浮き出る追想
リリスたちのいる航空基地に現れたのは帝国陸軍大将のギーゼという人物だった。
彼女は一体何の目的でこの基地へとやってきたのだろうか。
陸軍大将が現れたとの報を聞き、急いで迎えに行くイーカルス大尉。
銀髪セミロングのポンパドールのデコ出しの髪をゆっさゆっさと揺らしながらは走る彼女は停車している自動車へと駆け寄る。
大尉は背筋を伸ばし上官を迎える。
ドアが開くと後部座席から大将が降りてきた。
白髪の髪、毛先に向かうに連れ段々と黒くなっており少し長い前髪を横に流している。
後ろ髪の先端をV字に切りそろえたロングへアに三編みのハーフアップがサラサラと風に靡く。
金色の飾緒とエポレットのついた上衣を着衣、黒のプリーフスカートに黒ニーソックス。
皮のブーツと制帽、腰のベルトの左にサーベルを帯刀して、杖をついている。
地に降り立った彼女は迎えてくれた大尉に尋ねる。
「私は帝国陸軍軍団を率いる陸軍大将、ダッカシンキ・ギーゼだ」
「おうっ、俺はイーカルス大尉だぜ。
第一特別航空隊っ!略称第一特航隊っ!通称イーカルス航空隊っ!」
大尉は敬語というものを知らないようだった。
まるで同級生のように話された大将はじっと彼女を見つめていたがあまり言及はしなかった。
大尉は太眉をピクピクと動かしながら尋ねた。
「…なんで陸軍大将がこんな辺鄙なところに?悪いが俺たちゃ随一のツワモノ揃い何だぜ、金には困っちゃぁ…」
「…勘違いするな、礼を言いに来ただけだ」
「…礼?あぁこの前のラインツィッヒでのやつだな。
あれ結局どうなったんだ?」
「私達ロディーヤ軍の勝利だ、お前たちの爆撃がなければ通信基地は破壊されなかった。
伝達を失った敵兵共に為す術はなかったようだ」
その報を聞き大尉は「よしっ」どうなったんだガッツポーズを決めた。
「街を攻略した歩兵部隊たちからはすっかり英雄扱いだぞ、一体どこの航空隊の所属何だと。
…だが航空隊を飛ばすという話はなかったはずだ、お前の指示か?」
「…出撃の許可を出したのは俺だ、だが源流は違う。
言い出したのはリリスだ、リリス・サニーランド。
慈悲深くて強くて隣人愛に溢れている神様みてぇにいいやつだぜ」
大尉からそう聞かされると大将は嬉しそうに微笑んだ。
「そうか、立派に成長したんだな」
「あ?てめぇリリスの親か何か?」
「…案内してくれ、リリスのもとへと」
そのリリスとシュトロープは野外のテーブルの席に座ってベーコンスープを食していた。
もっとも、食べていたのはリリスだけだが。
そんな二人のもとに大将と大尉が近づく。
杖をつきながらも背筋はまっすぐ、まだ二十代前半らしかったのだが老兵のような貫禄を染み出している彼女が大尉に連れられて歩いてきた。
「おらよ大将、元気だぜ」
大尉はちょこんと座っているリリスの元へ連れてきた。
「…リリス・サニーランド。
久しぶりだな」
「…あれ?どこかでお会いしましたっけ…?」
リリスはキョトンとした表情で大将の顔を見上げる。
大将は少し驚き、それから残念そうに笑っていた。
「…そうか、だが元気そうでなによりだ」
「は、はい…っ、よくわらんないですけどありがとうございますっ!
…ところでこの人誰ですか?」
「あぁ、帝国陸軍大将のダッカシンキ・ギーゼだ」
それを聴いた瞬間、リリスはガタッと立ち上がり敬礼をした。
「しっ…失礼しましたっ!大将っ!」
「はっはっはっ!堅苦しくさせてしまったな、結構結構、だがそこのお前。
何のアクションを起こさないのも大層無礼だが」
大将は変わらず座り続けているシュトロープへと目を向けた。
「…」
じっと大将を見上げるシュトロープをしばらく見ていると目線をリリスに合わせる。
「リリス、私はラインツィッヒで軍団を動かしていた者だ。
お前の航空支援がなければ結果は多少変わっていたかもしれない、いずれにしろ感謝だ」
「あっ…ありがとうございますっ!
わざわざそのために…」
「当然の礼儀だ」
杖をつく大将はリリスにまだ尋ねる。
「…なぜ軍令違反をしたんだ?バレたら死刑もあり得るぞ」
「はい、重要な局面にも関わらず最新鋭の兵器の航空機を出撃させないのは道理にあっていないと思ったからです…申し訳ございません…」
「なぜ謝る必要がある?命令に背いてでも行動するその意志に脱帽したと言いたいんだ。
私はそういうのは大賛成だぞ」
その言葉を聴いたリリスはハッとして嬉しそうに笑った。
「はいっ…!これからも頑張りますっ!」
大将は彼女の笑顔を見ると優しい手付きで頭を撫でた。
「これからよろしく頼む」
「えっ…」
「実は航空司令官の座を今狙っていてな、近々その座に座る予定だ。
皮算用にならないよう尽力している。
その時はよろしくと言う意味だ」
「…っ!はいっ!大将の軍令を受けられることを楽しみにしています…っ!」
「あぁ」
大将は座っているシュトロープにも声をかけた。
「お前もよろしくな、お前たちの名前は常々新聞で見ている。
航空の先端はお前たちだ、これからも帝国の空の防衛をよろしく」
大将はそう言うとの踵を返し、杖をつきながら離れていった。
彼女たちなそのたくましい背中をいつまでも見送っていた。
「…リリス、何か繋がりがあるのか?
大将が伍長にあそこまで癒着しているのも珍しいな」
「癒着っていうか…なんでだろ…なんか知っているような知らないような…」
「遠い親戚かな」
「そんなことないと思うけど…」
リリスは記憶の底に眠る既視感を感じる彼女を一生懸命思い出そうとするが、結局思い出すことはなかった。
だがリリスの脳裏には彼女のことが深く刻まれたのだった。




