて一息つく。
すると遠くで落雷のような轟音が鳴り響いた。
「ん?砲撃…?」
オナニャンが少し怯えるように尋ねるとロイドが答える。
「ここじゃないわ、安心して」
「そっか」
「…じゃあロイド、オナニャン、そろそろ戻ろっか最前線の塹壕へ」
「ゲェっ!ヤダなぁ」
オナニャンはそういう言いつつも仕方なくバッグパックを背負いヘルメットをかぶり半自動小銃を握り移動する。
塹壕の中を歩いていると負傷した兵士たちとすれ違う。
「ゔゔっ……」
三角頭巾で腕を支えていた兵士が苦しそうに呻いている。
そしてそれを兵士が担架で運んでいた。
三人はそれの邪魔にならないようにすれ違って最前線へ向かう。
前線は一番整備されていない塹壕だった。
土を掘り返しただけの彫りのそこを板で足場を作っていたぐらいで、臭い土や泥の匂いが鼻孔をくすぐる。
時々肉の腐った腐臭や血の匂いが漂っている。
足元に敷かれた木の板の軋む音とねちゃくくちゃと死人の体液によって水音を立てながら歩く。
「うええっ…慣れないのです…」
「早めになれることね。
ほら、そこに人骨」
「ひいいっ…!」
ロイドが指差した方向には人の大腿骨らしき白い人骨が泥中に埋まっていた。
「うち、こういう新しい環境になかなか慣れない性癖だからなぁ…不安なのです」
「大丈夫だよオナニャンっ!ここには私達がいるから」
「よくわからない理屈なのです…」
泥土に囲まれた塹壕の前線を三人は歩いて進んでいった。
ワニュエ地域の塹壕で戦闘に従事し彼女たちは心機一転気合を入れ直し再び塹壕戦へ備えるのだった。
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