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もうひとりの刺客

しばらく野戦病院の一室で休養を取るざるを得なくなったエロイスたち。

彼女たちは一旦歩兵の仕事を休むことになったが、リリスたち飛行兵は来る敵を撃墜する毎日を過ごしていた。

イーカルス航空隊のいる湖のほとりの航空基地。


リリスたちは屋外に置かれたテーブルと椅子に座り昼食を食べていた。



「えっ…これだけですか?」


リリスは大尉から手渡された昼食に驚く。


渡されたのは板のチョコレートの半分程度だった。


「文句を言うなっ!ただでさえ困窮しているんだっ!節約は大事だぞっ!」


大尉の説得によって渋々従うリリスたち。


シュトロープとエマールも自然と文句が口に出る。


「豊かになるための戦争なのにこれじゃあねぇ〜」


エマールは皮肉そうにチョコレートを口に放り込んでいった。


「最近は思うように進撃できていないなんて話も聞くからな、その分俺らがやってやらなきゃああかんぞっ!かかってこいハゲだこっ!何機でも落としてやるぜバカ野郎っ!!」


大尉は青々とした空へ向かって威嚇した。


威勢を見せつけていた大尉に笑顔を向けていた三人の集団にバッタンキューがやってくる。


「ひぃ〜っ…兵舎と格納庫の掃除終わりったぁ〜…」


リリスのそばの椅子にもたれるようにしゃがむとリリスはバッタンキューの垂れたうさ耳のついたキャスケットの帽子を撫でてくれた。


「おつかれキューちゃんっ」

「ほんとに疲れた…何か食えるもんをくれ…」

「ごめんね…私食べちゃった」

「マジか…」


落ち込むバッタンキューを見た大尉がポケットを漁るとそこから一欠片の銀紙に包まれたチョコレートが出てきた。


「おいバッタンキュー、エサやるぞ。

腹を上にして轢かれたカエルみたいなポーズをとって強請ればやらんこともない」

「ふざけるなっ!俺にだってプライドがなぁっ!」

「はン、冗談だぜ、うるせぇやつだ」


投げつけてきたチョコレートを受け取ったバッタンキューは銀紙を取っ払い一口サイズのチョコレートを口に放り込んだ。


口の中でとろけるチョコレートを舌の味蕾全体で味わう。 


「あぁ〜…うめぇ〜…」

「良かったな」

 

幸せとそうなバッタンキューとそれを腕を組んで見守るイーカルス。


席に就いていた三人はそんな二人を尻目に会話を始めた。


「うんうん、ちょっとしかないけどすごく美味しいよ」

「…ちょっとだけに、っていうこもと?」

「あっ…うっかりダジャレになっちゃった…えへへ…っ」


そんな何気ない会話を着ているとイーカルス大尉に整備兵が駆け寄ってきて言ってきた。


「大尉っ、!敵機が…」

「なんだ、やけに静かに告げるな」

「はい、どうやら隊列から外れた戦闘機が二機向かってきているらしいんです…」

「おう、そうか」


大尉は雑談に興じる三人に駆け寄り呼びかける。


「どうやらはぐれた敵機がやってきているらしいと見張りの兵士から連絡があったそうだ。

俺だけでもいいが念の為もうひとり来てくれ」

「はいはいっ!エマちゃんいきま〜すっ!」


突然エマールが席を立ち手を挙げた。


「よしっ!早速飛ぶぞっ!来いっ!」

「あいっ!」


大尉とエマールは二人は走ってその場を離れていった。


「気をつけてよ〜っ!エマちゃーんっ!」

「任せてって!グッバイっ!」


リリスとシュトロープ、そしてバッタンキューはその場で呆然としていた。


「…そろそろ兵舎に戻るとするか、リリスはどうする?」

「えっ?そうだなぁ…見送ったら戻るよ」

「そうか、じゃあ先には行ってるな」


シュトロープも兵舎に向けてその場を去ってしまった。


残された二人だけが滑走路に用意された大尉のグリーンデイとエマールのホワイトデイが飛び立つのを眺めていた。


二機は上空に向かって飛んでいき、やがて点となって消えていった。


「じゃあ帰るか」

「うん、そうしよう」


二人は仲間を見送ったあと兵舎に向かって歩き出した。


そして自分たちの兵舎ヘ近づき、そしてドアを開けた瞬間、とんでもない光景が目に入った。


「…っ!?」


リリスは思わず目を見開きその光景に驚愕した。


そこには真っ黒な少女がシュトロープの首根っこを片手でわしづかみにして壁に押し当てていたのだ。


シュトロープは両手で少女の手首を掴んでいるが空中に持ちげられた彼女の首はどんどんとしまっていく。


「誰っ!貴方はっ!!」


リリスが強い口調で言うと少女は目線を兵舎の入り口のリリスたちの方へ向けシュトロープを地面に叩きつけた。


「ぅ゛ごっ…!」  


シュトロープは叩きつけられた衝撃で気絶してしまったのか、そこから動くことはなかった。


「…来るのが遅いわ、待ちくたびれちゃった。 せっかく奇襲食らわせたかと思ったら全然知らない子だったもの、この子には悪いことしたなぁ」


彼女のギラギラと光る赤い目の目元には目元に逆さまのハートが入れ墨されている。


斜めに揃えた前髪、鋭角が肩に乗るほど極端な前下がりボブ、

そして頭に赤いバラの花がついたミニシルクハットを被っている。


黒シャツの襟に金のチェーンブローチを着用、金のネクタイピンをつけた黒いネクタイをぶら下げてあった。


黒いポケットのついた布のショートパンツから見える眩しく明るいふくよかな両ふとももを締めるようにナイフホルダーが装着されており、そこに銀色のナイフが三本ずつ挿し込まれていた。


そして黒い革の膝辺りまでのロングブーツを履いている彼女はバッタンキューの方に目を向けた。


「君よ君、私はバッタンキュー・ニューデセックスの行方を探りに来たわ。

その様子だと裏切ったみたいね」

「俺はあの計画なんかどうでもいいっ!金と地位がほしかっただけだっ!だがそんなものなんの足しにもならないことをこいつに教わったっ!そんなチンケなものより欲しなきゃいけないものがあるとっ!」


リリスは突然の人物の登場に頭が混乱していた。


「えっと…誰…?」

「シャルハン・チルバ、私と同じ参謀総長の計画に肩を貸す一般人だ。

リリス、こいつは参謀総長の計画を病的にまで崇拝している。

騙されているとかじゃなく戦争はいいもので楽園がその後にやってくると思いこんでいる!更生なんて死んでもしないやつだっ!!」


そう言い放つとシャルハンが二人に言う。


「裏切ったと以上、君はイスカリオテのユダよ、始末しなくちゃあいけないわ、ついでにちょくちょく危険人物だとは言われるリリス、君も始末してあげる。

あとは消しそこねたイーカルス大尉も尊い犠牲にするわ」


その瞬間、シャルハンはふともものナイフホルダーから三本のナイフを片手で取り出し扇のように広げて見せた。


ギラギラと光る銀の光を見けつけながら静かに言う。


「君が最強のジョーカーだというのであれば倒せるのは最弱のスペードの三しかない。

勝負は一回、賭場は一夜、そして勝つのはただ一人

楽しもうか、これで逆徒は血に染まる」


シャルハンがそうい決め台詞を放つ。


「リリス、情を掛けるな…明確な殺意を持たないと…殺されるぞ…っ!」

「…わかってる、最善は尽くす…っ!」


突如現れた刺客。


バッタンキューとリリスと大尉を殺しにやってきたらシャルハンとの戦いが今、始まった。

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