享楽の宴
ロディーヤ帝都のチェニロバーンにてテニーニャ自治区の住人がルミノスに扇動され蜂起した。
彼らはルミノスが与えた銃やナイフを持って帝都になだれ込み、帝都の人々を虐殺して回っていた。
蜂起鎮圧の為に前線にいる帝国陸軍が呼び戻されてしまい、ハッペルには挺身隊だけが残ってしまうこととなった。
「何っ!?チェニロバーンで蜂起だと!?」
ルナッカー少尉がその知らせを聞いて質問する。
「はい、どうやら帝都近くの自治区の人間が蜂起したらしいんです」
ウェザロがすかさず答える。
「どれぐらいの被害なんだ?」
「それはまだ未知数らしいです。とりあえず参謀総長が陸軍を呼び戻して鎮圧させるとのことですが…」
「…」
ルナッカー少尉の眉がひそむ。
(この蜂起は偶然か…?流石に疑いすぎか…それくらい戦時中ならだいぶありえるからな…)
そう考えていると少尉のもとにベルヘンが駆け寄ってくる。
「ルナッカー少尉、ちょっと…」
「ん?どうした」
「ちょっとこっちに…」
ルナッカーはベルヘンに導かれ人気のないテント裏に移動した。
「どうしたベルヘン、なにか…」
「今回の蜂起前に自治区にてロディーヤ軍の軍服を着た人間が住人たちを扇動していると自治区の人から情報があったんです」
「ロディーヤの軍服?じゃあなんだ?スパイか?」
「それがあの『白の裁判所』のルミノスだっていう可能性があるんです…」
「それは俺も思っていた。
だが少し考えすぎじゃないか?いくらなんでも…」
「参謀総長はここに挺身隊を一時的に孤立させることが目的だと思います。
最近のロディーヤの快進撃を見てそう思ったんだと考えられます」
「そうか…」
ルナッカー少尉の顔色が暗くなる。
「少し厳しくなってくるかもな、リリスたちを巻き込みたくなくてみんなには言わないようにしているが…そろそろ勘づかれてくるかな」
「流石に少し露骨過ぎますとね…今回はまだ自然ですけどそのうちだんだんと粗が目立つようになると、流石に…」
「リリスたちを巻き込みたくなはい…計画を断念させるために参謀総長を殺すわけもいかない…あいつには絶対に生きてもらってすべての罪を償ってもらわなきゃいけない、絶対にだ。
ベルヘン、みんなを騙すようなことをして心苦しいとは思うが俺に任せてくれないか?」
ルナッカーが心配させまいと精一杯の笑顔で慰める。
ベルヘンも心境を察して、それ以上何も言わなかった。
ルナッカーはそのまま広場付近にたむろしている挺身隊に呼びかける。
「お前たちっ!聞いてくれ!この街は陥落したがまたいつ敵が襲ってくるかもわからないっ!ここの防衛は俺たちにかかっている!少ない人数だが頑張って欲しい!」
駐屯している少女兵に喝を入れる。
いつまたテニーニャ国防軍が戻ってくるかもわからない。
その時、ハッペル上空で何やらエンジン音がする。
挺身隊のみんなもその見慣れないところの音に困惑していた。
そして崩れかけの教会の影から一つ影が飛び出してきた。
「リっ、リリスっ!あれっ!」
「あれは…」
それは尾翼にテニーニャのマークが印刷された複葉機が空高く舞い上がっている。
それを見たルナッカーも思わず声が漏れる。
「高い…あんなに高く飛ぶ航空機は初めてだ…」
その航空機はハッペル上空を複数回くるくる旋回したかと思うとすぐにもと来た方向へ去っていった。
挺身隊内にもざわめきがが広がる。
「リリス…あれって…」
「すごい!航空機だ!あんなに高く飛んでいるのなんて見たことないよ!ねぇベルちゃん!」
「え?まぁそうね…」
「なになに何が起こったの?」
安静にしていたメリーが医療テントから出てくる。
「メリーちゃん!すごいよ今航空機が飛んできた!」
「航空機?あの空飛ぶ乗り物のことですの?」
「うん!」
リリスは興奮冷めやらぬといったぐあいにハキハキと喋る。
「テニーニャの航空機がなぜ私達に演舞を…?」
「違うメリー、あれは演舞なんかじゃない」
ルナッカーが空を見上げたままつぶやく。
「航空機はもう楽しい乗り物じゃないんだ、いよいよテニーニャが航空機を戦争に使おうとしてきやがった」
「え?航空機を戦争に?」
リリスが突っかかる。
「そうだ、聞いたことがある。
テニーニャが航空機の性能向上に勤しんでいると。
あれはきっと航空機を使った空偵に違いない。空から見て占領されたハッペルの現状と戦力を確かめに来たんだ」
「それってまずいことでじゃ…」
「ああ、非常にまずい」
メリーが胸に手を当て少し悲しげな表情で嘆く。
「いよいよ航空機も戦争の道具になってしまうのですね、あれを見るまで航空機は夢を載せて大空をかける魅惑の乗り物だと夢想していたのですが…」
「そうだな、使えるもんはなんでも使う、飲み込めるもんななんでも飲み込む。
技術も道具も国も命も、それが戦争だからな」
広場に悲しげな雰囲気が漂う。
薄々予見はしていたが、ついに夢の乗り物が実践に投入されたとなると、もううかうかと夢を見ていられなくなった。
自分たちの安全を脅かすそんな道具へと変わっていってしまった。
少尉が続けて言う。
「…それに、あれに機関銃とか爆弾とかくっつけるとどうなるのかな?きっととんでもないことになるぞ。
ロディーヤはまだまだそういう面で遅れているからな、航空機をあの高さまで飛ばすほどの技術は…」
「それに、航空機が脅威になるのでしたらやはり撃ち落とさなければいけなくなるのですね、あれを地上から狙うのはそこらの機関銃では無理ですわ」
「そうだね、やられっぱなしとはいかないもん」
「おいおい、リリスにメリー、あれは鴨じゃないんだ機械の鳥だぞ?しかも人間の知能付き。
狩りじゃないんだから」
ウェザロがやれやれといった具合でやってくる。
航空機が戦争に使われたとはいえ、少女たちにとっては魅力的な乗り物だった。
それの人類の輝かしい技術を敵だと認識するのは少し難しかった。
一方、テニーニャ国防軍側では。
「よし、ハッペルには挺身隊しかいないんだな」
そうつぶやくのは国防軍の少佐、ハーミッド・フロントだ。
「ハッペルはほぼ無防備というわけか、だがだからといってあんな遠いところに何人も送るわけにはいかんな、ではどうするか…」
少佐にが寝床に就きながら目をつぶって考える。
そしてしばらくすると急に起き上がり、
「そうだそうだそれを使おう、我が国の技術の集大成、なぜ思いつかなかったんだ」
少佐は寝床からゆっくり起き上がると、そのまま受話器に手をかける。
「ああ、私だ、そうだフロントだ。
あれを使うんだ、え?何?あぁ問題ない。
そろそろ新しい的が欲しかったところだ」
少佐の口が獲物を見つけた獣のようになっている。
その享楽に満ちた声色は電話越しからでも感じ取れた。
少佐が薬指と人差し指、親指を直角にして両手で長方形のフレームを作る。
その指の隙間から冷徹な殺人鬼のような目が浮かぶ。
「さぁ、挺身隊諸君覚悟したまえ。
本物の戦闘を言うものを教育えてやろう」




