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変わらない日常の中で

やってきた三人目の刺客イドラとの死闘の末、相討ちとなったバッタンキュー。

二人の戦いはリリスとシュトロープ以外に知られることはなく、静かに幕を下ろしたのだった。

その一方、テニーニャ後方の野戦病院で休養していたエロイスとロイドは段々と回復の兆しが見えてきていた。

廊下側と窓側に並べられたベッドの上で一時の休養を取っていた二人。


木造平屋建ての野戦病院の中で平穏に過ごしていた二人の足は回復し始め、エロイスに至ってはもう立てるほどにまで治っていた。


「見てロイドっ!私もう立てるよっ!」

「ほんとね、両腿の銃創がもう塞がったのね、良かったじゃない」

「うん、だいぶ動けるようになってきた」


嬉しそうに報告するエロイスと微笑ましく眺めるロイド。


そんな彼女たちのもとに黒いとんびコートを袖を通さずに肩だけで羽織っているダンテルテ少佐がやってきた。


「エロイス、もう足はいいのか?」

「あっ少佐!」


反応したエロイスは振り返って答える。


「はいっ、完全ではないですけどだいぶ良くなりました、これでまた復帰できますっ!」

「そうかそれは良かったな。

ところで貴様たち、近々ロディーヤがラインツィッヒに攻めてくることは知っているな」

「はい、あの工業都市の…」


少佐は二人のベッドの間に置かれた椅子に座りアシと腕を組む。


「今兵力を敵にバレないように増やしている。

武装聖歌隊本部長に言われた通り、川近くの建物に兵を置いて防衛線を築いているんだ。

渡河してくる鬼畜ロディーヤを一網打尽だ」

「敵は川から攻めてくるの…?」

「偵察機が場所を特定してくれたらしく北岸のすこし遠くの場所に兵を置いているらしい。

そこでだ今防衛線を突破された際、紫外での戦闘は不可避だ。

だが街は広い、今兵をそれぞれの前線からすこしずつ引き抜いて集め、なんとか十万人を目標に増やしている。

そこで貴様たちだ、エロイス、ロイド」


突如名前を呼ばれた二人はわかりやすく驚いた。


「今徴兵している兵士はまだ戦場で通用しない、今十分戦える実力のある兵士が必要なんだ。

エロイスとロイドがいる、ただの頭数だが傷が治り次第ラインツィッヒに共に行かないか?」


少佐の提案はなんとラインツィッヒヘ向かい戦闘に従事しようとの事だった。


エロイスは迷わず答える。


「もちろんですっ!共に戦わせてくださいっ!」


元気のいい返事に少佐は安心したように笑った。


「さて、ロイド。

貴様はどうする?」

「…私は…」


口ごもる彼女に少佐は意味深長な言葉をかける。


「使える道具は何度でも修理すれば使える。

だが修理しても機能しなくなったら廃棄だ。

雑多な継ぎ接ぎの舟など、修理前の舟と同一とは言えない、治せる回数も限度がある。

上限が来る前に使い倒さないとな」


ギラリと獣のような目玉と口角を釣り上げて笑う少佐。

彼女の浮かべる笑みの口からは真っ白なギザ歯が輝いている。


その笑顔の圧力に圧され、ロイドは多少戸惑いながらも頷いて承諾した。


「よしっ、また時間が空いたら来る。

それまで気合で傷を直しておけ」


そう言って椅子から立ち上がった彼女はまっすぐ部屋の出入り口へと向かい、そこから廊下へ出ていった。


二人の耳には少佐の低い声ではなく、看護師や他の負傷兵たちの会話が聞こえ始める。


「やったねロイド、また国のために戦えるよっ」

「…ええそうね…」


ロイドは顔をうつむけて下半身に被せられた毛布を見つめている。

エロイスも自分のベットに入り込んで上半身を起こした状態で彼女と話す。


「あんまり元気ないよロイド、どうしたの?」

「…私達のやっていることは殺人よ、それにまた従事することになっても心からは喜べないわ」


ロイドのすこし辛そうな声にエロイスは首を傾げる。 


「殺人…じゃないよ、国が認めてくれるから殺人じゃない、それに悪いのはロディーヤだよ?ロディーヤ人が攻めてきたから戦わざるを得なかったからしょうが無く…ロイド、私達は悪くないよ?」


エロイスはうつむく彼女に言い聞かせるように言う。


「…確かに明確に侵略するっていう意志を持つ人もいるでしょうね。

でも大抵の兵士は命令されたから行動しているだけよ、私達が少佐や軍の高官たちに謂われた作戦通りに動くように…。

貴方のその考えは殺人を正当化しているものだわ、正当な殺人なんてないのよ」


その言葉を聞くとエロイスは頭を抱えるように膝を抱えて丸くなる。


「それ以上言わないで…!友達のために…国のために戦っているのに…生きてても死んでも地獄に行くと考えると気が狂いそうになる…っ!何で生きているのかわからなくなるっ!正当化しないと…!せめて死後にだけでも楽園に行けることを信じないと私は…!私は…っ!」


彼女は苦しそうにベッドの上で頭を抱えて悶る。


「…時代が悪いのよ、かと言って逆らえるものじゃないわ。

時代と生まれた国と時期が悪かったのね、無条件で地獄に叩き落される世代だなんて不幸だわ。

いつかこの悲惨な戦争が教訓になって戦争をしない平和な時代が来るのかしら…そういう時に生まれたかったなぁ」

「無理だよ、人を殺さずに過ごせる軍人なんてするるわけがない…っ!」


ベッドの上の二人は他の負傷兵たちとは違って静まり返っていた。


「…恋愛とかしたかったなぁ」


ロイドは天井を見上げ、遠い景色を見るような目つきで呟いた。


「ドレスを着てお化粧をして…素敵な殿方と一緒に食事をしたりオペラを見たり、すこし遠くの異国の地まで旅行をしてみたり…。

いや、戦争がなくてもたぶん無理だったでしょうね、だって顔がこんなんじゃあね」


彼女は右半分の火傷の跡の痕ケロイドを包帯巻きの手で撫でながら言う。


「顔の右半分に大きなボコボコの火傷の痕…

その影響で右目が思うように開かずにこの目だけ東洋人みたいに細目…すこし不格好すぎるわ。

おまけに両手もこのザマ」


そう言って包帯で指先まで覆われた手をエロイスに見せた。


エロイスは今まで尋ねてこなかった腕の包帯について聞いてみた。


「ねぇロイド、顔のケロイドは家の火傷だって言うのは聞いたけど腕の包帯は何なの?火傷?顔と違ってまだ新しそうだけど…」

「これは…」


カノは目を閉じて記憶をたどるように優しい口調で話し始めた。


「この傷は…腕の火傷は戦闘中、戦火で燃え盛る戦友をなりふり構わず死に際まで抱きしめていた為に付いた火傷痕なの、とっても大切な私の友達だったわ。

でもこの腕の包帯も顔の傷も私の心を写した勲章だと誇らしく想っているわ。

他の人にはあんまり理解してもえないでしょうけど、私は軍から貰える人殺しの勲章より何倍も貰えて嬉しいものなの」


嬉しそうに話すロイドを見てエロイスはすこし彼女のことを見つめていた。


「…?何…?そんなに私のこと見つめて…」

「…ううん、強いなぁって…正義感強くて人情深くて…私が男の子だったら絶対好きになってたと思うな」


エロイスの遠回しの告白に似た発言に思わず彼女の頬が赤く染まる。


「そっ…そんなっ…!好きだなんて…そんな…どうしよう…私…うぅ…」


わかりやすく赤くなった頬を両手で押さえて嬉しそうに恥じらうロイド。


そんな愛らしい乙女のような彼女野仕草をエロイスは微笑んで見守っていたのだった。


二人の少女は休養の中で確かに友情を育んでいった。

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