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幻葬された少女

やってきた刺客、シャルハンを返り討ちに合わせたリリスとバッタンキュー。

倒れ込むシャルハンは突如頭痛に苛まれ始める。

そして彼女の口から直接過去が語られた。

その場で唇と鼻から血を流すシャルハンは頭を抑えながら悶る。


「何だ…病気か…?とりあえず殺すか」

「待ってキューちゃんっ!最後に改心する気がないか聞かせて…」

「リリス…無駄な時間だと思うぞ」


リリスは少し強い口調で言う。


「それでも、私は人を信じたい」


バッタンキューは肩をすくめ「好きにしろ」とだけ言った。


リリスはシャルハンの手が届かない範囲で足を止めると彼女に問いかけた。


「…貴方は改心さえしてくれれば、殺害はしない、それでもあの人に仕えるの…?」

「……」


シャルハンは血の味がする口を動かして語り始めた。


「…私は、父親から性的虐待、母親からは暴力を振るわれる毎日を過ごしてきた。

父親は仕事でいないか、私を殴りながら犯すか。

母親はずっと家にいて、私を怒鳴るか殴るかしかしなかった、はっきり言って狂人だと子供ながらに思っていたわ。


特に母親は私が幸せになろうとすることを許さなかった。


ある時、私は捨て猫を拾ってきて可愛がっていたところ母親に見つかり目の前で猫は射殺、私は家の中を永遠と引きづられ、そのうち壁の角に頭を打ち付けて三日間意識を失った、それからこうしてた慢性的な頭痛が私を苛んでいくことになった」


シャルハンの過去の話にリリスもバッタンキューも思わず息を呑んでその話を聞く。


「そんな毎日に嫌気を指して風呂場で手首を切って自殺を試みだけど未遂,一ヶ月意識を失い入院することにななったわ。

だけど、両親は医療を支払おうとはせずに結局その揉め事が原因で離婚、どちらもシャルハンの親権を欲しがらず私は孤児になった。

医療が払えないから病院から脱走してそのあとは駅の構内でゴミをあさる浮浪者同然の生活をしていた…だけどそんな私に希望の光が射したの」


シャルハンはゆっくりと震える腕で身体を起こす。


「その光ってまさか…」


リリスの問に彼女はニヤッと笑った。


「そのとおり、参謀総長の『廃園化計画』

何もかもを嫌い、絶望していた私を拾い上げてくれたあの人の話を聞いて私は確信した。

この人なら…私を幸せにしてくれる…この国を抜本的に…すべてを変えてくれるって…。 

政治も人も金も酷く淀んだこの国を変えてくれるって…っ!」


彼女は千鳥足で立ち上がり、フラフラと二人の前で言う。


「誰かが言った、人間皆平等だと。

だが世界を見渡してみれば生まれつき貧素なやつから金持ちなやつ、なんの能力もないやつから歴史に名を刻むようなやつまで色々な人がいる。

幸せに成長できるやつから生まれ損なった人まで…

よく言われる共産主義だって、資本主義者に対しては別に平等なわけじゃない。

…その人はこの世界の何を見てそんなことを言ったのかしらね」


シャルハンの問いにリリスは答えた。


「…でも確かにその人の言った通り度と思う。

人間はみんな平等だよ」

「何がだ…?」

「命の数だよ」


リリスの回答にシャルハンはハッとさせられたように目を見開いた。


「命の数…」

「そう、…それに生き物である限り競争は免れない、どんな生まれだろうが能力を持とうが死んだらみんな平等なんだ、それまで不平等を楽しもうよ。

今日は余生の最初の一日、まだやり直せると思うよ」


リリスの微笑みはまるで聖母の様、そしてそのた立つ姿からは後光が放っている様に見えた。


(こいつの目…いくつもの修羅場をくぐり抜けた目をしている…)


立ち上がったシャルハンはリリスの凄みに気圧され思わず怯んでしまう。


「…そうかもね…やり直せるかもしれない…」

「ね、だから…」


リリスが手を差し伸ばそうとした瞬間、シャルハンは懐からナイフを握ってリリスに向かって走ってきた。。


「私は暗闇の中、垂れてきた蜘蛛の糸を掴んだのっ!今更手放せないわっ!手放したら私は…っ!私はただの罪人になってしまうっ!必ず楽園へ行くわっ!貴方を殺してっ!!」


シャルハンの硬い意志を見せつけられたリリスは目にわずかに涙を浮かべた。


この少女を殺すということが確定になったからだ。


「そう…残念…」


シャルハンがナイフを握った腕をリリスの顔面向け付き出す。


リリスはそれをサッと避けシャルハンの腕をがっちり左手で掴んで引き寄せると彼女の身体はリリスに引き寄せられる。


「クソっ…!離せっ!」


リリスは彼女を手繰り寄せながら右手をシャルハンの顔面へとブチ込んだ。


「ぐっ…ごっ…!」


リリスの右手の拳には飛行兵のゴーグルが装着されていのだ。

ゴーグルは彼女の柔い肌の顔をレンズの破片で傷をつけ、さらに食い込んでくる。


「うぉぉぉぉーーっ!!このクソガキャァァァァァーーっ!!!」


キラキラと輝くガラス片が舞う中シャルハンは後ろにふっ飛ばされた。


飛ばされたシャルハンは体制を立て直そうと地に足をつけた瞬間、首に鋭い痛みが走った。


「がはっ…!!な゛っ…

な゛ん゛な゛ん゛だこれはぁ゛ぁーっ!!!」


シャルハンの首の頸椎に刺さっていたのは壊れている鉄筋コンクリートの壁の断面から飛び出た鉄筋が首に刺さっていた。


「お゛ぇ゛ぇっ…っ!このっ…ガキァっ…!」

「地獄で懺悔しておいて…私もいずれ行くから。

その時は仲良く責め苦に苦しもうね」


シャルハンは首に刺さった鉄筋を掴んで外そうともがいている。


口や鼻から血を流し苦しそうにボコボコと喋る。


「…じゃあね」


リリスはそんな彼女の頭を両手で優しく掴みさらに奥へと押し込んだ。


「ぶぇっ……!」


鉄筋は頸椎を貫通し、先端は喉仏を潰して表面から飛び出してきた。


シャルハンの身体は首の鉄筋に持ち上げられるようにぐったりとしてしまった。


首からの噴き出る流血が彼女の白い身体を伝い地面へとぼとぼとと落ちていく。


リリスは亡骸となったシャルハンの頬に両手を添えたままうつむきながら泣いていた。


「…リリス…」

「…ううん、大丈夫…大丈夫だから…」


深紅の血液にまみれたシャルハン、彼女の頬を優しく触るリリス。

バッタンキューはその光景を無言で見つめていることしかできなかった。


「…キューちゃん…この子を埋めてあげよう…手伝ってくれる…?」

「…あぁ、シュトロープを叩き起こして三人で埋めるか」


二人が航空基地の隅で立ち尽くしていると遠くからプロペラの音が聞こえてきた。


「…大尉たちが帰ってきたぞ、急ごう」

「…うんっ」


こうしてやってきたら刺客は静かに葬られた。


二人は起こしたシュトロープと共にその死体を航空基地の隅に埋めた。

その墓にはリリスが墓標替わりに彼女のナイフを一本、突き立てたのだった。

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