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少女たちの幸福権

ラインツィッヒでの失態を責任を持って国民に虚報を伝えることとなったらシッコシカとフゥーミン。

テニーニャでは高官たちが撤退に肩を落としていたがロディーヤでは皇帝を含めた軍人たちが歓喜していた。

丸々としたり満月が街頭によって燦々としている

ロディーヤの帝都チェニロバーンの町中に聳える宮殿のホールの中にて豪華絢爛な晩餐会が開かれていた。


大きなギリシア風の柱が埋め込まれた壁や円形の天井には宗教画のような絵画が描かれていた。


床の新品同然の大理石には天井から吊り下げられたシャンデリアの無数の光が鏡のように反射していた。


円形のシーツをかぶせてあるテーブルにはワインボトルが乗せられていた。

その周りに立っていたのは荘厳そうな軍服をまとった皇帝たちとその側近や高官たちだった。


手に持っていたグラスには赤ワインが注がれており、軍人たちは他愛もない会話をしたりグラスの縁を唇につけ、ワインを味わったりしていた。


皇帝陛下もワイングラスを手に持ちながら側近たちに囲まれていた。


「参謀総長はどうしたのかね?」

「体調不良を理由に欠席しています」

「そうか、ならば仕方がない。

せっかくの晩餐会だというのに主役が欠席じゃあ盛り上がりに欠けてしまうな」 


陛下はそう言うと壁際に設置されていた演台に上りマイクに口を近づける。


「さぁ、今夜は飲み明かそう!

ラインツィッヒ獲得により我が国はより一層豊かに生まれ変わるぞっ!そしてこれを期にテニーニャの前線を回り込んで背後から殲滅してやろうっ!」

「「おーーっ!!」」


グラスを掲げた陛下がそう宣言すると軍人たちもグラスを大きく掲げて乾杯をしたのだった。



一方その頃、参謀本部の執務室にいたのはハッケル参謀総長とルミノスだ。


ルミノスは少し頼りない表情で参謀総長の座る執務机に向かって立っていた。


「そうか、殺せなかったか」

「すっ…すいません…っ全く不服の至りです…」

「いや、気にするな。

私の私怨だったからな殺害の命令は」


長い脚を組み直し背もたれに背をぐっと力を抜いて預けた。


「ふぅ…まぁ、計画がバレるのはさほど問題じゃない。 

そんなもの誰も信じないだろうし何より証拠がないしな、その点に関しては歯牙にかけん。

ただ探りを入れられるのは不愉快だ」

「えっ…じゃあギーゼ大将の件は特段探りを入れてそうな雰囲気はなかったですけど…」

「あいつはわざと敗将を演じていたのだよ。

戦争の失敗を目論む私達に使われるようにな、それで私はまんまと重要な局面を任せてしまった。

当然ここまで負けてくれるだろうと思ってな。

だが結果はこの通り。

まさか何十万も犠牲を出しながらも本物の愚将を演じていたんだ、友軍をいくら犠牲にしようがそれは私の計画の全容を掴み、『廃園化計画』を邪魔する為…」

「狂人の真似とて大路を往けばすなわち狂人、いくら演技だといえど敗将なのは間違いないです」

「それはそうだ」


机の上においてあるコーヒーの入った白いコップの取手を握り唇には近づける。


立ち上る湯気をふぅ~ふぅ~と吹き飛ばし少し冷ましてから喉へと流し込んだ。


そしてコップを持ったまま話し出す。


「白の裁判所。

それは私の『廃園化計画』を援助するための私的軍隊。

公的には治安維持や戦意高揚を目的としているが実態はそうじゃない。


我々は国民への食料の配給を行っているが実際はロクに行き届いておらず、常に欠乏状態。

それでも供給は増えたことにしているが国民のヘイトは皇帝陛下に向くように仕向けている。


我々は軍法会議、兵士の裁判抜きの処刑を執行し白の裁判所、帝国陸軍の兵士の軍規を守らせ軍人の権利擁護を目的としている。


我々は戒厳令を敷き立法権、司法権、行政権、全部を白の裁判所で支配した。


我々は有能、著名な軍人将校の暗殺する。

敗戦を阻害する高い指揮能力を持つ軍人や参謀総長の計画を暴こうとする軍人を暗殺する。


我々はここまで来た。

何一つ不具なく障害をなぎ倒し阻むものは全て蹴散らしてきた。


ここまで来たんだっ!もう何を恐れる必要があるから。

破滅的とも思われるかもしれない。

だが、私はっ!私はその破滅の先にこそ真のロディーヤ帝国があると信じているっ!


必ず私は楽園を建設する。

私は…


私は幸せにならなければならない」


参謀総長は鋭い目つきでルミノスにそう言った。

彼女の威厳に満ちた表情で見つめられたルミノスは当然とばかりに顔をうなずかせる。


「当然です。

私も参謀総長殿も幸せになる義務があります。 権利ではありません、義務です。

必ずそうならなければならない義務です。

私にはそれしかありません、『楽園』しか…人間たちがほざく楽園だとか天国だとか言う陳腐なものではなく、本物の…」


胸に手を当てて慕うように言うルミノスに参謀総長は口角をニヤッと釣り上げるようにして笑みを浮かべる。


「蜘蛛の糸を紡ぐのは私だ。

必ずこの国を新しく作り上げてやる」

 

二人は部屋の照明に優しく照らされている。

穏やかな暖色の明かりが包む中、どす黒い思惑がにじみ出るように彼女たちの会話から染み出ていたのだった。



場所は変わって同じ満月の月夜の下。

イーカルス航空隊の航空基地にて。


基地には明かりがほとんど点けられていない。


空には影になっている阻塞気球が不気味に漂っていた。


基地にはリリスたちがいた。

彼女たちは既にかまぼこ型の一部屋の兵舎の中にいた。


月明かりが窓から差し込み、数台のベッドが並ぶ部屋をほのかに寂光で包む。


リリスとシュトロープは一つのベッドの上で寝ていた。


リリスは子供のように小さくうずまって寝て、シュトロープはそれを見守る父親のように横になって頬杖をついていた。


彼女はリリスの頭を撫でながら寝息を立てる少女を優しく何度も頭を触っていたのだ。


「寝ているリリスも可愛いな…今なら何でもできそうだ」


シュトロープは相変わらずいつもの調子だった。


だが彼女には一つ気がかりな出来事があった。


(夕方にせっかく牛の肉が届いたのに、リリスは食べなかったな…

食人の体験から肉を食べることに忌避感がて湧いてしまっているのだろうか。

かわいそうに…食べたくて食べたわけじゃなかろうに)


時間外労働経つと共にリリスはつらそうな表情をし始め身体をもぞもぞと動かし始める。


シュトロープはそれを優しく抱きしめて慰める。


「大丈夫か…?悪夢でも見てるのか?」


少女は彼女の呼びかけに応じるようにまぶたを開いた。


その瞬間、まぶたに閉じ込められていた涙がポロポロと垂れ落ちた。


「シュト…ちゃん…?」

「何だ?起こしてしまったか…?」

「ううん、違う。

夢を見たの…悪い方の…」


シュトロープはそれを聞くと彼女の頬に伝う涙を指で拭い優しく頭を撫で回した。


「そうか、怖かったな」

「…うん」


ベッドの上にいる二人は夜なのに明るい雰囲気に包まれた。


「ママみたいだね、シュトちゃん」


リリスはほほえみながら言った。

その言葉にシュトロープは反応した。


「ママ…そうか…私が…」


それ以上は話さなかった。


だがシュトロープはわずかに微笑んでいた。


「私の身体の半分の遺伝子は知らない男のものだ。

私はこの身体が嫌いだったが…だが、半分は肉親のものだ。

親からもらったこの身体をこんなところで絶やすわけにはいかないな、この身体を誰かのために使う…それか母親から受け継いだ意志のように感じたんだ。

リリス、お前を守る。

それが私の人生の幸福のために必要だ」


二人はお互い見合うようにして眠りについた。


月光がガラスを通して差し込む中、強く生きる少女たちは夢の中へと誘われていった。

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