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一人きりの仇討ち

テニーニャとロディーヤの両軍がラインツィッヒで発生する戦闘に備え各々準備していた。

そんな中、リリスは変わらず飛行兵としての日常を過ごしていた。

だがそこについに最後となる刺客が現れる。

世界に朝がやってきた。


リリス、エマール、シュトロープ、バッタンキューはそれぞれ並べられたベッドの上で寝息を立てていた。


「ん〜…食べないでぇ〜……」


黒いリボンバレッタをテールの根本につけている亜麻色の少女が一回り大きい飛行服のつなぎの袖を伸ばし萌え袖の状態で身体を丸めてスヤスヤ寝言を言っている。


蛍光色の緑色のジャギーロングストレートヘアのシュトロープはすでに目が冷めていたようだった。


窓からは差し込まれる朝日が彼女の頬を照らし輝かせている。


「はぁ〜…眠い。

みんなはまだ寝ているようだな、さて日課のリリスの寝顔でも観察するかな」


リリスのことが好きすぎるシュトロープは毎朝、彼女の寝顔を眺めるのが日課になっているようだった。


彼女は小さく寝息を立てる麦色のショートカットの少女へ近づき、近くの椅子を持ってきて座り顔を覗き込む。


目を瞑りわずかに口を開けスゥースゥー呼吸をしているようだ。

顔のそばには彼女の小さな両手が添えられている。


そんな愛くるしい少女の顔を惜しげなく目に焼き付けるシュトロープ。


「…いつまで見られるのだろうか。

いつまでも私だけに、その顔をしていてほしいのだが…少しわがままだな」


椅子に座って寝床で眠る少女を眺めるていたシュトロープの背中は少し寂しそうに早朝の光が舞い込む兵舎の中に浮き出ていた。


しばらく彼女は無心で眺めていると、ついにリリスが目を覚ました。


一回、辛そうに寝返りをうつと両腕を伸ばして口を大きく開ける。


「…あっ…シュトちゃん…おはよう…」


あくびで滲み出てきた涙を拭きながら薄茶色の飛行服のつなぎを着ているリリスが小さな声でそう言いながら起きた。

 

「おはよう」

「んっ…やけに早いね…どうしたの…?眠れなかったとか…」

「いいや、最近敵の来襲が多いから起きておこうかなと思ってな、深い意味はないさ」

「へぇ〜…」


寝ぼけ眼を擦るリリス。


「んあぁ〜…眠いぃ〜…シュトちゃん…」

「おっと、私が添い寝でもう一眠りするか?」


シュトロープは冗談半分で言ったつもりだったが帰ってきたのは予想外な答えだった。


「うん…流石に少し早く起きすぎたかも…もう一回寝ようかな…シュトちゃん有りで」

「えっ…」


思わぬ言葉に動揺するシュトロープ。


そんな彼女に追い打ちをかけるがごとくリリスは両腕を彼女に向け伸ばして言った。


「…来て」

「はぁっ…!?!?

いっ…いいのか…!」


シュトロープはゆっくりと席を立ち、寝起きのリリスの座るベッドへと入り込む。


そしてリリスの身体に抱きつくとそのままベッドへと倒れた。


「おおっ…おお…っ!かわいい…なんて愛らしいのだろう…まさか朝っぱらからパンツを汚してしまうハメになるとは…」


スヤスヤと眠りについたリリスの頭部の匂いを嗅ぎながら強く抱きしめるシュトロープ。


「…ずっとこうしていられればな…いつ死ぬかもわからない…せめて今だけは…たっぷりと味わっておこうかな」


ベッド上で抱き合う二人、美しい絵画のような光景が兵舎の部屋に出来上がったのだ。


シュトロープは起きたエマールとバッタンキューのみんなに誤解されるまでずうっと眠りについていたのだった。


 

起きてきた四人は兵舎の外へ出て薄い紺色が広がる朝空の下に出る。


冷たくも爽やかな風にそれぞれの髪が靡く。


「さぁ、今日も一丁やりますかっ!」


エマールがそう気合を入れると四人全員が「オーっ!」という掛け声と共に拳を空へと突き上げた。



彼女たちは早速飛行帽とゴーグルを装着。

黒い革手袋を嵌めいつでも出撃できるように外で過ごしていた。


「んじゃ、俺はよぉ格納庫に行くから」

「了解、シュトちゃん一緒に行ってあげて」

「わかった」


シュトロープは彼女が怪しい動きをしないようにつきっきりで監視をしていた。


「いつまで監視付きなんだ?まだ信用されねぇのか俺」

「元敵だし、お前結構な殺意を持って殺しにかかってきていたからな」

「あれは…まぁ〜悪かったよ」


二人は他愛もない会話をしながら歩いて格納庫へと向かう。


「あのときは大尉を殺そうとしていたな。

その前は誰を殺したんだ?」

「…あまり言いたくはないが、将軍クラスのやつも殺したことがある。

すこぶる有能だったさ、本当に悪いことしたと思っている、戦時はここで贖って戦争が終わったら俺が殺した奴らの墓を回って謝ろうと思ってる」

「根は真っ当なんだな、だがユダンさせるための虚言かもしれない。

私はお前から目を話さない」

「はいはい、言ってろ」


お互い微笑みながら格納庫へと向かって行ったのだった。



リリスとエマールは野外に設置されていた椅子に座っていた。


そんな彼女たちにイーカルス大尉がやってくる。


「おはようてめぇら」

「あっ、大尉っ!おはようございますっ!」


二人は席を立ちピシッと背を伸ばし左腕で敬礼をする。


「朝食は節約のため俺のはちみつで我慢してくれ」


大尉は彼女たちのテーブルにはちみつの入った瓶を置いた。


「あれっ、チョコも在庫切れですか?」

「おうエマール、兵站が届かなくて困っている。

飢餓しちまうから早く送ってくれって言ってるんだが…」


肩をすくめる大尉と落胆するエマール。

そんな二人を尻目にリリスは黒い革手袋を外して指ではちみつを掬いペロッと舐めていた。


「甘〜い…っ!エマちゃんっ!美味しいよっ!一緒に食べよっ!」

「…もう、リリスちゃんは元気なんだからっ」


エマールは仕方なさそうに笑いながら駆け寄ってきた。


リリスは指ではちみつを掬いエマールの顔に近づける。


「はいっ、あ〜ん…」

「えっ…う、うん…あ〜んっ…」


エマールは戸惑いつつリリスのはちみつが乗った指に口を近づける。

 

髪の後れ毛を耳に掛けると、指の腹に乗ったはちみつを口に入れ彼女の指を咥えた。  


はちみつを舌で舐め取るエマールと嬉しそうに微笑むリリス。


「んっ…美味しい…っ!」

「だよねっ!大尉のはちみつは絶品だよっ!」


はちみつに夢中になっている二人に大尉は言った。

 

「今日の任務は敵基地の場所を突き止めてそれを司令部に伝えること。

俺のグリーンデイとリリスのホワイトデイの後席にエマールを乗せて二機で飛ぶ。

エマールはカメラを持て、日が完全に登る前に出撃だっ!」

「「了解っ!」」


二人はそう声を揃えて元気よく返事をした。


「よしっいい声だバカ野郎っ!

整備兵っ!機体を出せっ!!出撃だぁーっ!!」



大尉の呼び声と共に整備兵はいそいそと動き出す。


主輪のついた機体の主翼を押して格納庫から砂の滑走路へと運び出されるのだった。


「シュトロープはお休みだな。

てめぇら乗り込むぞっ!空が俺らを待っているっ!」


そう大声で言う大尉はグリーンデイに、リリスとエマールは複座戦闘機のホワイトデイに乗り込んだ。


二機のプロペラが次第に回転を始め砂埃が舞い始める。


ブレーキが解除された機体は助走をつけ滑走路から飛び立っていった。


残されたシュトロープとバッタンキューは格納庫の外から大空へ旅立つ二機の複葉機が点になって消えるまで見送っていた。


「行っちまったか…生きて帰ってくるか?」

「彼女たちなら問題はないだろう。

さて、床掃除を始めるぞ」


そう言って二人は格納庫内へと入っていった。



だが二機の複葉機が基地から飛び立つのを遠くの木の上から眺めていた人物が一人いた。


「朝っぱらから出撃たぁ御苦労なこった。

バッタンキューもシャルハンもここで消えちまった…間違いねぇ…総長の言ったとおりこの基地で仲間が殺された…私がケリつけなきゃあなぁ…ったく」


木の上からニヤリと笑う少女な一人。

彼女が最後の刺客であるなどとはこのとき、誰も気づかなかった。

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