群青より高く
始まったロディーヤ軍のラインツィッヒ攻略戦。
侵攻するロディーヤと防衛するテニーニャの激突が今、始まろうとしていた。
橋を落とされたロディーヤ軍は仕方なく。川を渡ってラインツィッヒへと向かうことになってしまった。
北岸のロディーヤ歩兵部隊は丘の上へと匍匐前進で登っていく。
「おい…見えるか?」
「敵兵の姿は見えないな、街全体が煙で覆われている」
野戦服に身を包んだ歩兵たちは着剣したボルトアクション式の歩兵銃片手にくさっぱらを這いずる。
「笛の音と共に突撃だ、それまで身体を起こすなよ…」
友軍の砲撃での支援は今だ止む気配はない。
数万人が川に沿うように北岸の丘の上でうつ伏せで並んでいる。
その後ろには突撃と共に突き進む歩兵たちが何万人もいた。
胸に百合の花が刺繍されたフィールドグレーの開襟の上着と、膝辺りまでの分厚いスカートの中にバックルのベルトで留めたズボンを履いている。
黒革のブーツとシュッタールヘルム。
上着のベルトの左右に茶色い弾薬ポーチ、水筒とバックパックなどを保持している。
無尽蔵とも思われる歩兵達の手には着剣された歩兵銃。
そしていよいよ突撃を知らせる笛の音色が北岸に響き渡った。
ピィーーーーーッ!!!!!!
耳を突き刺すような鋭い音を放つ笛が吹かれる。
「滅私奉公っ!忠君愛国っ!
突撃しろっ!!一歩たりとも引くなぁーーっ!」
幾万もの兵士たちが雄叫びを上げながら丘の上から飛び出してきた。
「死に方用意っ!!陛下は俺たちに名誉ある戦死を望んでくださっているっ!!」
飛び出してきた兵士たちは丘を駆け降り、全幅七十メートルはあるであろう川を目指す。
波のように押し寄せてくるロディーヤ兵たち。
その様子を伺っていたのは防衛線を作り上げていたテニーニャ兵たちだった。
彼らは建物の部屋や廊下の窓、屋上などに重機関銃や箱型の弾倉が銃身の下に取り付けられている半自動小銃を構えた兵士たちが南岸に沿って配備されているのだ。
「くるぞっ…!弾帯を装着しろ!」
「はいっ!」
重機関銃の取手を持っている兵士が弾帯を首に提げている兵士に呼びかける。
兵士が首の弾帯を機関銃の重心にセットしコッキングレバーをガチャリと引いた。
「引きつけろ…外す弾をなるべく少なくな…」
「わかってます…」
小銃を構える兵士たちも窓枠や砲撃によって空いたら壁の大穴から覗き込む。
雄叫びを上げながら近寄ってくる敵兵。
ついにその人の波が川に差し掛かった。
パシャパシャと水しぶきを上げながらやってくるロディーヤ兵たちに銃身を向ける。
「……撃てぇーっ!」
その掛け声がかかった瞬間、半自動小銃や設置された重機関銃が火を拭き始めた。
一斉に鳴り響く銃声。
火花を散らす銃器から発射された弾丸の雨が川を渡るロディーヤ兵たちに襲いかかる。
「う゛っ…!」
「あ゛ぁ゛っ…!!」
断末魔を上げながら川の中へと倒れていく兵士たち。
川面に浮かんでくる死体から赤い血が広がり漂い始める。
「銃撃だっ!どこからっ!」
「上だっ!建物の中から撃ってくるっ!」
突然浴びせられら鉄の雨に戸惑う兵士たちが歩兵銃を建物へ向ける。
「うわあっ…!」
だが足を止めた兵士たちは次々と身体に風穴を開けられながら川の中へ倒れていく。
やまない鉄の雨が川面に当たるとピチピチと水しぶきが上がる、それが人間に当たるとたちまち肉体に穴が空き、そのまま死に至る。
「足を止めるなっ!狙われるぞっ!!」
「だめだっ!下からだと埒が明かないっ!砲撃だけじゃあ皆殺しにはできなかったっ!」
テニーニャ兵たちは押し寄せるロディーヤ兵たちに次々と弾丸を撃ち込む。
たちまち大きな川の水は赤くワインのような色合いに変わっていくのだ。
「助けてくれぇ…っ!立てない…っ!溺れる…っ!」
「俺を引っ張ってくれっ…!頼むっ!誰かぁーっ!」
真っ赤な川の水の中から負傷した兵士たちが助けを乞うように手を伸ばしてくる。
「たっ…助けてくれっ…!肺に穴が空いた…っ!水が流れ込んできて…っ…苦しい…!岸まで連れて行ってくれ…っ」
「…っ!」
突如、負傷兵が兵士の身体にすがりついてくる。
口からは。血が流れ、胸からどくどく流れる血が、真っ赤な川の中へと流れ込んでいた。
「なぁ…助けて…」
「…くっ…!離れろっ!そんなところで足を止めるわけにはいかないっ!」
縋り付かれた兵士は銃口の銃剣でその兵士の身体を突き刺した。
「ぶぇ…っ…!」
身体にまとわりついていた兵士は口からは赤い泡を吹きながら川の底へと沈んでいった。
まさに地獄。
澄んだ川は一瞬にして三途の川へと変貌した。
「建物からの銃撃と川の水に動きを制限されながらの下からの銃撃なら確実に前者、つまり我々の方が有利だ、必ず勝たなければっ!」
一人のテニーニャ兵は重機関銃の取手の間のトリガーを親指で押し下げながらそう言う。
「まるで狩りみたいだ…」
兵士たちは身の安全を確信した途端、顔に笑みが浮かんだ。
次々と生きている人間を撃ち倒していくテニーニャ兵たち。
彼らがすでに撃ち殺した兵士の数は百人を超えていた。
ロディーヤ兵は赤い川に友軍の死体がプカプカと浮かんでいるなか、それを押しのけて進んでいく。
「まずいっ!このままでは想定より多くの損害を出してしまうぞっ!」
「下からの狙うなんて不利すぎるっ!」
「てめーら足を動かせっ!とにかく進めっ!
うっ…っ!」
そうこう話しているうちに早速一人の兵士の頭に弾丸が命中し、バシャリと水しぶきを上げて倒れていった。
「…クソっ!このままは本当に…っ!」
前線の兵士たちが苦戦する中、ギーゼ大将とルフリパ中将ハそれを遠くの丘から見守っていた。
「くっ…苦戦してますね…っ。
やっぱり無茶だったんですよ…」
「だが、他に方法などない、砲撃で全て片付いたと思ったんだが…」
複数の将校たちと共に立っていた大将たちは、ふと耳に機械音が聞こえてきた。
「ん?なんだ」
「どうしました?大将」
「しっ…なにか聞こえてくるぞ…」
二人は耳を澄ましてみると段々と聞こえてくる。
エンジンの音とプロペラの音、そして空気を切るような音が煙る空から響いてくる。
「こっ…この音は…っ!」
ルフリパが空を見上げた瞬間、雲を払って現れたのは三機の航空機だった。
グリーンデイと二機のホワイトデイ。
緑の機体にはイーカルス大尉、白い機体にはリリスとエマールが二人とシュトロープが一人きりで乗っていた。
どの機体にも底に黒く大きな爆弾が一つ装着されてあった。
「航空隊っ!出撃命令は出すなと言われているのにっ!航空司令部は一体何をっ!」
戸惑うルフリパはその機体を見つめるギーゼ。
ある機体が傾いた瞬間、パイロットの顔がよく見えた。
(思い…出した。
ここで出会うとはな…まるで生き別れた娘に出会えた父親の用な気持ちになった…)
「リリス・サニーランド、軍令違反をしてまで空が飛びたいのか、転婆なやつだ」
航空機によって吹いた爽やかな風に晒されたギーゼ大将は静かに微笑んでいた。
かつて自分が救った少女の名前を思い出し、それが彼女だと悟った。
「てめぇら本腰入れていけよっ!墜ちても知らねぇからなっ!!」
大尉が後ろを飛ぶ機体にそう叫ぶ。
「リリスちゃんっ!操縦は任せたよっ!」
後席のエマールは大量の手榴弾を持って操縦席のリリスに言った。
「任せてっ!不安にはさせないよっ!」
彼女はそう言うと操縦桿を大きく押し出した。
「さぁ行こう…っ!
降下開始っ!リリス伍長吶喊しますっ!」




