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思わぬ救いの手

ロディーヤの春の夢作戦は成功しラインツィッヒは陥落した。

ダンテルテ少佐たちの武装聖歌隊は撤退を始め、ギーゼ大将たちの軍団が占領したのだった。

陥落した街、ラインツィッヒ周辺の森にて輸送車を運転していたテニーニャ軍の野戦服を着た兵士たちが何かを発見した。

 

雨の中の湿った森林を通っていた男が話す。


「おい、車を停めろ」

「あん?何だよ」

「人がいるぞ」


輸送車を道なき道の路肩に停めると運転席から二人の男が降りてきた。


ゆっくりと倒れている人物に近づく。


「オイっ、こいつロディーヤ人だ。

バッチリロディーヤの飛行服のつなぎを着ている。

しかも女だ」 

「ホントかよっ」


その少女はリリスだった。


彼女は土の上でぐったりとしていたのだ。


「おい、起きろ」  


男はリリスの身体を揺らしなんとか起こそうと試みている。  

 

「死んでんのか」

「いや、息はある。

もう少し揺らしてみよう」


しばらく無言で揺らさているとリリスは苦しそうな表情で目をゆっくりと開ける。


「ゔぅっ…ここは…」

「おっ起きた」


リリスはすっかり衰弱しきっていたようでなかなか起きれずにいた。


「どうした?落ちたのか?腕から出血しているぞ」

「…そうだ…私は落ちて…それから…それから…」

「大変だったな、ほらビーフジャーキーでも食え」


男が薄く硬そうなビーフジャーキーを一片差し出す。


座り込んでいたリリスはそれを受け取ろうと手を伸ばした瞬間、男はビーフジャーキーを自分の口の中入れて食べると彼女の呆気にとられていた顔面に蹴りを食らわせた。


「ぐぇっ…!」


リリスは思いっきり蹴っ飛ばされて泥まみれの地面には転がる。


「がはっ…!なっ…なんでぇ…っ」


リリスは土砂降りの中、泥に手をついて立ち上がろうとする。


「このやろぅっ!よくわからんがお前のせいで友軍が何人死んだと思ってんだゴラァっ!」


男二人が強い力でリリスの細く小さな身体を踏みつける。


「やっ…やめっ…」

「うるせぇっこのガキャぁっ!覚悟せよっ!これがてめぇの罪業だっ!」

「すぐになんか殺さえねぇっ!犯して捨ててやるぜっ!俺らは無敵のテニーニャ様だぞっ!優秀遺伝子腹に打ち込んで死ねるんだっ!親もさぞ喜ぶだろうよっ!!」


容赦なく怨みのこもった蹴りが炸裂するが体力が既になくなっているリリスには抵抗することができなかった。


リリスはただ怪我をしている左腕と右腕で頭を守るように覆っていることしかできなかった。


死にかけの虫のようにして這いつくばるリリス。


そんな彼女を見て一人の男が言った。


「俺おしっこしたくなってきたわ」

「ほら、便器があるぞ」

「あ、そうだった。

ラッキー☆」


兵士は分厚いスカートを託しあげズボンの前だけ下ろし、萎びたイチモツを露出すると無抵抗なリリスの顔へ向け放尿を始めた。


「おぉっ〜出るでるぅ〜っ!」


冷たい降雨に混じって暖かくアンモニア臭のする黄色い汚水がジョボショボと彼女の身体に降り注ぐ。


リリスはうつろな目表情でその屈辱を一身に受けていたのだ。


「鬼畜ロディーヤめ、お前たちのしたことに比べりゃあこんなもんかわいいぞ。

謝れぃっ」

「ゴホッ…ゲホッ…ゴッホ…!」

「ゴラァ聞いてんのか便器っ!

謝れっ!戦犯民族は世界最高民族テニーニャ様謝罪しろぉっ!」


男の異臭を放つ尿が器官に入り込みむせ返るリリスの頭部を軍靴の底で押しつぶす。


「ゔぐぅっ…」

「ほら謝罪だ謝罪。

早くしねぇと傷口に土の塗り込むぞ」


リリスは冷たい雨に晒される中二人の二人に言い放つ。


「私は…正直これくらいされても仕方ないと思っている…軍人になった時点で人殺しは免れない…だから現世でも地獄でもこれ以上の恥辱と責め苦を受け入れる覚悟を決めたの。

これくらいの…獄卒気分の貴方たちに…屈しないよ。

私は今、少しの怒りわかない、されて当然だから。

仲間を殺された気持ちは私もよくわかっているから…」


リリスは微笑んでいた。


泥と尿と雨に汚されながら笑みを浮かべる彼女に二人の兵士は少しおののいてしまった。


「なっ…なんだお前…こえぇぞ…感情が壊れちまったのか?」

「…許せることを強さだと知っから」


二人は罪悪感が芽生えたのか少しリリスを見つめるとその場を申し訳無さそうに離れようとした。


「待っ…待って…せめて…食べ物だけでも…」


リリスは二人の男を呼び止めようと手を伸ばしたが男たちはその場を立ち去ってしまった。


ついに最後の力も尽き眠るように目を閉じた。



次第に雨は止んできた。

激しい雨は勢いを弱め、草木を篠突く雨音が聞こえなくなっていった。


曇り空は晴れ始め雲間の隙間から輝く光の筋が森林に差し込んでくる。

 

地面も葉も全てが雨粒により水晶玉のように点滅していた。

そんな中、リリスはゆっくりと呼吸しながら横たわっていたのだ。



ついに見捨てられたかと思ったが薄目からの視界に見覚えのある手とビーフジャーキーの匂いが雨上がり特有の匂いと共に漂ってきた。


ゆっくりとまぶたを上げるとそこには先程の男二人が無言でなんとも言えない表情で立っていた。


「食えよ」


そう言う彼の手には薄く硬そうなビーフジャーキーが一つ持っていた。


罪悪感を感じながらもそう言えた男二人にリリスは微笑んだ。


「…ありがとう」


彼らの片手には水筒のようなものを所持していた。


「俺らの唯一の飲料水だ。

これで身体流してくれよな」


そう言うと男たちは横たわるリリスに手を差し伸べて彼女を起こしたのだった。


兵士二人とリリスは歩き始め停車していた輸送車まで歩いていく。


「あれが俺らの輸送車だ」


兵士が指を指す。

荷台には深緑色のシートのようなものがかけられていた。


「…これって」

「あぁ、仲間の死体だ。

森に捨てるよう言われてな」


男がシートをめくる。


ニチニチと水音を立てながらめくられたシートの下には湿気と気温のせいでぐちゃぐちゃになっている死体が並んでいた。


漂う腐敗臭、灰色に変色した皮膚からはキャラメル色の体液が滲み出て混ざり合い、荷台からとろとろと地面へと落ちていた。


口は開き舌が飛び出ている。

眼球は膨張し眼窩から飛び出そうとしているように見える。


テニーニャ軍のホリゾンブルーの野戦服は焦げ茶色にシミができ、そこには白い蛆虫がもぞもぞも蠢いていた。


見るも無惨な死体にリリスは二人の男に同情するように言う。


「…大変ですね」

「なに、もう仲間だとなんか思ってねぇ。

躊躇なんかない、これまで何百人も捨ててきた。

みんなこんなになる」


兵士はそう言うと、数体の腐乱死体の足をつかんで地面にはずり落とす。


「手で触って大丈夫なの?」

「んなわけあるか、カミソリ負けとか傷口があれば病原菌に感染してコイツラの仲間入りさ。

俺の部隊は戦場の死体から感染して破傷風で半分死んでいった。

病気と戦う兵士だぜ」


リリスは兵士たちから大きなスコップを借りてぬかるんだ地面を掘る。

 

「深くほれよ、浅いと野犬が掘り返しちまう」


三人が人が横に入れるほどの穴を掘るとスコップで死体を押し出し穴に入れ、土をかぶせていく。


ぐちゃぐちゃと音をたてる死体が泥とどうかするように埋められていく。


「死体の匂いは慣れてるのか?」

「うん、まぁね。

やってたのは飛行兵だけじゃないんだ」

「ほう、たくましいな」


全部の死体を埋め尽くすと全員額の汗を拭く。


「…さて、これから帰るがお前はどうする」

「近くの川まで送っていってくれるかな?

そこからは帰る」

「なんだ?家は湖の畔か?」

「えへへ、かもねっ」


リリスは輸送車に乗せてもらい近くの川を伝い湖のほとりの航空基地まで帰ろうと考えていたのだ。


運転席の男泥と助手席のリリス。


そして死体が乗っていた荷台にはもうひとりのが男が立っていた。


「なぁなんで俺だけ荷台何だよ」

「お前免許持ってないだろ」

「チッ、嫌になるぜ。  

死体の寝床に立つなんて」    


輸送車は未舗装の道に揺られながら進んでいく。


「ありがとうございますっ」

「…俺たちこそ悪かったな」


男は申し訳無さそうに謝罪をした。


雨上がりの森林の中を輸送車が駆け抜けていく。


リリスは敵兵に保護されなんとか死は免れることができたのだった。

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