戦争の熱気
エロイスたちの第一歩兵連隊の配属先がワニュエ地域に決まりそこへ向け歩いて移動することとなった。
そこはどうやらな屈指の地獄のようだと聞き、おののきながらも必ず敵を討つと決めたのだった。
前線で軍務に努めている少女たちとは離れ、銃後の国民たちは戦争の悲惨な実態を知らずに沸き立っていた。
テニーニャ共和国首都、ボルタージュ。
相変わらずロディーヤ人や共産主義者などの意にそぐわない人間は親衛聖歌隊によって激しく弾圧されていた。
街の一角、突如天蓋のない小さなオープンカーが親衛聖歌隊の兵士たちを乗せてとある一軒家に停止した。
黒服の彼らは次々と脚を上げて身を乗り出し下車し、その一軒家の家の敷地へと入り込む。
その両手には短機関銃がにぎられていた。
そして玄関の扉を蹴破るとズカズカと押し入ってきた。
「なっ…なんだ君たちは…っ!」
家のリビングには両親と幼い娘、両親の叔父と思われる人物が食卓を囲んでいた。
兵士たちは立ちはだかる叔父にまず引き金を引き弾丸を連射した。
「ゔぅっ…!」
叔父は全身から血を吹き出すとそれを抑えるような仕草をしながら地面へと倒れていった。
「おじいちゃん…っ!」
幼い子どもはすぐに椅子から駆け下りて血の海の中を泳ぐ叔父に駆け寄る。
兵士たちは固まっていた父親の方を見る。
「この男だっ!この男を連れていけっ!!」
すぐさま男たちが父親を殴る蹴るの暴行を加え、動けなくなった彼の脚をズルズルと引きずる。
「ちょっと…!うちの旦那が何したって言うのよっ!」
「何もかもだっ!反テニーニャ的図書を裏で入手していた疑いだっ!
探せっ!必ずどこかにあるはずだっ!」
兵士たちはうめいている老人のことなど気にせず、家の本棚を荒らすよに探し回る。
しかしそれらしき本は見つからない。
「隊長!それらしか本は見つかりませんっ!」
「何だと!」
兵士たちの間にも困惑が広がる。
「だからいったでしょ!うちの旦那は政治に疎いのよっ!無縁よ無縁っ!」
「…っ!くっ…!この女とガキも収容所に連れていけっ!さては処分したな…っ!裏のルートを吐くまで拷問してやる…っ!」
そう言うと母親とその娘にまで拳を叩きつけた。
頬に繰り出されたパンチに母親は倒れ、娘は声を上げて泣き始めた。
「この乳臭い女共を連行しろ」
ズルズルと引きずりながら連れ出す親衛聖歌隊の兵士たち。
バタバタと抵抗していたが外に連れ出される頃には大人しくなっていた。
「…少しやりすぎじゃあないですか?」
「何、大統領の政策と軍上層部の方針だ。
それにあのグラーファル閣下の命令だぞ」
(う〜ん、なんかへんなんだけどなぁ)
リビングで本を漁る兵士はテニーニャの現状に少し疑問を抱いているようだったが、そんな考えはやがて記憶の中に埋没していった。
テニーニャ共和国全土は既にグラーファルの思想に染められていた。
街を練り歩いているのは首都に住む民衆たちだった。
彼らは自分たちの意思を叫びながら通りを練り歩いていた。
「皇帝を殺せぇーっ!戦争犯罪者を許すなぁーっ!」
民衆たちはロディーヤのスィーラバドルト皇帝を模した綿の人形の四肢に串を差し込み、その串の下を民衆たちが持って掲げている。
「狂った皇帝とっ!その下にいるロディーヤ人を許すなぁっ!見つけ次第殺せぇっ!!」
その集まりはもはや過激の域に達していた。
また別の場所の広場には大量の書物が積まれていた。
軍や政府が有害指定した書物たちだった。
本の山にロディーヤの皇帝陛下の描かれた大きなイラストが本の上には被される。
「火を放てっ!」
その瞬間、松明を持った親衛聖歌隊の兵士たちが火種を投げ込む。
火は紙を燃料にどんどんと燃え広がる。
被せた皇帝のイラストの紙は燃え、紙に空いた穴を広げながら焦げて開く。
黒煙が灰となった書物のページと共に大空を汚していった。
首都の別の劇場では反ロディーヤ的な演劇が催されていた。
席には子連れや恋人、独り身の老人まで多種多様なテニーニャ人たちが座っている。
彼らの目線の先の演劇のステーキにはロディーヤの軍服を着た兵士たちが並んでいた。
どれもよれよれな服装でいかにも弱そうに見せているロディーヤ兵士の役者たちは席に座るテニーニャ人たちに訴えている。
「オイラたちは無敵じゃ!誰にも負けないっ!負けないっ!子供だって容赦なく潰すっ!」
ややおどけた口調で席に向けて言うと客の人たちは親指を下に向けブーイングを浴びせる。
それでも演劇するロディーヤ兵士の役者の後ろに黒い軍服をまとった役者が現れた。
その黒服は親衛聖歌隊の兵士たちだった。
白シャツと赤いネクタイにシワ一つない開襟の黒い上着。
革のウエストベルトで締めているスラっとしたズボン。
黒い肩マント、制帽に金の顎紐
制帽には記章の金の薔薇が施され黒い革靴をリズミカルに鳴らしながら現れた。
彼らの左腕には赤と白の斜め半分の下地に真ん中の白い円形の中に黒い矢十字が描かれている腕章を着用していた。
彼らの登場に観客は湧き始めた。
拍手や指笛で声援を贈る。
親衛聖歌隊は軽やかにヨレヨレの野戦服を着るロディーヤ兵士たちを打倒していく。
華麗な親衛聖歌隊の動き、そして面白おかしく滑稽なやられ方をするロディーヤ兵士たちに侮蔑と嘲笑の意味を込めた笑いがドッと湧き上がった。
カートゥーンのように打ち倒していく爽快感にテニーニャの人たちはすっかりその娯楽を楽しんでいたのだ。
戦争の現場とは離れた首都周辺の民衆たちは戦争の熱気に正気をすっかり奪われていたのだった。
そんな地に降り立つ少女が一人いた。
輸送クルマの荷台から降り立った武装聖歌隊の軍服をまとった少女。
「ここがボルタージュかぁ〜テンション上がるなぁ〜」
可愛らしい声でそうつぶやいた彼女は一体誰なのか。
彼女は猫のような口元でニヤリと笑った。




