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黒いダイヤの原石

テニーニャの銃後の首都ボルタージュに降り立った一人の少女。

武装聖歌隊の野戦服を着ているが一体彼女は何者なのだろうか。

首都の町中に現れた一人の少女。


つややかな黒髪。

後ろに二つ、両横に二つに黄色のゴムで結んだおさげがある。

両親のおさげの毛束を引き出し、ボリュームを出して猫耳のようになっているいわゆる猫耳ヘアだ。 

 

口元は3を横にした猫のようになっていて愛らしい。  


黄色の猫目のような虹彩の彼女は一人きりで人が行き交う歩道に突っ立っていた。


「ほうほう、話に聞いていた通りの街だ。

悪くないです」


少女はブラブラとその街を見渡して見ていると荷台に乗っている別の青年の兵士が彼女に言う。


「おいオナニャンっ!俺達ぁ観光しに来たんじゃねえーんだぞタコっ!」

「そうカリカリしないのですっ!血圧上がっちゃうですよ〜。

それに信号引っかかって輸送車の列からはぐれちゃったのは不可抗力だし、のんびり行こうよ」

「ざけんなっ!さっさと荷台に戻れっ!」

「は〜いっ」


彼女は軽い足取りで荷台に乗り込むと運転手が兵士たちに向けて言う。


「道のりがわかったぞ、すぐ出る」


そう言うと路肩に駐車していた輸送車は民衆の乗用車と同じスピードで走り出した。


「少し出遅れの出兵だな」

「楽しみだぜ、俺は絶対英雄になって勲章を山ほどもらってやる」

「俺だって敵に恐れられるような武神になるぞっ!」


武装聖歌隊の野戦服を着た青年たちはまだ見ぬ戦場にワクワク感のようなものを持っていた。


それはあの少女も同じ気持ちだった。


「お前紅一点だな、仲良くしようぜ」

「残念、このうち、オナニャン・ヤンヘストンは簡単に交流を深めたりしないのです」


オナニャン・ヤンヘストン。

それが彼女の名前だ。


猫のような風貌と語尾にですをつける彼女は荷台で青年の兵士たちに囲まれる中、一人悠々と青年たちの絡みをはねのけていた。


(ようやく終わった訓練…うちの心は今、ピクニックにでも行くような軽やかかつ夢のある期待で満ちてあるのです…っ!待ってなさい戦場っ!このオナニャンが武勇を立ててやるのですっ!)


自信と気合に満ちた彼女の表情はキリッとした引き締まっていた。



ときは流れ合流できた輸送車の列は人気のない平原の道を進んでいた。


往来して芝は剥げ未舗装の土の道を進んでいた。


流れ行く景色を楽しんでいたのだオナニャンだったが数十台の輸送車は突如停車した。


「止まれぇーっ!!ここで我々の合流する武装聖歌隊第一歩兵連隊を待つっ! 

彼らは最古参だっ!敬意を忘れるなっ!ラインツィッヒを防衛した騎士たちが来るのだっ!!」


荷台の兵士たちは続々と降りて輸送車付近に屯する。


オナニャンは車の列の先頭へ向かい歩兵連隊の到着を待った。


風が吹き抜ける広い草原。

草木は風に揺らされサラサラと音を立てて騒いでいた。


「来たっ!」


一人の青年が指をさすと一斉に兵士たちの目線が道の先に向いた。


道の果てからぞろぞろと褐色の上着と黒い乗馬ズボンを履いていた武装聖歌隊の列がやってくるのが見えていた。


段々と近づいてくる連隊に兵士たちは歓声を上げた。


そして連隊の先頭にいたダンテルテ少佐が彼らに合流するとともに挨拶をした。


「私は第一歩兵連隊率いるヒジャー・ダンテルテ少佐だ、貴様たちが補充の兵士たちだな。

ようこそ地獄へ、新兵たち…と格好をつける前に…」


やってきた連隊のは兵士たちは崩れるようにその場に座り込んだ。


「既に十五キロ歩いてるんだ、さすがに休ませてくれ」


列の中にいたエロイスとロイドと合流に喜ぶ前に疲労で倒れてしまっていた。



広い広い平原に武装聖歌隊の兵士たちが大勢ざわめいている。


「補充は二百人…合わせて千人弱か…ぎりぎり連隊と呼べるぐらいまでには回復したな」


ダンテルテ少佐は独り言を言いながら休憩していた。

するとそこにオナニャンが擦りってきて彼女の肩に優しく手を添えた。


「おいっ…誰だ貴様」

「なんのことです?うちは肩をもんであげようと善意でやっているのですよ」 


彼女は少し硬い少佐の肩を強くほぐすようにもみ始めた。


「うわっ…ガッチガチなのです…こんなに硬くしていたら抜けるもんも抜けませんね…うちがほぐしてあげないとです」

「…貴様、名前は?」

「オナニャン・ヤンヘストンです。

ぜひ名前を覚えてほしいのですっ!」

「ふン、まぁありがたいな。

だが特別に待遇したりなんかしないが」

「えっ、じゃあやめるのです」

「やっぱりそれが魂胆か、わかりやすいやつだ」


早々に肩揉みをやめたオナニャンをしばらく見つめていた少佐はゆっくり口を開く。


「…男ばっかりで息が詰まっていただろ?」

「いや別に。

みんな金払いの良い人たちばっかりで楽させてもらったのです」  

「…これ以上被害者が増えないようにも同性を紹介してやる。

ついてこい」

「にゃーん」

 

ダンテルテ少佐はオナニャンを連れて休憩している兵士たちを見渡す。


立ち話をしていたり、輪になって話に花を咲かせている兵士たち、寝っ転がってすやすやと寝ている兵士たちなど様々な人間の中に二人、目立つ少女兵の姿が見えた。


「いた。 

気が合うかはわからない、だがいい先輩になるはずだ」

「ありがとうなのです…えっと…」

「ダンテルテ少佐だ、ほら早くいけ」

「はーいっ」  


彼女はてくてくと二人の少女兵のもとへ走っていった。


エロイスとロイドは芝の上で足を伸ばしてのんびりしていた。


するとその輪に突然聞き覚えのない少女の声が耳に入った。


「はじめましてなのですっ!」

「「…だれ…?」」


思わずセリフが被ってしまった二人。

同時にどちらもおんなじことを口にしてしまったようだ。


「うちは武装聖歌隊の新兵なのですっ!

貴方たちはうちの先輩ってことでいいのですね?」

「…私は別に後輩だなんて思わないけどね」

「ちょっとっ、ロイド…っ!」


少し敵意をあらわにしたロイドにオナニャンは笑顔をがっちり固めてしまった。


「ロイドが圧かけるからこの子固まっちゃったよ」

「…表情だけでしょ」


オナニャンはガッチガチに固定したままの表情でしばらく突っ立っていると心配したエロイスが立ち上がって彼女に近づく。


「あの…ごめんね…そういう表現が苦手ななんだ…この子はロイド・マンサファリンで私がエロイス…」 


せっかくの紹介もオナニャンには聞こえていないようだった。


固まっていた笑顔は段々と驚いたような表現へと変わっていく。


彼女の頭の中はエロイスのことでいっぱいいっぱいだった。


「鏖殺経験豊かな少女なのです…

表情筋の造りと、面構えが違う。

地獄の世塵を吸ってきた気概が目つきに現れているのです」

「えっ…」


オナニャンはすぐにエロイスの手を握り目を輝かせる。


「間違いないですっ!誉れ多き老兵ですっ!

純粋な英雄じゃない、何が何でも勝利をつかもうとする、そのためには人を殺めることもためらわない、『黒いダイヤの原石』なのですっ!

うちの命を預けるに値する人間がいたのですっ!やった!やったぁっ!」


オナニャンは一人でぴょこぴょこ跳ね回っていた。


エロイスもロイドも彼女の行動には少し混乱していた。


「何なの…この子…」


新しく加入したオナニャン。

彼女は一体どんな働きをしてくれるのだろうか。

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