明るい森の中
防衛線を破壊し、迎撃しに来た敵機シルバーテンペストとの戦闘を始めたリリスたち。
順調に交戦していた彼女たちだったが、ついに試練が訪れる。
ラインツィッヒ侵攻の支援をすべくイーカルス航空隊は街の上から敵兵に向け、攻撃をけしかけていた。
だがテニーニャの対応は早くすぐさま敵機が登場。
会敵し激しい戦闘を行っていたリリスたち、弾丸の飛び交う大空を掻い潜り順調に敵機を撃墜していっていた。
「オラァっ!逃げんなやっ!」
イーカルス大尉は敵機のシルバーテンペストを追っていた。
左右に機体を動かし回避運動を取る敵機を執拗に追い回す彼女。
「クソっ…!しつこいっ!ハイエナみてぇなやつだっ!!」
後席のテニーニャ兵が設置された旋回式の重機関銃を追跡してくるグリーンデイヘ向ける。
そして取手の間のトリガーを親指で押し下げて銃撃を浴びせにかかった。
「墜ちろっ!」
後席の兵士はリズミカルに発射される弾丸を放ち、彼女の機体を墜落させようと試みる。
追跡をやめ、右へ移動し続ける大尉を追うように機銃を放っていたテニーニャだったが、大尉が反撃とばかりに機体の胴体の機銃をシルバーテンペストへと撃ち込んだ。
「うわぁっ!」
後席の兵士はその銃撃により身体に穴がボコボコと空き、四肢の先端の手はこの銃撃で吹き飛んだ。
銀翼の機体は激しい銃撃により穴ぼこだらけになっていき、それは前列の操縦桿を握る兵士の足にも命中した。
「うわぁぁぁーーーっ!!!ちくしょうこのガキっ!」
両足に機銃が命中し、強い威力にさらされた足はまるで皮一枚繋がっているように力なくブラブラしている。
「うおぉ…!ちくしょう……っ!良くもやりやがったなぁ…ぁっ!!」
繋がって入るがほぼ切断差れてしまった両足の腿を手で抑える。
袋が破れたように溢れてくる赤い血液が前席の底へ溜まっていく。
痛みと苦しみと怒りで顔をしかめ、涙でクシャクシャになってくる兵士は怒りで吹っ切れたのか眼下を飛んでいるリリスとエマールの乗るホワイトデイを目視した瞬間、操縦桿を引き始めた。
「なっ!?」
エンジン部から黒煙を吹き出すシルバーテンペストの機首を下げ、まっすぐリリスたちに向かっていくその兵士の行動に大尉は驚きで声を出してしまった。
「まずいっ…!やつ自爆して巻き込む気だっ!」
後席の兵士は席の縁に血を吹きながらもたれている。
「クソっ!クソっ!こうなりゃ一人でも巻き込んで死んでやる…っ!!うぉーーっ!!!」
高速で近づいてくるボロボロの機体のシルバーテンペスト。
「リリスっ!避けろぉーーっ!!」
「っ!?」
大尉の叫びに気づいたリリスが振り向き上を見上げると敵機が猛烈な勢いで突っ込んで来ていた。
「わぁーっ!」
リリスはラダーペダルを踏み機体を動かし、避けようとする。
が、ホワイトデイの主翼にぶつかってしまった。
その瞬間、主翼がバラバラに砕け散り、激突してきたシルバーテンペストは爆発した。
「くぅ…っ!」
彼女達の機体のは運良く、爆発に巻き込まれることはなかったが爆風によって大きくバランスを崩した。
「リリスちゃんっ!バランスを立て直してっ…!」
「やってる…っ!けど…
操縦桿が機能しないっ!どんどん大きく高度が落ちていく…っ!」
「えぇっ!」
骨組みがむき出しとなったホワイトデイの主翼、そして機能しなくなった操縦桿。
彼女達の乗る機体はぐんぐんと高度が下がっていく。
「まずいじゃんっ!せめて着陸できそうなところへっ!」
「ラダーペダルも反応がないっ!回路が全部壊れてるっ!」
方向転換もできず高度が下がっていく機体。
そのままラインツィッヒの上空から、川を通り越し、近くの林へと近づいてくる。
「墜ちるっ!リリスちゃんっ!」
「なにかに掴まってっ!!」
二人は席の縁に掴まり、墜落に備える。
ぐんぐんと近づいてくる森林、ホワイトデイが樹木にかすり始めると機体はバランスを崩し、次々と樹木にぶつかり機体は異音を立てながら崩壊していきついに地面へと墜落、ズルズルと高速で滑る。
縦並ぶ木々にぶつかり主翼が吹き飛ぶ。
翼を吹き飛ばされカヤックのような形になったホワイトデイはついに木の幹に機首がぶつかり停止した。
ボロボロに傷のついた機体の後ろの地面にはえぐれたような土の跡が気づかれていた。
その跡付近には削られた主翼の破片が転がり散乱している。
操縦が効かなくなり、森林の中に墜落してしまったリリスとエマール。
「くっ…」
リリスは前席からゆっくりと手を出し、身体を起こす。
彼女の頭からは多量の出血、左腕の部分も飛行服が赤く染まっている。
「ううっ…ここは…?」
リリスは慎重に外へ降りようと試みたが足の感覚がなく転げ落ちるように飛び出てしまった。
「キャッ…!…うっ…足の感覚がない…出血はしてなさそうだけど……」
リリスは血まみれの飛行帽とゴーグルを無事な右手で外す。
「エマちゃん…エマちゃん?」
リリスは後席に乗るエマールを呼びかけた。
「エマールっ!」
おぼつかない足でようやく立ち上がり後席のエマールへ近づく。
「っ…!」
リリスはその光景に思わず息を呑む。
腹部には穴が規則正しく並んだ鉄骨のような機体内部の部品が彼女の腹を貫いていた。
おそらく墜落の衝撃で突き刺さってしまったのだろう。
「エマールっ!うぉぉぉーーっ!!」
リリスは出血が著しい左腕をも使い、雄叫びで気を紛らわせながら彼女の身体を引っ張り出す。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
二人は墜落した機体に背をもたれ、座っている。
軽症ではすまないその傷に苦しみ喘ぐリリスはまるで興奮気味の犬のように口を開き息を吐き出している。
「リ…リス…ちゃん…」
「っ!?喋らないでっ!」
今ま目を瞑っていたエマールが震える唇でほそぼそと喋る。
彼女のお腹には変わらず部品が貫かれている。
赤い鮮血がダラダラと流れている。
リリスの頭や左腕からも生暖かい血が出ているのが感覚でわかった。
(もしかしたら…死ぬのかな…)
二人は血にまみれた状態のまましばらく無言で空を見上げていた。
「…リリス…は…まだ、希望がある…っけど…エマはもう…だめかも…あははっ…ごめ…ね…血ぃ…止まらないんだもん…」
エマールは苦痛に顔を歪ませながらもなんとか笑顔で隣のリリスに言う。
「もし…死んだら…エマの体…好きに使ってね…」
「…そんな…死ぬなんて言っちゃだめだよ」
エマールは少し激しめに息を吸ったり吐いたりしている。
リリスももう歩く気力も体力も残ってはいなかった。
柔らかな日光が差し込むようなどこまでも広がる明るい森林。
木々の葉っぱの隙間から二人の少女を舞台の照明のように照らしている。
そんな空間の中に、二人はいた。
突如二人を襲った悲劇。
果たして二人は生きて帰ることができるのか。




