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流星の君

チェニロバーンにて蜂起した暴徒を鎮圧するべく参謀総長は前線にいる帝国陸軍に帰還を命じた。

これによりハッペルにて孤立した挺身隊をテニーニャ陸軍の偵察機が発見する。

テニーニャ国防軍の少佐のハーミッド・フロントはテニーニャ陸軍にとある要請をする。

ハッペルでは相変わらずロディーヤの挺身隊が占拠していた。


「准尉さん、傷は大丈夫ですか?」

「あぁ、今の所膿んだりはしていなさそうだが…」

「傷が塞がってきて何よりです♪」


メリーは右目を潰した相手のオーカ准尉のそばにいた。 


「准尉、ちゃんと感謝しなさいよ、目を潰されても潰した相手の事許せるなんて精神力尋常じゃないんだからね」

「貴様は…確かベルヘンとか言ったな」

「そうよ、私はあんた事嫌いだけどね」

「何度でも言え、捕虜の私に反論する気概はもうない、この足が完全に治ったら出ていってやるよ」


そう言って准尉は包帯が巻かれた両足の腿を指した。


外にいたリリスやウェザロは町の軍需工場内を探索していた。


「うわーこれ軍需工場なんだ…思っていたより小さいね…」

「みたいだね、たしか製鉄が有名じゃなかったっけこの街。

銃剣と弾薬を中心に作っていたみたい」


軍需工場とは言っても小さな町工場ぐらいの大きさだった。

天井からの隙間から何本もの光の筋が入り込んでおり、それが銃剣の輝きをより強烈なものにしていた。



しかしその平穏は突如として壊された。


「ん?なんの音だ」

「どうされました?准」


ドォォォォォンッッッ!!!


いきなりハッペルの街に轟音が響き渡った。

その轟音のあとに家屋がガラガラと倒壊する音が聞こえる。

挺身隊員は大パニックに陥っていた。

すぐに少尉が呼びかける。


「砲撃だっーーー!!!身を屈めて頭を守りながら広場に集まれっっーー!!!」


しかし無慈悲にも次々と砲弾が撃ち込まれていく。

その無数の砲撃は歴史あるハッペルの町並みを軒並み破壊していった。


「一体どこから…っ!発砲の音が聞こえなかったぞ…っ!!」



その遥か遠く、一本の線路の上に長い長い列車が止まっていた。

その車両一両一両に砲が取り付けてある。

テニーニャ陸軍の列車砲だった。


長いく重い砲身でも遥か遠くのハッペルまで安全に、そして素早く気づかれずに砲撃できるものだった。

フロント少佐が要求したものはこれだった。


「奴らは音もなく忍び寄る死神に気づかない。

気づいたときには首に鎌、絶望する頃には彼岸だ、この火薬の旋律リズムで踊りたまえ。

何?踊り方がわからない?

ならば教えてあげよう、地獄の輪舞曲ロンドの舞踏会を」


列車砲がリズミカルに発射される。

砲兵の目は笑顔が張り付いたような表情を変えずに次々と装填していく。


少佐は先頭の列車の上で指揮者の指揮棒を降る仕草をしながら指示を出す。


「次はラの音がいい、その次はレのシャープだ」


砲火が次々と赤い閃光を発して遠くへ飛び立っていく。


一通り砲撃が終わる。

しかし少佐はまだ不満足げな顔をしていた。


そして。



「 ダル セーニョ センザー フィーネ

    (終わることなく 目的へ)


    演奏再開ダ・カーポだ」




その合図とともに止んだ砲撃がまた繰り返される。


「いいぞいいぞ!私を安心させたまえ!この戦争の終わりは私が不安を抱かずに床に就くことで集結するっ!全ては極上の安眠ためだ!この曲は私が安らかに眠るための夜想曲ノクターンだっ!」



砲撃がやんだハッペルはもはや街としての景観を保っていなかった。


教会や家屋も全てなぎ倒され、広場に避難していたが挺身隊員たちはなんとか生き延びていたが、逃げそこねた挺身隊員たちは瓦礫の下に埋まってしまっていた。


「みんな大丈夫か?あれはいったい…」


そこで少尉は生き残った隊員の数を確認している。


「…そしてリリスにウェザロ、メリーだな…

ベルヘンがいないぞっ!?あとあの准尉もっ!」



(痛った…私は…なんでこんな暗い所…)


ベルヘンは暗いところで目を覚ました。

うつ伏せの状態で頭からは出血している。


(そうだ私…瓦礫に巻き込まれて…誰か…)


ベルヘンは遠のきそうな意識の中、動ける範囲内で手を動かしてみる。

すると手がポケットに誘われた。


そのポケットの中に茶色がかったたんぽぽの茎で作ったシナシナの草笛があった。

ハッペル攻撃前からポケットに入れていたものだった。


(これで…私の居場所を…)


ベルヘンが草笛を口に含んで吹こうとする。

薄い血の味と植物特有の苦汁がベルヘンの味蕾を刺激する。


死に際の小鳥の鳴き声のようなか細い音がベルヘンの呼吸と同期してヒソヒソと鳴く。

そのうち消えゆるように鳴き終わるとベルヘンは静かに目を閉じた。


(誰も…来てくれなかったな…死ぬときも…一人…か…)


そう諦めかけたときわずかに小石が崩れるような音がした。

ベルヘンの脳内にその声が響く。


「…っ!」

「…ヘンっ!」


「ベルヘンっ!」


その声は紛れもない、あのオーカ准尉だった。


「そこにいるんだろ?今出してやる」


オーカ准尉はベルヘンに覆いかぶさっていた板や瓦礫を手でどかし始める。

瓦礫をどかしたことでベルヘンの顔に光が差し込む。

オーカ准尉がそこから顔を覗かせる。


「おはよう、朝だぞ」

「…准尉…」

「早くこっちにこい」


准尉がベルヘンの手を握り、引っ張ろうとする。


だがベルヘンの足はさらに大きい瓦礫の塊に押しつぶされていた。


「ベルヘン、足は動かせるか?」

「…わからない…感覚はあるから…多分歩ける」

「じゃあ大丈夫だな、今出してやる」


そう言うと准尉は両手で精一杯瓦礫を持ち上げる。

しかしまだまだ全然瓦礫は動く気配がない。


「准尉…みんなを……みんなを…呼んで…」


精一杯力を入れたせいか、塞ぎかけた両腿の傷口が開き出血し始めた。


「もう貴様らには迷惑かけれねぇからな…っ!クソ、動かねぇ…」


両腿の出血が激しくなってくる。

包帯から滲み出し軍服のの上からでもわかるくらい垂れてくる。

准尉の両足はもう真っ赤に染まっていた。


「…准尉…っ!もう…」

「もう少しだ…っ!それっ!」


大きな瓦礫をどかし、ベルヘンがゆっくりと出てくる。

そんなベルヘンへと准尉の手が伸びる。


「准尉…その足…」


ベルヘンが心配そうに足に目をやる。


「…じゃあな貴様、世話になった。

この先の広場に仲間がいるはずだから、歩けるならさっさといけ」

「でも…っ!その足じゃ…」

「私を誰だと思っているんだ。

テニーニャ国防軍のオーカ・ハウドポートだぞ、もう貴様らの用になんかならない…それに…もう恩は返した…私の命でな」

「えっ」


そう言うと准尉は腰から拳銃を取り出し頭に銃口を当てる。


するとそこに少尉たちが駆け込んできた。

そこにはメリーもいた。


「准尉…っ!やめて…!」


メリーがそう呼びかける。


「メリー、私は貴様に謝罪をしたつもりだった。

だが気づいた。

貴様にしたことは私のこの命より大きい、その罪の余剰をさっき返した。

そして私の命とと同じ重さになった罪を今ここで支払う」

「オーカさん…っ、待って…っ!!お願いっ!」


メリーが准尉のもとへ駆け出す。

メリーの目には涙が浮かんでいた。

オーカはそんなメリーを見届けるように笑う。


「…素晴らしい人たちだったな、国防軍のみんなに見せられないのが残念だ」



ダァンッッ!!



オーカはすぐにその場に倒れ込み、頭のこめかみから血が吹き出す。

鮮血は絶えず流れ続け、血の池を作り上げていく。

メリーがその場に座り込む。


「オーカさん…っ…あぁ…っ…そんな…」


顔を覆って涙を流すメリーに思わずその場にいた全員がもらい涙になる。


そしてベルヘンがゆっくりと泣いているメリーに後ろから抱きつく。


「…あの人は自分の命をメリーに託したんだと思う、大丈夫っ、私達が…私が…一緒に生きるから…」


ベルヘンがより強く抱きつく。


「…ベルヘン…よく生きていたな」


少尉がベルヘンに跪いて聞く。


「あの人が、助けてくれたんです」

「そうか、やっぱり人って死期を悟ると人柄が変わるんだな」


「それは違います…あれがあの人の本性です。

あの人の心を黒く染めていたのは、准尉の権威とこの戦争です、それから解き放たれようとなった瞬間にもとに戻っただけです」


ベルヘンが准尉の死体を眺めながらそう言う。

少尉の死体は直後の笑顔とは違い、目は見開き口や鼻から違い流れ続けている。


メリーはそんな死体に近づくとそっと准尉の瞼を閉ざした。

そして死体のおでことメリーのおでこを触れ合わせて囁く。


「おやすみなさい、准尉さん」


メリーの頬に透き通った涙が一筋、日光を反射しながら流れ落ちた。

まるでオーカ准尉を弔う流星の様に輝きながら。

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