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戦場の大空へ

ついに戦いの火種が切って落とされたラインツィッヒ。


ロディーヤの砲撃が突如街を襲い、ありとあらゆる建造物を破壊し始めたのだった。

躊躇なく送り込まれる榴弾砲の弾頭。


無数に飛んでくる砲弾は無差別に街を焦土と化すのだ。


立ち並んでいた建物やレンガの工場、道路や広場の舗道は砲撃に伴い瓦礫や破片と共に散弾のようにあちこちで爆発する。


砲撃によって破壊されるのは人工物だけではなかった。


あちこちで悲鳴と断末魔が混ざったような叫び声が聞こえる。


砲撃に左往右往するテニーニャ軍の兵士たちに直撃すると真っ赤な血液が飛び散り、人体の肉が爆ぜ、四肢の残骸が降り注ぐ。


街のあちこちで黒煙と絶叫が上がる。


空から砲弾、瓦礫の破片、人間の身体の雨が降り注ぐ惨劇が人の手によって作り上げられたのだ。



「小隊長っ!!被害は甚大ですっ!死者は数え切れませんっ!」

「このまま奴らの好き勝手にさせるか、橋を爆発させて落とせっ!三本共全てっ!誰も渡らせるなっ!!」


建物の地下で兵士がそんな会話が繰り広げられていた。


兵士がそばにある木箱から飛び出るレバーの用なボタンを押し込む。


その瞬間、北岸からラインツィッヒへと通じる橋の橋脚に設置された爆弾を点火する。


またたく間に橋は灰色の煙と地面を揺らすほどの轟音に包まれ、架けられた橋はぐったりと力なく崩れていく。


橋の瓦礫が川の中に飛沫を上げながら崩落していく様子をギーゼ大将とルフリパ中将は丘の上から眺めていた。


大将は双眼鏡を携え、レンズに目を当てている。


「脚が落とされた、あの童謡のように」

「ええっ!?それじゃあ街まで行くのに川を渡らなきゃいけないじゃないですかっ!川の向こうの建物にはきっと兵士がいて防衛線を築いていますよっ!?」


彼女はしばらく考えたあと中将に言った。


「こればかりはいくら策を考えても意味と時間がない。

人海戦術で押し切ろう」


大将の言葉にルフリパは強く反対する。


「大将っ!人海戦術は戦術ではありませんっ!ゴリ押しですっ!何万の命を抱える貴方がそんなことを言ってはいけませんっ!」

「では何か策でも?」

「いや…それは…」


戸惑うルフリパ。

そんな彼女に残酷な言葉が投げかけられる。


「…ルフリパ、これが戦争だ。

合理的で理想的、効率的に人の命を動かすなど同じ人間ができるはずがない。

国と時代と、この地位までのさばってきた私を恨め」



一方、戦闘開始の報告はリリス達のいる航空基地にすでに伝達されていた。


リリスとエマール、シュトロープはイーカルス大尉から開戦の旨が伝えられる。


「…とまぁそういうこっちゃ。

ラインツィッヒで戦闘が始まった。

だが俺たちの出番はなさそうだ、ここで結果を静観していよう」

「えっ…私たち航空隊がいるのに出撃命令は出されないんですか?」


 リリスが率直な疑問を呈すと大尉は腰に手を当てて、答える。


「どうやら兵力温存のためらしい、それが本部の方針だ」

「…そんな」


航空機という戦力があるにも関わらずその使用を許可しない方針を聞きリリスはその方針に参謀総長が関わっているのは明確だと断言した。

 

シュトロープもリリスの顔を確かめるように無言で見つめていた。


(やはり…)

(きっと参謀総長の意向が組み込まれている…)

 

二人は向き合ったまま心の中でそう交わした。


「…何でふたりとも見つめ合ってるの…?」


エマールはその二人の様子に困惑しながらそう言葉を漏らした。


「じゃあ兵舎で休憩していろ、やることがないわけじゃねぇーからな」


大尉はそう言い残し、その場を去ろうとした瞬間、リリスが呼び止めた。


「大尉っ!出撃しましょう!」


リリスの言葉に大尉はため息をつく。


「てめぇなぁ、逆張りかなにか知らねぇが、俺たちは必要ねぇって言われてんだ、ラインツィッヒは陸の歩兵部隊だけで十分だとな

空の俺たちは別の任務に務める必要があるっ!

それがわかったら戻れっ!」

「嫌ですっ!」


なかなか食い下がらないリリスに彼女は険しい表情をしながら詰め寄ってくる。


「…戻れ」

「嫌ですっ!他の任務は別の航空隊で務まりますがこの任務は私達にしかできませんっ!少しでも有利に導くのが私達の任務ですっ!そこに上層部の命令によって阻害されてはいけませんっ!」

「てめぇ、バレたら軍法会議にかけられるぞ、下手すりゃ死刑だ。

悪いが俺にそんな度胸はねぇ」

「…そうですか」


肩を落とすリリス、そんな彼女の肩にエマールの両手が乗っかる。


「エマは行くよっ!リリスちゃんだけには行けせられないよっ!」


にこやかな笑顔を向けてくるエマール。

そんな彼女に続いてシュトロープも声をかける。


「当然、私もいこう。

最後のハネムーンになるかもしれないがそれでもいい、悪い方には行かないはずだ」

「みんな…っ」


三人の少女はまっすぐ大尉の目を見つめていた。


「…それがてめぇらの意志かよ、本当にいいんだな。

…後悔しないな」

「するはずがないです」


リリスの返答を聞いた大尉は大きくため息をついた。


「部下の想いを汲んでやる…その上共に行動に移す…二つ目になかなか行けないのが俺の悪いところだな。

何をする?なにもかもだ、それで任務は完了する」


大尉は飛行帽とゴーグルを装着し始めた。


「整備兵、機体の下に投下する爆弾を取り付けろ、人肉ごと消し炭にできるようなでっかいのをな」


その行動と発言はリリス達の想いを汲んでくれたということを表していた。


三人の少女の顔に笑みが浮かぶ。


「っ!ありがとうございますっ!大尉っ!」

「…ふンっ、ったく。

リリスっ!その代わり死んでも知らねぇからなっ!あのアル中の隣で寝たくねぇなら死ぬんじゃねぇぞっ!」


三人も飛行帽とゴーグルを頭につけ出撃の準備に取り掛かった。


四人だけの航空隊、彼女たちはラインツィッヒへ向け出撃の準備を整えるのだった。

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