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篠突く弾雨

重い思いの夜を過ごしていた少女たち。

そんな夜もやがては消え失せ朝がやってくる。ロディーヤ軍とテニーニャ軍との戦闘が再開さらる朝が。

次第に夜の紺色も薄くなり始め、街全体に朝日が降り注ぐ。


地平から登る黄金のような太陽がキラキラと光りながら一日の始まりを告げていた。


「もう四月も終わりね」


流石に服を着ていたロイドは屋上で背伸びをしながら眠そうにつぶやく。


「強も生き延びられるように頑張ろうかな。

エロイス起きて、両軍また戦闘始めるわ、死にたくなかったら起きなさい」

「んん〜…眠いよぉ…」


腕枕をして寝ていたエロイスは眠そうなまぶたをこすり起き上がる。


「まぶたが重い…」


そう言いながら立ち上がらロイドの隣に移動する。

 

「ん…今戦闘中?」

「時々銃声が聞こえるから始めているところはやってるみたいね。

まったく血気盛んな人たち」


二人は屋上から街の景色を眺めている。


ラインツィッヒの町並みは激しい戦闘の爪痕をはっきりと残していた。


ほとんどの建物は倒壊し、路上はコンクリ、レンガ、木材などの瓦礫で埋め尽くされている。


道路や広場の石畳は砲撃によって舗装が剥がれ、土がむき出しになりクレーターが形成されていた。

 

硝煙や灰燼、戦火によって生み出された灰たちが霧のように街を覆い尽くし、兵士たちの肺や視界を曇らせていたのだ。


散々人の血を吸い続けてきた都市はすっかり廃退した街に変貌していた。


「すっかり廃墟になっちゃったね…」

「そうね、少し荒らしすぎじゃないかしら?ロディーヤ軍はこんなところ占領してももはや意味ないと思うけど」


すっかり荒れ果てた都市を見つめそう言う。

もはや復興不可能にまで崩れたこの街の使用意義があるのか彼女には疑問だった。


いつの間にか黄金に輝いていた太陽は灰色のくもに覆われ、空全体の明度が落ち始めた。


冷たい風が静かに吹き抜ける。


やがてエロイスの被っていたヘルメットに湿った水滴がポツリと当たった。


そして次第にポツポツとその音は増えていく。


雨だった。


いつの間にか降り出した雨粒は空を覆う灰色の雲から撃ってきたのだ。


ポツポツと雨音の銃撃が始まった。


激しい降雨は霧に消えかけの街の影を濃く湿らせると同時に少女二人をもびしょびしょに濡らす。


「弾薬の火薬が湿るわ、あの給水タンクの下に移動しましょう」


二人は屋上に立っていた給水タンクの下に潜り込み、そこからうつ伏せの状態で半自動小銃を構える。


「雨音に紛れてやってく来るかも、神経を常に尖らせてね」

「うん…疲れてるから常には無理だと思うけど頑張る」


雨水は給水タンクの表面を伝い、まとまった水滴となって彼女たちの周りへとポツポツ落ちる。


「新鮮な水だね、ロイド水筒の水まだ残ってる?」

「いいや無いわ」

「私も」


エロイスはハイウエストベルトに着けていた水筒を外しキャップを外すと飲み口を滴ってくる水滴に向ける。


ポツポツと落ちる雨水が飲み口に入ると空になっていた水筒の底をコンコンと叩く。


その音はやがてポチャリポチャリと水面を弾く音に変わっていく。


「見て見てっ、重くなってきたっ!」

「…見てもわからないわ」

「えへへ」


二人はじっとタンクの下でうつ伏せで雌伏していた。

それまで水筒に水を貯めるというのを続けているのだ。


「工業都市の雨って煤煙で汚いって聞いたけど」

「泥水すするよりはマシだよ」

「…違いないわ」


二人はその後も雨水を貯め続け、飲み水を確保したのだった。



雨に濡れた廃墟の街を駆け抜けている列車砲に乗っていたダンテルテ少佐。


順調に次の地点へと向かっていると思われた列車だったが雨の中突き進んでいると突如、列車砲がガタリと揺れた。


すると列車は大きく傾き線路から車輪を外してしまった。 


火華を散らしながら脱線し街の建物へと突っ込んでいき列車砲は土煙を上げながらズルズルと突き進んでいった。


かろうじて立ち並んでいた荒れ果てた無人の家に突っ込んでいくとガラガラと音を立てて崩れていく。


そんな音もすぐに激しい雨音に掻き消された。


グシャグシャになった街の中に降り立った一人の少女。


黒いとんびコートをも袖を通さず方だけで羽織っているダンテルテ少佐だった。


彼女は雨の中、傘をささずに佇んでいた。


雨による霧の中、ギザ歯を見せつけるように口角を上げる彼女の目線の先にはギーゼ大将が杖をついて立っている。


背筋はピンと伸ばし、まだ二十代前半だが既に老兵のような雰囲気を醸して出していた。

 

「貴様か?列車砲に何をした」

「何もかも、強いるなら置き石だ」


堂々と佇む彼女に少佐はコートの内側から『アミ』を抜き、大将へと銃口を向ける。


「貴様がロディーヤ軍を率いている人物か?」

「だったらどうする?引き金を引くのか」

「当然、もし軍を動かせる権限があるのであればなおさら」 

 

自身のキザ歯を舐めながら脅すように言うダンテルテ。

だがギーゼは物怖じせず毅然としてすました態度を立っている。


「なるほど。

黒洞洞、そしてメクラのような。

自分の実力も把握できない哀れな羊ということか」

「はン、言ってろ、暗黒の中でさえ区別して処すのが私の弾丸だ」


そう言うと、彼女は銃口を大使へ向け二発発砲した。


空薬莢が飛び、弾頭は雨の中を突き進む。


ギーゼ大将は慌てず向かってくる弾丸をじっと見据えていたが次の瞬間、金属同士がぶつかり合うような音が雨の中響いた。


一瞬放たれた火花のような物を少佐が視認するとギーゼ大将の前にもうひとりの少女が立っていた。


「も〜、ここにいたんですか、勝手にどっかいかないでくださいっ!」


そこにはルフリパ中将が両手に握っているジャマダハルの刃によって弾丸を防いでいた。


「連絡が遅れた」

「報連相はしっかりっ!」


ダンテルテ少佐はほのぼのしている二人に向け言う。

 

「私の弾丸を防ぐとな…」

「これはジャマダハル、北インドで使われていた刀剣の一瞬よ。

叩き切るが防ぐか迷ったけど…これは…ダムダム弾…?」


ジャマダハルとは北インドで使われていた切るよりも突き刺すことに特化した形状を持つ武器である。


「H」型の持ち手を握り、手に持つと拳の先に刀身が来る様な造りになっている。

なので拳で殴りつけるように腕を真っ直ぐ突き出せば、それだけで相手を刀身を刺すことが出来るというものだ。


彼女はその刀身を盾のようにして防いだのであった。


「さぁ〜てと、どう決闘しようかなぁ」

「決闘というものは同じ実力者同士の戦いだ。

お前のような虫けらはホウ酸一つで消毒してやる」

「それはどうかな…?」


にらみ合うダンテルテとルフリパ。

二人の戦闘はルフリパの後ろで立っていたギーゼ大将の一言で始まった。


「お前の餌だ、好きに料理しろ」


その瞬間、ジャマダハルを握った中将は少佐へ向け走り出した。


篠突く雨の中、ルフリパ中将とダンテルテ少佐の戦闘が始まった。

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