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血も涙も意味がない

リリスは参謀総長からの刺客を倒し計画を阻止することに成功した。

これでイーカルス大尉も自分自身も殺されずに済んだのだ。

場所は代わり、テニーニャ共和国の防諜監視局の地下に移る。

テニーニャ共和国の首都ボルタージュの防諜監視局。


大きな古典主義的な局の地下の一室で取り調べらしきものが行われていた。


仄暗い伝統がコンクリートで囲まれた部屋を照らす。


部屋には鉄格子の扉が設置されており、そこに親衛聖歌隊の兵士が二人立っている。


部屋の中に置かれた木製の簡素なテーブルを挟んで男女が向かい合っていた。


一人は手首に手錠をかけられ、ロディーヤ軍の野戦服を身にまとった三十代らしき男性、そしてその向かいには小綺麗な親衛聖歌隊の軍服をまとった防諜監視局局長のメンルルーが足を組んで座っていた。


「…強情っスね、あんたたちが絶滅収容所で何をしていたのかが知りたいだけなんスけど」

「…」


男性は固く口を閉ざしじっとメンルルーを見つめたまま動かない。


彼女は被っていた制帽をかぶり直しより切り込んで尋ねる。


「おそらく私たちの残虐無道の数々を捏造して母国で公表するつもりだったんだろうスけど、逃がす前に捕まえられてよかったっス。

さて、収容所で活動していたということはなにか情報でも盗もうとしていたんスよね?最新のテニーニャ軍の動向が知りたいだとか…ということはロディーヤ軍は何か大きな攻勢をけしかけるために情報が必要だということっス、さぁ吐いてもらおうか、一体ロディーヤ軍はどこに何をどうしかけるのかを…っ!」


彼女は机を思いっきり叩いて威圧した。

だが、その男はほとんど同様せずじっと彼女を見つめているだけだった。


(うぅ…っ尋問って苦手なんスよね…とりあえず大きな声でも出せばいいんスかね…?)


メンルルーはなかなか情報を引き出せず少し焦っていた。


「…なるほど、意地でも言わないつもりなんスか、なら同じく捕えた仲間がどうなってもいいんスか?」

「俺の仲間は情報を吐くぐらいなら死を選ぶ、当然俺も」

「ケッ、劣等人種の癖に維持ばっかり張りやがって」


メンルルーは意地でも吐こうとしないロディーヤ兵に頭を悩ませていた。


そんなとき部屋の外から足音と車輪がガラガラと転がる様な音がした。

地下なのでより一層、軍靴の音は響き渡る。


そしてその足音はメンルルーの尋問している部屋の前で止まった。


そして鉄格子が軋みながら開く。


「久しぶりです、メンルルー様。

お時間いたけますか?」


その正体は兵務局局長スニーテェだった。


白い編み手袋を手に嵌め、細目で笑顔の彼女が部屋に入ってくると後ろから手術室にある医療器具を置く銀の皿が乗った台のような物を押す聖歌隊の兵士も同時に入ってきた。


「スニーテェっ!なんであんたがここに…」

「発見者の私も尋問する権利がございますよ。

それに、すでにこの方で二人目です。

先程私が尋問したあなたの仲間が吐いてくれましたよ、この方に聞けばわかると」


スニーテェが笑顔で拘束されたロディーヤ兵の方を見る。


「馬鹿なっ…!あいつがそうペラペラと喋るはずがない…っ!」

「フフフ…それは貴方様だけの認識だったようで…」


仲間が吐露したとの情報に驚きを隠せない兵士。


メンルルーは運ばれてきた台車の皿の上においてある器具を覗き込む。


「こっ…これは…っ!」


そこにはハンマーや釘、裁ちばさみ、まち針、ナイフ、手斧、糸鋸、ロープなどがが陳列されてあった。


「質問は既に尋問に、尋問は既に拷問に。

そして、拷問は既に糾問に変わってるのです。

お答えいただかなければ貴方様にとってこの地下がカタコンベになることでしょう」


狂った笑顔を浮かべるスニーテェは皿の上から糸鋸を取り出した。


「メンルルー様、その皿の上のロープで縛り付けてください」

「ん、了解」


メンルルーは円状にまとめられた麻のロープを解き兵士に近づく。


「やめろっ!俺のそばに近寄るなっ!」

「じゃぁっ!」


メンルルーは謎の掛け声と共に男の頬に肘打ちを食らわせた。  


男は机に突っ伏すように倒れてしまった。


ロープを持った彼女は気絶したロディーヤ兵の手足を縛り付けた。



兵士が目を覚ますとそこはさっきと同じコンクリートの部屋だった。


ただしテーブルは端に移動させられ、目の前には糸鋸を持ったスニーテェとナイフを持ったメンルルーが立っていた。


真っ黒な軍服をまとった親衛聖歌隊の彼女たちは伝統の微光に照らされ顔の彫りの影が一層際立つ。

その顔の下にはさしずめ悪魔が潜んでいるかのような表情を浮かべていた。


「糸鋸で目を」

「ナイフで死なないように肉を削ぐ凌遅を」


二人の少女がこれから拷問をするための器具を持って椅子に拘束された兵士にゆっくりと歩み寄る。


「やっ…やめろ…やめろ…っ」


だが少女たちは笑顔で威圧するようにすり寄ってくる。


「さぁ、藁を掴みたがるまで那由多でも敗滅させやる」


防諜監視局の地下に布を裂いたような絶叫が響いた。

 

喉元を締め上げられた断末魔に近い叫び声は地上で勤務していた兵務局の兵士にもかすかに聞こえた。


「またか…」

「この局の地下で拷問するのはやめてくれってあれほど…」

「ハハハ、いいじゃないか。

彼女が拷問で情報を引き出せなかったことはないんだ。

きっといい足がかりになるさ」


兵士たちは午後のコーヒーブレイクを楽しみながらそんな会話をしていたのだった。



陽はすでに傾き始め、空は段々と夕方に染まり始めていた。


「ちょっとたんま…疲れた…あとは任せたっス…」  


頬に少量の血痕を付着させているメンルルーは長い拷問に疲れた椅子に腰掛けた。

 

「そうですか、ではあとはおまかせを」


スニーテェは口元に着いている血痕を舌で舐め取るとペンチをカチカチと鳴らした。


椅子に縛られている兵士は数時間前と姿が全く変わっていた。


野戦服はすべて脱がされ血で染まったトランクが一丁。


裸足の足や手の爪はほとんど剥がされ地面に剥がされた爪が転がっていた。


耳や乳首はメンルルーによって削ぎ落とされ、そこに本来乳首があったはずの場所はギザギザのザクロのような赤い肉片に変わっており、真っ赤な鮮血が胸や腹を伝って流れている。


眼球はスニーテェに糸鋸によって硬めを切られ血の涙を流している。


「では次は永久歯を抜きましょう、この歯でいいですかね」


スニーテェが笑顔で口の中の永久歯をペンチでがっちり固定する。


「ひゃっ…ひゃべるはら…しゃべるから…やへて…やへて…くれ…」

「わかりました、これでやめましょう」


スニーテェが頭部をがっちり抑えてペンチを握った手を思いっきり引いた。


「ギャァァァァァーーーっ!!!!」


スニーテェは血のついた白い歯が挟まれたペンチを握ったまま笑顔で突っ立っている。


「ハイトツィッヒ…ハイトツィッヒの攻勢を仕掛けるために…テニーニャの動向を探りに…」

「そうでしたか、なるほど。

確かにあそこは今兵員を削減しているところでしたね…わかりました、よくぞ言ってくれたました。

お礼に病院へと運んで治療させてあげましょう」


スニーテェが笑顔でそう言うとむりやり抜いた歯を部屋の隅に捨ててペンチを血まみれの器具が乗る皿へと戻した。


「あぁ、あと私、仲間が吐いて貴方様に聞くといいとか言いましたよね。

あれは嘘です、私が拷問ではなくうっかり殺してしまいました。

失態です、なんにも収穫がなかったのですが、貴方様から引き出せてよかったです」


兵士は無事な片目を絶望したように見開くとじわじわと涙が浮かんでくる。


そのまま泣いてしまうかと思われたが、その兵士はすきっ歯の口の口角を上げ、涙を流しながら笑い始めた。


「あはっ…あはは…っ…あひっ…っ…あぁ…っ…あははっ…はは…っ!あはははっ…っ!」


ついに精神が崩壊し感情が壊れ始めた兵士。


メンルルーは少し同情する様な目で見つめる。


「あーあ?壊れちゃったっス」

「仕方ありませんね、手のかかる人です」


スニーテェは頬についた血をハンカチで拭うと、座っているメンルルーに言う。


「総統閣下に報告です。

ライトツィッヒ…あそこにロディーヤ兵が攻勢を仕掛ける。

すぐに作戦をテニーニャ陸軍の参謀と練らねばなりません」

「うっス」


スニーテェとメンルルーは新たにロディーヤから情報を引き出すことに成功した。


ラインツィッヒ、果たしてそこはどんな場所なのだろうか。

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